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獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~  作者: 鈴田在可
レインハッピーエンド 愛憎を超えて

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5 今度こそ、結婚します

最後の方R15

 ヴィクトリアたちはノエルが何度か繰り返す転移魔法でどこかの森の中に連れてこられた。


「ここは首都からはかなり離れていますが、追手が来るかもしれないので警戒してください。今魔法陣を準備しますので、出来上がったら一気に異国まで飛びます」


 ノエルはヴィクトリアたちに簡単に説明した後、魔法で地面の上に魔法陣を描き始めた。ヴィクトリアがナディアの部屋やクロムウェル家の屋根裏部屋で見たものと似たような紋様だ。


 瞬間移動は魔法使いの力量により一度に移動できる最大距離が決まっている。移動先が遠い場合は転移魔法を何度か繰り返す必要があるが、予め目的地に魔法陣を仕込むなどしておけば、どれだけ遠くても一度で移動できるし、消費する魔力量も節約できる。


 ヴィクトリアは昔読んだ本の知識から瞬間移動魔法の特性は知っていたので、ノエルの行動に特に口を挟むことはしなかった。レインもノエルに何か質問することもなく成り行きを見守っているので、魔法についての知識はあるのだろうと思った。











 三人がやってきたのは別の大陸の、かなり人里離れた山奥にあるわりと大きな一階建ての家だった。屋根の部分には木の葉がかかっていて、ちょっとした隠れ家風の家だ。

 窓から見える家の周囲は深い自然に囲まれていて、ヴィクトリアは野生動物を狩れば何とか生きていけそうだなと思った。


 ノエルによれば湧き水も豊富で、少し離れた場所にある川には魚もいるらしい。季節にもよるが山を巡れば果物や木の実や山菜なども採れるそうで、獣人だけではなくて人間のレインも食料には困らなそうだと思った。


「魔法使いの場合は、食事でも何でも魔法で出してしまえばいいので、ここでの生活は人里に降りなくてもそこまで困ることはないと思います」


「食事って魔法で出せるの?」


「ええ。確かこの魔法書に説明が書いてあったはずです」


 ノエルは手に一冊の古ぼけた本を召喚した。ヴィクトリアはノエルに魔法書を手渡されると中を開き、ペラペラとページめくって眺めた。


「この家の書斎にも、基礎から上級編くらいまでの魔法書の類ならいくつか置いていますので、良かったらあとで読んでみてください」


 この家はノエルが結婚を決めた時に、ノエル一家やブラッドレイ家の素性がバレた時のための潜伏用として、彼が妻のアテナと共に購入して準備していたものだそうだ。


 アテナはかなりの資産家らしく、似たような潜伏先を他にもいくつか確保してあるらしい。


 ただし、アテナは家造りに関してはデカい家を建てたがる傾向があるらしく、この家も当初の予定よりは広々としてしまったそうだ。


「潜伏先のいくつかは父も知っていますが、ここはまだ知らせていない場所です。ただ、私の弟にはマグナの『真眼』のように全てを見抜いてしまう力を持つ者もいますから、その弟が父に味方した場合は居場所も暴かれてしまいます。今の所追手の気配は感じませんが、充分注意してください」


 そこでノエルは、改めてヴィクトリアに向き直った。


「ヴィクトリア、目眩ましの魔法と結界の魔法は使えますか?」


「そうね…… かなり前になるけど魔法書で読んだことがあるから、一応知っているわ。その魔法を使えばいいのかしら?」


 ヴィクトリアはノエルに二つの魔法のコツを教えてもらい、魔法を発動させた。


「結界を張っておけば襲撃されてもすぐには破られないと思います。その間に魔力と体力を回復させましょう。私は北の部屋を使いますから、お二人は残りの南東西の部屋のどこでも自由に使ってください。


 申し訳ありませんが、私はここに来るまでに魔力のほとんどを使い果たしてしまったので、回復のために眠ります。襲撃など何かが起こった場合は、起こしに来ていただけると――――」


「ちょっと待て」


 そこでレインが焦ったように声をかけた。


「ノエルが俺にかけたままの身体強化の魔法はどうなる?」


「私が寝ても魔法は解除されません。気絶とは違いますから。ただ、レインの身体の限界が来た所でその魔法は自然と解けるので、その後は――――」


「やっぱりそうか!」


 レインはノエルの言葉を最後まで聞かずに叫ぶと、そばにいたヴィクトリアの身体を抱え上げた。身体強化の魔法がかかったままのレインは、獣人並みの目にも止まらぬ速さで動き、ノエルが使う予定の北の部屋から一番遠い南の部屋に入った。


