9 愛の雨
R15注意
レインの身体を見ながら、なぜだかヴィクトリアは美味しそうだなと思ってしまった。
(いけない! これは食事じゃない!)
ヴィクトリアは湧き上がってきた考えを振り払おうと頭をぶんぶん振った。
愛する番を食料とみなすとは、それでは自分はアルベールと同じになってしまう。人にされて嫌だと感じた同じことを他の相手にしてはいけないと思ったが、ヴィクトリアは自然と唾を飲み込んでいた。
「……ヴィクトリア?」
また頭を触っているのでレインは怪訝に思ったようだった。
流石にレインと番になったことを知れば、あれだけしつこかったアルベールも『番の呪い』が解けて正常になるだろうと考え、ヴィクトリアは苦手すぎるアルベールの存在を頭の外に追いやった。
レインの身体からはとてつもなく良い匂いがしていて、自然と吸い寄せられてしまう。
「薬飲んだんだ。絶倫になれる薬」
「ぜつりん…………」
幸福感に酔ったような状態になっていたヴィクトリアは、ほわりと浮かれたような気分になりながらレインの言葉をただ反芻していた。
言葉の意味はわかるが、ヴィクトリアは思考が鈍っていて物事を深く考えられなくなっていた。
ヴィクトリアは魔法を使った。
「うわっ!」
次の瞬間にはシーツが交換されたばかりの寝台の上に二人で瞬間移動していた。レインが面食らい驚く声が響く中、ヴィクトリアは魔法で二人の身体に残るお湯の雫を乾かすと、レインにしがみついた。
「獣人の雄は基本、全員体力お化けの絶倫らしいから、俺だって君にこれくらいのことはしてあげられるよ」
窓の外はすっかり暗くなっていて、今一体夜の何時なのかわからない。
いつしかパラパラと窓に向かって雨が落ちていて、静かな音楽のようにヴィクトリアの耳に届いている。
ヴィクトリアはレインと口付けていた。彼の温かい唇の感触が心地良い。
途中で薬の効果が切れたらしいレインがぐったりと倒れ込んだので、慌てて治療魔法をかけたが、そうしたらレインが元気になって復活してしまった。
ヴィクトリアもレインに応えるために自身に治療魔法をかけて回復し、終わりは見えない。
魔法があればこのままずっと永遠に――――と、そんな風に思えた。
「ヴィクトリア、愛してる」
「レイン、私も……」
口付けの間でお互いに愛を伝え合う。
まるで際限なく空から降る恵みの雨のような愛を受け続けて、ヴィクトリアは今確かに、自分が幸せだと感じていた。




