6 アルなんて大っ嫌い
R15注意
意識なし襲われ注意
『――――――』
甘ったるい声がどこからかともなく聞こえてくる。
ヴィクトリアはぼんやりとした思考と霞がかった視界の中、揺れる金色を見ていた。
ヴィクトリアは一体何が起こっているのか良くわからなかったが、身体に異変が起っていることはわかった。
ヴィクトリアは自分が自分ではなくなってしまうような焦燥感を感じながらも、目の前の男に身を委ねた。
ヴィクトリアは何も考えられなかった。
『好き…… 好き……』
ヴィクトリアは男に抱き付きながら、獣人の本能が赴くままに、うわ言のように彼への好意を口にした。
男はヴィクトリアの首筋に口を寄せ、噛み跡から血を啜っている最中だったが、ヴィクトリアの愛の告白を聞いてハッとした表情になり、吸血を止めた。
『嬉しい…… 俺も好き…… 世界で一番愛してる』
男は感極まった声音でそう言い涙ぐむと、ヴィクトリアに口付けた。
「ひょっ、ひょええぇぇぇっ!」
ヴィクトリアはそれまで、顔も輪郭もおぼろげな金色の髪の男と✕✕っていたのは、夢の中の出来事だと思っていた。
しかし、気が付いた時にはそれは夢じゃなくて現実で、ヴィクトリアは顔を真っ青にしながら、悲鳴にも似た素っ頓狂な声を上げていた。
ヴィクトリアはアルベールとの行為で汗をたくさん掻き、噛まれた首元の傷から血と流していたため、図らずも摂取させられた麻酔成分を体外に排出していた。
ヴィクトリアは最初に半覚醒の状態になってからも、しばらくは夢うつつなままだった。
しかしアルベールはキスした後から意識を失っていた。
アルベールはそれまでヴィクトリアに何度か口付けていたことで、彼女の口内に少しだけ残っていた麻酔成分を摂取していたし、ヴィクトリアの血中に薄まりながらも残っていた麻酔成分を吸血行為で取り込んでいた影響もあり、事後というとんでもない場面で眠ってしまった。
アルベールとは反対にヴィクトリアは徐々に本覚醒していき、そこで、金髪の男――アルベール――と✕✕していたことが、夢の中の出来事ではなくて現実だと知った。
意識を完全回復させたヴィクトリアは素っ頓狂な声を上げた後に、アルベールを思い切り突き飛ばした。
ヴィクトリアは、幼い頃に一緒にお風呂に入った時以来の、成長してからは初めて見るアルベールの身体を見つめて動揺していたし、頭の中もかなり混乱していた。
(アルに純潔を奪われた……)
ヴィクトリアは川辺で魚を食べていたはずなのに、気付いたらエッチな夢を見ていて、でもそれは夢じゃなくて現実だった。
ヴィクトリアはアルベールに裏切られたように感じていた。
(前から酷い人だったけど、意識のない状態で襲ってくるなんて、最低中の最低よ!)
アルベールとは番になってしまったのだろうが、番を得られたという幸福感はまるでなく、それよりも、無理矢理身体を奪われたという、悲しみと悔しさの方が強かった。
「アルなんて大っ嫌いよ…… 馬鹿」
ヴィクトリアはそう独り言ちて、泣いた。




