2 彼らの敗北
短めです
シリウス視点
ヴィクトリアがシドに連れ攫われた場面で、処刑場にナディアが現れた。
シドが逃げ出したことで、シドに意識を向けて後を追おうとする銃騎士隊の面々の中には、ゼウスもいた。
ゼウスよりも早くナディアが処刑場に現れたことに気付いたシリウスは、即転移魔法を発動させて、ナディアと共に別の安全な場所に移動した。
シリウスが何度か転移魔法を繰り返し移動した先は、首都から遠く離れた、二番隊が諜報で使うこともある一軒家だった。
今度こそ「危険だから動くな」とナディアを説き伏せた後、シリウスは再び首都近郊に戻ってきた。
シドの動きは目茶苦茶に早く、馬を使っている銃騎士もいたが、シドの姿を捉えて的確に後を追えているのは、魔力切れで気絶してしまったジュリアスを除く、アーク・ノエル・セシルの魔法使い三人だけだった。
三人は魔法を使い、他の銃騎士たちにもシドの場所を知らせて、捕獲のために動いていたが――――
「追うな」
転移魔法で彼らの前に現れたシリウスは、その動きを止めた。
「シドの後を追えば、父さんもノエもセシも俺も、全員死にかねない」
シリウスはそう言った後、血が滲みかねないほどに拳を握り締め、苦渋に満ちた声で絞り出すようにこう付け加えた。
「俺たちは、負けたんだ……」
「無茶なのはわかっています。ですが、だからといってこのままシドを取り逃がす訳にはいきません」
「そうだよ、どんな報復を仕掛けてくるかもわからないし」
「いや、姫さん―――― ヴィクトリアがいる限りは、大丈夫だ」
意を唱える弟たちに対し、シリウスはそう返した。
シリウスたちでは制御不能であるシドと、世界の平和を、たった一人の少女に背負わせてしまうことは、かなり酷なことだとシリウスもわかっている。
自分たちが何もしなければ、ヴィクトリアはシドと番うしか道はない。
他の異性と関係のある者と番になるのは、鼻を焼き嗅覚を失う苦しみに加えて、常に自分の最愛の人を他の異性に取られているような、途方もない精神的苦痛も伴う。
けれどシリウスは、ヴィクトリアが苦しみを突き抜けた先で導く平和的な未来が、実現してほしいと祈る気持ちで、その『未来視』を父と弟たちの頭の中に展開させた。




