7 さよならリュージュ
R15注意
シリアス展開注意、寝取り(寝取られ)注意
「起きろ、ヴィクトリア」
最愛の男に名を呼ばれるのと共に、反射的に口から溢れる自分の声を聞きながら、ヴィクトリアは瞼を開けて眠りから目覚めた。
周囲は緑の樹木に溢れていて、今いるのは森の中のようだった。
スカートに隠れて見えないが、シドは寝ているヴィクトリアと始めていた。
森の中に声が響き、ヴィクトリアは目の前にいるシドに強くしがみついた。
「ヴィクトリア、――――」
シドが初めての宣言をしてきたので、ヴィクトリアの瞳は喜びに輝いた。
「シド、愛してる」
ヴィクトリアは愛を口にすると、シドの唇に自分からキスをしにいった。
「ヴィクトリア、幸せか?」
「うん、幸せ」
ヴィクトリアは迷わずにそう答えた。
シドは何を思ったのか立ち上がると、どこかへ移動し始めた。
ヴィクトリアはシドに身を任せていたが、途中から顔色がみるみる青くなっていった。
泣き声が聞こえる。
ヴィクトリアは森の中で起こされてからずっと、彼の存在にも、匂いにも、全く気付かなかった。
リュージュはおそらく魔の森の中でヴィクトリアの帰りを待ち続けていたのだろう。
ヴィクトリアは顔を上げられなかった。シドの胸に顔を伏せた状態でも、リュージュがその場に膝を突いて、号泣している様子が嗅覚でわかる。
状況に流された結果だとしても、ヴィクトリアの番がシドになったことは、リュージュにとっては絶望でしかないのだろう。
シドの処刑の前々日、リュージュがヴィクトリアを手放したのは、リュージュの本心ではなくて、ヴィクトリアの心を守るためだった。リュージュは決して、ヴィクトリアがシドと番になる結末は望んでいなかったはずだ。
ヴィクトリアは唇を噛みしめて必死に声を出さないようにしていた。
シドはリュージュのいる場所へ向かって真っ直ぐに進んでいた。ただ泣くばかりのリュージュが逃げる気配は微塵もない。
(殺さないで! お願い殺さないで!)
口は引き結んだまま、ヴィクトリアは目線だけでシドにそう訴えた。
これまでのシドであれば、ヴィクトリアに手を出そうとする男がいれば絶対に許さなかった。
リュージュとは番になる直前までいったので、ヴィクトリアはシドが怒りの勢いに任せて、リュージュを殺してしまうのではないかと思った。
けれど、飄々としているシドの顔に怒りの表情は見えない。
「わかってる」
(…………シドは、私にとってはリュージュが大事な存在だって、受け入れてくれたのかしら?)
シドは一言しか言わなかったが、番になってから何となくの以心伝心のような心の動きがあって、ヴィクトリアはシドにリュージュへの殺意はないようだと汲み取った。
リュージュはこの里で孤独感を募らせていたヴィクトリアを救ってくれた唯一の存在だった。
『シドは私の大事なものは壊さないのでは?』と、ヴィクトリアはシドのことを信じた。
シドは崩れ落ちた様子で号泣し続けるリュージュの前に立った。
「こいつは俺のだ」
ヴィクトリアはシドの胸に顔を埋めたまま、リュージュの方を見ることができなかったし、何も言えなかった。それはリュージュも同様で、下を向き涙を流していて言葉は発しない。
「里から出ていけ。二度とそのツラ見せるな」
その言葉に驚いたヴィクトリアは顔を上げ、シドに非難を込めた視線を送った。リュージュを里から追放するなんて、許せないと思ったからだ。しかし――――
「わかりました。出て行きます」
リュージュのその答えは、ヴィクトリアの心を抉った。
「そんな、リュージュ……」
ヴィクトリアはリュージュを振り返ったが、その時にはもうリュージュは踵を返していて、ヴィクトリアたちには背を向けていた。




