9 私の王子様
R15注意
「ヴィクトリア…… ヴィクトリア……」
リュージュがヴィクトリアの名前を繰り返し呼んでいる。
ヴィクトリアはリュージュにとても大切に愛されていると感じられて、嬉しかった。
ただ、このままでは妊娠してしまうと思ったが、リュージュの子供なら何人でも欲しいと思ったヴィクトリアは、喜んでリュージュに身を委ねた。
実は避妊薬を飲まされていたと聞き、ヴィクトリアがちょぴり残念に思うのは、翌日になってからの話だった。
疲れていつの間にか眠りに落ちていたヴィクトリアは、目を覚ました。
「ヴィクトリア、起きた?」
「うん…… リュージュ……」
返事をしようとすると、寝る前は出しにくかった声が、比較的元の通りに出せることに気付く。
たぶん、リュージュとの交わりによって魔力が回復してきた証なのだろうと思った。
ヴィクトリアを生かしてくれるリュージュの生命の源によって、全身が満たされる。
ヴィクトリアは、リュージュがいてくれる限り、自分が死ぬことはないのだろうと思った。
ヴィクトリアはリュージュの翻弄され続け、いつの間にかまた心地良い眠りに落ちていた。
次に目を覚ました時、部屋の中は既に白み始めていて、朝が来た様子だった。
ヴィクトリアの目の前には、流石に疲れたのか眠っているリュージュの寝顔があった。
最近はすっかり精悍な顔付きになってきたが、眠ると昔の可愛らしい面影が見え隠れする。
ヴィクトリアはリュージュへの愛しさが溢れてきて、彼の唇に自分からキスをした。
ちゅっと音を立てた程度の軽めのキスだったが、リュージュはすぐに目を開けて、ヴィクトリアを見るなり心配そうな顔を向けてきた。
「ヴィクトリア、身体は大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ。
私が生きてるのはリュージュのおかげだわ。ありがとう」
「俺はお前のためにできることなら何でもする。
愛してる、ヴィクトリア」
「リュージュ、私もあなたを愛してる」
二人はそのまま吸い寄せられるように口付けを交わした。
ヴィクトリアは幸せに包まれていて、お互いの間に確かな愛情があることを確かめ合った。
身体が回復したと思ったヴィクトリアは寝台から出て立ち上がろうとしたが、脚に力が入らずにふらりとよろけてしまい、リュージュに支えられた。
ヴィクトリアが朝の空気が吸いたいと希望を言うと、リュージュは部屋の中から真っ白なバスタオルを見つけてきて、ヴィクトリアの身体に巻き付けて身体を隠した。
リュージュはお姫様抱っこで窓際まで連れて行ってくれる。
カーテンを開けると、薄明の中で浮かび上がる里の風景があったが、時間帯のせいなのかいつも見ていたものとは一際違っていて、不思議な感じがした。
窓を開けると風が吹き込み、肩のあたりまでになっていたヴィクトリアの銀髪を揺らす。
「ちょうど日の出だな」
言われて遠くを見れば、森の木々の向こうから折良く朝日が顔を出し始めていて、温かな光の筋をこちらにまで届けていた。
「そうね」と相槌をして言葉と共にリュージュを振り仰いだヴィクトリアは、陽の光で赤茶色の髪をより一層鮮やかに輝かせ始めたリュージュの姿を見て、目が釘付けになった。
「綺麗……」
思わず呟き、手を伸ばして髪に触れると、それに反応してぱっとヴィクトリアを向いたリュージュの頬が、照れくさそうに朱に染まった。
「お前の方が綺麗だよ。お姫様みたいにキラキラ輝いてて、世界一綺麗だ」
褒められたヴィクトリアは嬉しくなって笑みを溢す。
「ありがとう。じゃあ、私がお姫様ならリュージュは王子様ね」
「王子様? うーん…… どっちかと言ったらお前を守る騎士の方が良いんだけど」
ヴィクトリアの恋愛小説の感想発表会にいつも付き合わされていたリュージュは、ヴィクトリアの乙女っぽい話題には慣れていた。
「騎士もいいけど、私にとってはリュージュは王子様なの。また私が魔力切れで気を失ったら、リュージュのキスで目覚めさせてね」
そう言って笑顔を向けると、リュージュは「当たり前だろ」と言って、ヴィクトリアの唇に何度も深いキスをした。




