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獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~  作者: 鈴田在可
故郷編

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19 夜這い

 昼餐会も終わりになる頃、ヴィクトリアはシドの元に戻った。

 夜からはまた祝いの宴会が始まるが、それまで時間がある為、一度解散となる運びだ。


 元々、ヴィクトリアは本日の夜の宴会だけは何とか欠席できないかと思っていた。


 リュージュとサーシャの結婚を祝うのが名目なので、リュージュも夜の宴会には出席する。

 リュージュが宴会に出るのは、リュージュがシドに物言いをして一触即発になったあの事件以来だ。


 祝宴とはいえ中身はいつも通りの宴会。シドはいつも通りにヴィクトリアに手を出すだろうし、リュージュはそれを見て見ぬふりはしないだろう。結婚式を挙げたおめでたい日に揉め事が起こるのは何としても避けたかった。


 この件に関してはこっそりウォグバードに相談もした。というか向こうから会いに来た。






******






 宴会を差し障りなく欠席するには仮病しかない、というのがウォグバードとの共通認識だった。ヴィクトリアが熱を出していたり具合が悪い時には宴会にお呼びがかからない。シドはあれでヴィクトリアのことをよく見ている。

 しかし本当は健康なのにただ病を偽っただけでは、勘の良いシドはすぐに見抜いてしまう。「本当に身体の調子を悪くするしかない」と言って、ウォグバードはどこから仕入れてきたのか、微量の粉薬を出してきた。


「これは?」と聞くと、毒だと返された。


 飲めばすぐに身体がだるくなり熱が出始めるという。予備も含め三包くらい渡されたので、宴会にどうしても出たくない時があったら使ってみようと思ったのだが、「多用すると子が出来なくなるから扱いには注意するように」と言われた。


 面食らうヴィクトリアにウォグバードは、「そのくらいの量を一回服用した程度では問題ないと思うが」と付け加えた。


 完全に安全とは言い切れないのかもしれないが、ヴィクトリアはこれから先自分が番を持つことは一生無いような気がして、仮にそうなっても構わないと思った。


 子供が出来なくなるような危ない薬の存在をどこで知ったのかと聞いたら、「自分は番との間に子が出来なかったので、そっち方面の知識に詳しい」とだけ言われた。






******






 ヴィクトリアは結婚式の終盤から起こった体調不良を理由に夜の宴会の欠席をシドに申し出た。


 もし認められなかったら部屋に戻って粉薬を飲むつもりだったが、結果は、拍子抜けするくらいにあっさりと了承された。











 昼餐会を終えたヴィクトリアは自室に戻って来ていた。


 ヴィクトリアはワンピースを脱いで浴室に向かった。本日の結婚式関連の出席は全て終わったので、湯を溜めて身体を洗い、念入りに施した化粧も落としてしまう。

 

 ウォグバードと式当日の宴会欠席について画策していたわけだが、正直、おかしな薬を飲まずに済んで安堵した。

 シドに欠席を願い出た時には体調はだいぶ回復していて、却下されるような気もしていた。

 なのにあまりにもすんなりと認められたので、違和感を感じなくもなかった。


(薬の受け渡しはシドが「狩り」で不在の時だったし、保管も例の()()()()と同様に石鹸箱の中だったから、粉薬の匂い自体には気付かれてはいないと思うけれど)


 ヴィクトリアは浴室から出ると普段着に着替えた。髪の毛をある程度乾かしたあと、テーブルの上に母の形見の短剣を置いて、眺める。


 ヴィクトリアはその短剣に、とある細工を施した。











 宴会用の食事を部屋に届けてもらえたので、一人で夕食を済ませた後、ヴィクトリアはもう一度を湯浴みをした。シドの匂い消しの習慣が高じて、ヴィクトリアはすっかり入浴好きになっていた。暇な時は一日三回でも四回でも入る。他の里の面々と違い、労働を課されていないヴィクトリアには時間はいくらでもあった。

 最低でも一日一回は入浴するなりシャワーを浴びる。入らないなんて選択肢は無い。たとえ高熱が出ていてもそれを押して入る。


 湯浴みを済ませたヴィクトリアは、テーブル上の電光灯の明かりの下で本を開いていたが、考え事をしていて同じ頁を開いたままずっと先に進んでいかなかった。


 夜も更け、下から宴会の騒音が聞こえなくなってしばらく経つ。なかなか眠くもならない。頭を切り替えるためにもう一度入浴するか、それとも寝間着に着替えて眠れないのを覚悟で寝台に横になるべきだろうかと考えながら、本を本棚に戻した時だった。


 ヴィクトリアの身体が強張った。窓から入り込む夜気がヴィクトリアの頬を撫でていく。


 ヴィクトリアは努めて冷静を装い、背後の人物を振り返った。


「窓から入って来ないでくれる?」


 窓際に、鮮やかな赤い髪をした男が立っていた。シドは血のような赤い瞳に静かな欲望を湛えている。


 ヴィクトリアの心臓は自身の鼓動が聞こえるくらいに強く脈打ち始めていた。胃の中を冷たいものが滑り落ちて行く。


 身体は動揺していたが、しかし頭は意外と冷静だった。これまで何度も何度もこの光景を想像し、対応をずっと考えてきたからかもしれない。


(何とか無事にこの状況を乗り越えなければ)


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