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獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~  作者: 鈴田在可
アルベールハッピーエンド あなたと生きる道 ~嫌われ幼馴染の逆転劇~

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9 まさかの

最後にどんでん返しです

『遠視の魔法』で見守っていると、『解毒魔法』の効果で「麻酔草」の成分が無効化したらしく、やがてアルベールがゆっくりと瞼を開け、その金色の瞳を顕にした。


『ヴィー……』


 頭の中に展開されている『遠視』の絵の中では、アルベールが起き抜けにヴィクトリアを呼んでいて、彼の声が脳内に響いた。


 上体を起こしたアルベールは、警戒するように馬車の中を見回した後、近くにあった自分の服を引っ掴んだ。


『ヴィー!』


 アルベールは服をざっと着込むと、ヴィクトリアを呼びながら慌てた様子で馬車の外へ飛び出した。


 アルベールは身なりに気を使う人なので、服を整えずに胸元なども間けたまま外へ出ることは、かなり珍しいことだった。


『ヴィー! どこだ! ヴィー! ヴィー!』


 いつも余裕ぶった振る舞いをすること多いアルベールだったが、今や彼は顔面蒼白で、必死な様子でヴィクトリアを探し続けていた。


 たぶんヴィクトリアが転移魔法で馬車付近から離れたために、アルベールは嗅覚でも行方が追えず、激しい不安に苛まれているようだった。


『ヴィー……っ! ヴィィー……っ!』


 そのうちにアルベールが泣き出してしまった。号泣しながらヴィクトリアを探し回るアルベールの姿は、愛を求めて彷徨う小さな子供のようだった。


 ヴィクトリアはそんなアルベールを見ていられなくて、『遠視の魔法』を解いた。


 ヴィクトリアはアルベールには何も告げずに去るつもりだった。


 番を失うことでアルベールに苦しい思いはさせてしまうのだろうが、それでも構わないと思うくらい、ヴィクトリアはアルベールのことが許せなかった。


(マグに相談して番関係を無効化できれば、きっとアルも苦しみから解放されるはずよ……


 そんな魔法がなかったとしたら、私もアルも、鼻を焼くしかないけれど――――)


「ヴィィィィーーーーッ!!」


 転移魔法を発動させる直前、山の向こうからヴィクトリアの愛称を絶叫するアルベールの声が聞こえてきたが、ヴィクトリアは彼を振り切るようにその場から去った。











 ヴィクトリアが転移魔法で移動した先は、ロータスとマグノリアの家のリビングだった。ヴィクトリアは膨大な魔力量を保持していたために、一度の転移で戻ることができた。


 家にはまだ誰も帰ってきていない様子で、とても静かだった。


 本当はすぐにでもマグノリアを探して相談したかったが、最後に聞いたアルベールの悲痛な声が耳から離れず、何も考えたくなくて、ヴィクトリアはとにかく休もうと、覚束ない足取りでリビングを出た。


 やって来たのはこの家の寝室だった。マグノリアの魔法が切れたままだったらしく、朝と同じように夫婦生活の残り香が凄かったので、ヴィクトリアは魔法でそれらの匂いを消した。


 ヴィクトリアはついでに、アルベールの匂いが強く残る自分の身体にも、『匂い替えの魔法』をかけて彼に抱かれた痕跡を隠してから、塞ぐ気分のままにふて寝した。






「……ィー…… ヴィー……」


 男性に名前を呼ばれている。無意識に金色を思い浮かべながら、ヴィクトリアは目を覚ました。


 寝台のそばにいてヴィクトリアを呼んでいたのはロータスだった。ロータスには魔法がかかっていて、黒髪黒目の「ロイ」の姿になっていた。


 ヴィクトリアは半日前まで、黒髪の男性を見ると切なさを感じていたが、今はもう何も感じない。


 ロータスの肩には、おそらくマグノリアが札で作り出したのだろう、白い鳥が止まっていた。


「ヴィー……」


 ロータスはヴィクトリアを呼びながら、すごく心配そうな視線をこちらに向けている。


『ヴィー』


 ロータスの声に続いてマグノリアの精神感応(テレパシー)の声も聞こえてきた。


 ヴィクトリアは寝起きのぼーっとした頭で、『今の声はマグの精神感応の声で……』などと考えていたが、続けて発せられたマグノリアの精神感応の言葉に、驚きすぎて一瞬で眠気が吹っ飛んだ。











『ヴィー、あなた…… 妊娠してるわよ』


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