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12 正体

ナディア視点

「リュージュ! しっかりして!」


 駆け寄ったナディアは、リュージュの身体に手を置き声をかけるが、反応がない。顔が真っ青だ。これはまずいかもしれない。


 ヴィクトリア()は父に連れられて窓から消えてしまった。

 直前の父の様子からして、おそらくまた外から来訪者が来たのだろう。妙なことにならなければいいが。

 

 とにかくリュージュを何とかしないと。こうなってしまったのは自分のせいでもある。


「誰か、医師を呼んできて!」


 騒ぎを聞きつけて廊下に何人か集まっていた。ナディアは彼らに向かって叫んだ。


 ナディアがリュージュの名を呼び続ける中、急な音がして部屋の扉が閉まり、ナディアは背後を振り返った。


 ナディアは内側の鍵が独りでに閉まるのを、見てしまった。


(誰も触っていないのに、なぜ?)


 部屋の中は、ナディアとリュージュと、それからミランダの三人だけになった。


 向かい側でリュージュを見下ろしていたミランダは、突如しゃがみ込んだ。


 ミランダがリュージュの腹部に両手をかざすと、淡い光が現れて、リュージュの身体に降り注ぐ。


(手から光が出るなんて、そんなことあるはずがない)


 自分の目がおかしくなってしまったんだろうかと、ナディアは目をこすったり瞬いたりしてみたが、眼前の状況は変わらない。


 ミランダはひどく真面目な顔で、リュージュに対している。


「ねえ…… 何してるの?」


「治療だよ。治癒魔法」


(魔法?)


 戸惑いながら問かければ、さらりとそんな答えが返ってくる。


 リュージュの青白かった顔に、僅かに生気が戻りつつある。


(ミランダが魔法でリュージュを治しているってこと? でも魔法なんて、お伽話でしか聞いたことが……………………


 いや、違う。


 いる。魔法使いは存在する)


 確か里に連れて来られた人間から聞いたことがあった。

 場所はどこだか忘れてしまったけど、どこかの貴族の娘が生まれつき不思議な力を持っていて、神秘的な光の力で怪我を治したり、透視の力で真実を見極めたりしたそうだ。

 少女は聖女と呼ばれ、最終的にはハンターになったという。


 少女が魔法で人々を救う。荒唐無稽な話だと思い、軽く相槌をしただけで聞き流してしまったけど、今なら信じられる。


 聖女はある日突然いなくなった。


 姿を消して、行き先は誰も知らない。


 彼女は失われた聖女と呼ばれている。


(もしかして、ミランダがそうなの?) 


「あなたは、失われた聖女なの?」


「聖女……?」


 ミランダは首を捻った。


「違うね、そんなものじゃない。俺はただの『影』だ」


(俺?)


「影」という発言内容もよくわからないが、何より、自分のことを「俺」と言ったことに引っかかりを覚えた。


(もしかして、男?)


 ナディアは先程からのミランダの様子に違和感を感じていた。声は少女のものなのに、喋り方は明らかにいつもと違う。まるで少年のようだ。


「あなた…… 一体、何者なの?」


 顔に緊張を走らせながら問いかけるナディアを見て、ミランダはふっと笑った。その笑い方も、いつもと違う。


 ミランダはいつも優しく柔らかい笑みを向けてくるのに、目の前で笑みを浮かべてナディアを見る少女の表情は、捕らえた獲物をこれからどう調理しようかと考えて、楽しんでいるように見えた。


「完全に治すと怪しまれるから、命に別状がない程度でやめとくよ。あとはしばらく寝てれば治るだろ」


 光が消え、手をかざすのをやめたミランダが立ち上がった。ずいっと距離を詰められて、思わず後退る。


「助けに来てくれたナディアちゃん、とっても格好良かった。ありがとう。大好きだよ」


 この状況で大好きと言われて喜べるはずもなく、到底受け入れられない。


 ミランダは自分の指を口元へ持ってくると、舐めた。


「大好きだよ、ナディアちゃん」


 ミランダはナディアを見つめ、うっとりと笑いかけた。


 ぞわっと、身体中を悪寒が走り抜ける。


 警告、警告、警告。この人物は危険だと、第六感のようなものが告げていた。


「秘密を知られたからには、このままってわけにはいかない」


 逃さない、とでも言うように、ミランダがナディアの腕を強く掴んだ。


 誰かが、扉を叩く音が響く。


「開かないぞ、どうなってるんだ?」


 ナディアは扉に向かって何かを言おうとした。しかし異変に気付き、ナディアは困惑した様子で喉元を抑える。


(声が出ない――――――)


「心配しないで。二人っきりになったら戻してあげるよ」


 恐怖にも似た表情を貼りつかせるナディアを、ミランダは熱っぽい視線で見つめていた。


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