12 金と銀の天使
R15注意
出産の内容あり
アルベールが里には帰りたくないと言ったことと、ヴィクトリアもマグノリアに魔法を教わりたかったこともあって、山の中で思いを通わせ合った後、二人はロータスたちの家に身を寄せることにした。
既にヴィクトリアを受け入れていた一家は、アルベールのことも受け入れてくれた。ヴィクトリアの妊娠が確定し、悪阻で苦しむようになったヴィクトリアを、アルベールは幼い頃のように、真綿で包むように大切にしてくれた。
アルベールは積年の思いが成就し、ヴィクトリアと番になれたことで情緒が安定したらしく、攻撃性は鳴りを潜め、まるで人が変わったかのように優しくなった。
アルベールはヴィクトリアの身の回り世話を文字通り全部行いながら、ロータスに師事して医術を学ぶようになった。
アルベールはヴィクトリアと胎の子供と共に、里の外で生きていくことが希望のようだった。ロータスたち一家と同じように、ヴィクトリアの魔法で人間に擬態しつつ、「医師をしながらどこかの僻地で暮らしたい」とアルベールが言ったので、ヴィクトリアもそれを了承した。
ただ、『過去視』で見た時に、かなり幼い頃の話ではあるが、アルベールはロータスに激しく嫉妬していたので、師匠と弟子という関係性になる二人が、ちゃんとやっていけるのか少し心配だった。
しかし蓋を開けてみれば完全に杞憂で、ヴィクトリアが調子の良い時に階下に様子を見に行けば、アルベールとロータスの二人が仲良く談笑している場面を多く見かけた。
「ロイさん? 嫌いじゃないよ」
ある時、アルベールにロータスのことを何気なく聞いてみた所、そんな返事が返ってきた。
「何ていうか、リュージュに似てるよね」
アルベールは番になってから、リュージュの名前はあまり口にしたがらなかったので、ヴィクトリアはアルベールが自分からリュージュの名を出してきたことに驚いた。
「そうね…… 笑い方とか良く似てるかも」
リュージュとは一日だけ付き合ってすぐに別れてしまったが、一応元彼なので、アルベールが嫌な気持ちになるのではないかと、リュージュの話題は意識的に避けていた。
けれど今、リュージュに関することを発言するヴィクトリアを見ても、アルベールは愛しいものに向ける視線は変わらないままで、微笑んでいる。
番になって最初の頃に、アルベールは「里に帰りたくないのはリュージュと同じ場所でヴィーと暮らすのが嫌だから」と言っていた。けれどアルベールの心情はその頃からは少し変化しているようで、自分たちの絆は何があっても壊れないと確信しているようだった。
それはヴィクトリアも同じ気持ちだった。始まりこそ寝込みを襲われて番になったが、今はアルベールに何をされてもいいくらい、彼のすべてを愛している。
ヴィクトリアは、予定日よりも一ヶ月ほど早く女児を出産した。
早産ぎみになってしまったのは、たぶん安定期になってからもう大丈夫だろうと始めた営みのせいかもしれないと思って、ヴィクトリアは後々かなり反省した。
アルベールは色々と考えながら加減していたようだが、ヴィクトリアの方が盛り上がってしまい、気付いたら予定より早く陣痛が来ていた。
ヴィクトリアの身体はあまり出産に向いていないらしく、本当は帝王切開で産む予定だった。
「俺ならできる」と自信満々なアルベールが執刀して取り上げる予定で、傷痕も治療魔法で何とかする手筈だったが、「今なら下から産めるかも」というマグノリアの一言により、ヴィクトリアは自然分娩で出産した。
始めての出産はすごく痛かったけど、アルベールがずっとそばに付いて励ましてくれたし、三人で幸せになるのだと思えば乗り越えることができた。
「ヴィー、お疲れ様。ほら、俺たちの天使だよ。小さくてすごく可愛いね」
アルベールは柔らかく微笑みながら、腕にとても小さな赤ん坊を抱えていた。アルベールは布に包まれたその赤子を、寝台にいるヴィクトリアの横に寝かせてくれた。
「本当に天使だわ……」
ヴィクトリアは幸せ全開で感嘆しながら我が子を見つめた。小さくてとっても愛らしい宝物のようなその子は、つぶらな瞳でヴィクトリアを見ていた。その目はアルベールに似た金色で、髪の毛はヴィクトリアに似た銀髪だった。
「顔はヴィーの赤ちゃんの頃にそっくりだよ。きっとすごい美人になる。変な虫が付かないように気をつけないと」
二人は女児に、「天使」の意味を持つ「アンジェ」という名前を付けた。




