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獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~  作者: 鈴田在可
シドハッピーエンド 王の女

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4 番になる

R15注意

 ヴィクトリアは、これまで守ってきた純潔を、よりにもよって一番渡したくなかった相手(義父)に散らされてしまった衝撃に、一瞬呼吸を忘れた。


 自分の母親と何度も寝ていた男と身体を繋げるなんて、正気の沙汰ではないはずだ。それでなくても様々な女と関係した男と身体を繋げるなんて、獣人としては有り得ないことである。


 しかしヴィクトリアは、自分たちがもう戻れない一線を越えてしまったのだと感じた。


 ヴィクトリアは、二度とシドのことは父親とは思えないだろうと思い、そのことに悲しみを覚えた。


 そして何より、愛するレインを裏切ってしまった罪悪感に、心の中がバラバラになりそうだったが――――


 伸びてきたシドの手により鼻を摘まれたことで、混乱は一旦落ち着いた。


「大丈夫だ」


 見上げれば、こちらを観察するような赤い瞳と目が合った。シドはヴィクトリアを安心させるような優しい声音を出した。


「ヴィクトリア、愛している」


 そう告げながら、ヴィクトリアをじっと見つめるシドの赤い瞳の中には、おそらくヴィクトリア限定かもしれないが、こちらへの慈しみの情や思いやりや優しさといった、愛情に満ちた思いが確かに存在していた。


「……あ、い…… 愛…………」


「そうだ。俺はお前だけを愛している。だからお前も俺だけを唯一愛してくれ」


 どこか懇願するような響きと共に、シドは色気を滲ませた低い声で甘く囁いた。






「ヴィクトリア、愛している…… 俺を受け入れてくれ」






 ヴィクトリアは身も心も全てが壊れそうになってしまって、何もわからなくなった。


 ヴィクトリアの脳内で硝子の割れた音が響き、その後すぐにカチカチカチという不思議な音が鳴った。


 ヴィクトリアは自分の全てが引っくり返されて作り変えられてしまったかのような感覚を味わって、呆然としていた。


 いつしか鼻を摘まれていた手は外されて、ヴィクトリアはシドの両腕に抱きしめられた状態で口付けていた。


 ヴィクトリアは改めて自分はキスがすごく好きなのだと知った。


「ヴィクトリア、全部覚えていてくれ。俺の匂いを忘れるな」


 シドの言葉の意味から、自分も彼の他の女たちと同様に鼻を焼く必要が出てくるのだろうと感じて、ヴィクトリアはシドが過去にたくさんの女たちと愛し合っていた事実を突きつけられた気がして、胸を抉られたような気持ちになった。


「悲しむな。俺が愛しているのはお前だけだ」


 シドはそう言ってまた口付けてきた。






「明日になったらまた風呂に入れてやるから、今日はもう休め」


 処刑場から離れた後ヴィクトリアはいつの間にか気絶していて、目を覚ましてからの展開も怒涛すぎて前後のことも良くわかっていなかったが、シドとヴィクトリアは一度入浴を済ませていたらしい。


 起きた時はまだ昼間だったはずだが、部屋の中は既に真っ暗だった。


 獣人は暗くても嗅覚で周囲のことはある程度わかる。


 ヴィクトリアが今いる部屋は、石造りや木製の硬い床とは違う、干した草を密に編み込んだ珍しい素材の床をしているし、飾り棚には高級そうな壺もあって、芳しい香りを放つ花々が綺麗に生けられている。


 二人が今寝そべっている寝具も、いつもの寝台とは違って、枠のない低い寝具が使われていた。


 そこまで周囲を探った所で、ヴィクトリアは獣人の重要な感覚である嗅覚を無くさないといけないのは、悲しいことだという気持ちを持った。


 けれどこのあとシドは里に帰るのだろうし、里にはシドの女たちも住んでいるから、彼女たちとシドが関係した匂いを目の当たりにすれば、番ではなかったこれまでとは違い、とても苦しい思いをするのだろうと簡単に予想はつく。


 ヴィクトリアは、番になり最愛の存在になったシドと生きていくためには、「嗅覚を失うことも受け入れざるをえないこと」だと、腹を括るしかないと思った。


 ヴィクトリアは暗闇の中でこちらを抱きしめて微笑んでいるシドの存在だけを感じながら、疲れた身体を休ませるべく、目を閉じた。


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