7 嫌われ幼馴染
R15注意
「ううっ…… ヴィー……」
泣きじゃくっていたヴィクトリアは、寝ていたアルベールが僅かに呻き声を上げて、自分の愛称を呼んだのを聞くと、「ひえっ」と顔を引きつらせて涙も動きも止めた。
ヴィクトリアはアルベールが起きてしまったのだろうかと怯えたが、彼は尚も目を閉じたまま、ハァハァと呼吸を荒げていた。
「ヴィー……! ヴィィィッ……!」
ヴィクトリアを呼びながら、アルベールは――――
ヴィクトリアは戦々恐々としながら、アルベールのとんでもない姿を目撃してしまった。
(無理! 無理っ! 無理無理無理無理無理っ!)
ヴィクトリアはアルベールを見つめながら絶望的な気分になっていた。
(これから先も一生、アルの番として、アルと営みをし続けるなんて、私にはとても無理よ……)
大嫌いな幼馴染に知らない間に身体を奪われ、獣人にとってはとても大切な「番」を勝手に決められてしまい、衝撃的な光景を見て体験もしてしまったヴィクトリアの心は限界だった。
(逃げよう)
ヴィクトリアはアルベールの目が覚めたら、また無理矢理✕されるのではないかと恐ろしくて、一刻も早くここから離れたいという思いに取り憑かれていた。
アルベールとは確かに身体を繋げてしまったようだが、それなのにヴィクトリアは、番になれば当然相手に強く感じるはずの愛情よりも、アルベールに対して未だに生理的嫌悪感の方を強く感じていた。
アルベールと本当に番になったのかと疑いたくなるほどだ。
また涙が溢れそうになるのを堪えたヴィクトリアは、床に散乱していた服を集めて着ようとした。
しかし、服や身体は汚れているし、おまけにアルベールが付けまくったのだろうキスマークもびっしりとあって、首筋だって噛まれたらしく血が出ている。
「あ、魔法……」
色々と酷い状況にズーンと気分が落ち込んでしまったが、首の傷や身体の重苦しさと、それからキスマークも治療魔法でなんとかできるのではと思い、ヴィクトリアは自分自身に魔法をかけてみた。
そして、昔魔法書を読んだ記憶を頼りに『浄化魔法』を、自分と馬車の中にかけて、一応アルベールにもかけた。
綺麗になった服を着込んだヴィクトリアは、じっと床に倒れたままのアルベールを見つめた。
服を着せた方がいいのかもしれないが、アルベールには触りたくなかった。
ヴィクトリアはこの男をこのまま放置して行きたいと思ったが、山中で停まっている不審な馬車の中に裸の男がいたら騒ぎになりそうだし、獣人だとばれようものなら、殺されてしまうかもしれない。
毒の後遺症のこともあるので、アルベールをこのまま残していくのは良くないと思った。




