14 一生お父さまだけ
R15注意
【大注意】(義理)近親的内容注意
「ヴィー、お父さまの――――」
シドが口調を変え、ヴィクトリアに愛称で呼びかけた。
幼い頃は一度も呼んでくれなかった愛称をシドに呼ばれて、瞬時に潤んだヴィクトリアの水色の瞳から、ポロポロと涙の粒が溢れた。
「うん……っ! 愛してますお父さま!」
自分たちは確かに義理の父娘関係で、ヴィクトリアは番になってからそのことに悩んだこともあったが、今では受け入れている。
泣きじゃくるヴィクトリアをシドは愛した。
「お父さまだってヴィーじゃないと駄目なんだよ。お父さまを捨てて他の男と寝てはいけないよ。お父さまが先に死んでもヴィーはお父さまだけのものだよ」
ヴィクトリアは鼻を焼いているので、他の男との行為が出来ないわけではない。
シドはヴィクトリアの浮気を懸念していて、ことあるごとに「一生俺だけ」と約束させてくる。
獣人界最強の男の番に手を出す不届き者はいないはずだが、シドの死後はわからない。
実際に、ヴィクトリアの幼馴染アルベールは、シドの寿命が尽きた後に、ヴィクトリアの番の座を狙ってるらしい。
ヴィクトリアは、シドにそう注意喚起された時は眉唾ものだと思っていたが、先ほど夢の中で会ったマグノリアに一応聞いてみた所、「そのつもりみたいよ」という答えが返ってきた。
アルベールは、シドとヴィクトリアが帰還してリュージュが里を出て行ったあの日に、「安全のためにこの里から出るように」と両親にかなり説得されたそうだが、「俺は残る」と言い張り梃子でも動かなかったらしい。
その後アルベールは、ヴィクトリアの知らぬ間にシドにボコボコにされた後、「ヴィクトリアを見るな近付くな同じ空気を吸うな」と言い含められた上で、臣下の地位を剥奪されて料理人にさせられたそうだ。
今は同じ料理人のオニキスの監督の下で過ごしているらしい。
ちなみに、マグノリアは里を出たリュージュとウォグバードに接触したそうで、彼らが人間社会でも暮らしていけるようにと協力を始めたらしい。
ウォグバードはシドからもらった金塊を元手に、リュージュと共に剣術道場でも始めようかと話しているそうだ。
そしてレインは―――― ヴィクトリアがシドと番になったことを知り、再起不能なまでに落ち込んで廃人になりかけたらしいが、見かねた他の魔法使いによって、ヴィクトリアに関する記憶を消されてしまって、今は元気に過ごしているらしい。
レインもリュージュも――アルベールだけはちょっと怖いけれど――それぞれの人生を歩み出している。
この先シド以外の男の人と番になるなんて、絶対に起こらないはずだとヴィクトリアは思う。
しかし、『でもほら、人生って何が起こるかわからないから』と、マグノリアには、いつか言われたことと同じ言葉を言われている。
ヴィクトリアの番はシドだけだ。そしてシドの番も、自分一人だけの状態がいいなと思う。
ヴィクトリアは他人の番関係を勝手に解消するなんて酷いことだという考えから、少し葛藤はあったが、シドに愛される中で決意が固まり、夢の中でマグノリアが提案してきた例の策を受け入れることに決めた。
「はい! 私は一生お父さまのものです! 私はお父さましか駄目なんです!
だから、他の女の人の所へは行かないでください!
私だけを愛して!」
ヴィクトリアの「唯一宣言」を受けたシドは、一瞬大きく目を見開いた後、本当に嬉しそうに笑んだ。
「――――――俺は元からそのつもりだ」
ヴィクトリアは大きな幸福を感じた。
ヴィクトリアは寝落ちしかかったが、シドはしばらく寝かせなかった。