「レイン! どうしたの!?」


 部屋の扉がバタリと閉まる。気付いた時にはヴィクトリアはレインに強く抱きしめられていたので、驚いた声を出した。


「ヴィクトリア、結婚してくれないか?!」


「えっ?」


 ヴィクトリアは突然の求婚プロポーズに再び驚く。


 レインは隊服の中にずっと忍ばせていた小さな箱を取り出すと、ヴィクトリアの前に跪いた。その箱の中には、先日レインがヴィクトリアを強姦しかけた日に購入したばかりの婚約指輪が入っている。


「結婚してください! 俺をあなたの番にしてください! あなただけを一生愛し続けると誓います!」


 しばし間が空く。


「駄目なのかっ!?」


「駄目、じゃないけど…… 奴隷じゃなくていいの?」


 ヴィクトリアの中では、獣人と人間では結婚できないことになっていた。


「君が魔法使いとして覚醒した以上、奴隷にして監禁しても逃げられ――――って違う!」


「監禁…………」


 ヴィクトリアはレインの失言に目を瞬かせている。


「違う! 監禁なんてしない! 君を監禁した所で、魔法の力を使えば簡単に抜け出せてしまうから、意味がないんだ……」


 最後の方は若干残念そうも感じられる口調になっていたので、レインは本当はヴィクトリアを閉じ込めてどこにも出さないようにしたいのだろうと思った。


「俺は君を奴隷にしたいんじゃなくて君と結婚したいんだ! 君の魔法を使えば獣人であることを隠して人間として生きていけるはずだ! 俺と結婚して一生一緒にいることができる!」


「そんなこと、していいのかしら……」


「いいんだっ! 俺と君が良ければそれでいいじゃないか! 俺たちの愛を他の奴らにごちゃごちゃ言われたくはない!」


 ヴィクトリアは考える。レインが言っているのは、つまりノエルやジュリアスのように、獣人であることを隠して人間社会に溶け込んで生きていくということだ。


 そこには色んな苦労や葛藤などもあるかもしれない。確かにヴィクトリアは魔法が使えるが――そのことについては今でも信じられないが――たとえ魔法が万能だとしても、気絶してしまえば魔法の効果は消えてしまう。魔法さえあれば一概に安全だとは言い切れない。この先思わぬ場面で獣人だとバレて、死んでしまう可能性はある。


 けれどヴィクトリアはレインの手を取り、その指輪を受け取って彼の求婚を受け入れた。


 元より、レインに拒絶されたと感じた時に死のうと思ったくらいには、自分はレインを深く愛している。レインのために死ぬことは怖くない。


(怖いのは、私の唯一無二の番であるレインと離れ離れになって、もう二度と会えなくなってしまうこと。


 それから、『悪魔の花婿』になってしまうレインが、それを理由に殺されてしまうかもしれないこと…………)


 そうならないように、自分たちの愛を守るために、魔法の力でも何でも使って、これからは自分がずっとレインを守っていきたいと思った。


「よろしくお願いします」


「よ、良かった!」


 変な間を空けてしまったせいか、もしかしたら断られるとでも思ったのかもしれないレインは、見るからにホッとしていた。


 レインは箱から指輪を取り出すと、魔法書を近くのテーブルに置いたヴィクトリアの左手を取って、薬指に嵌めてくれた。


「……これ、もしかしたらあの時のお店のやつ?」


「そうだよ。びっくりさせたくて。本当はあの日に結婚しようって言うつもりだったんだけど…… 俺が馬鹿なことをしたせいで君を傷付けて、今日だって君のことを刺してしまって………… 本当に申し訳ない。もう二度とあんなことはしない。一生大切にするよ」


「ありがとう…………」


 ヴィクトリアが幸せな気持ちになって指に嵌まる指輪を見つめていると、レインが顔を寄せてきたので、そっと目を閉じた。ヴィクトリアはレインの唇を受け入れる。


 レインはヴィクトリアに口付けたまま彼女の身体を抱え上げた。


 やがてヴィクトリアは部屋の中にあった寝台に下ろされると、そのままの勢いで押し倒された。


「……するの?」


「したい。駄目?」


 レインの漆黒の瞳には情欲の炎が灯っていて、まるで濡れているように見えた。


 ヴィクトリアは否定するように首を横に降った。


 レインと番になるために乗り越えねばならない壁は全て消えた。レインと真の番になることを躊躇ためらう理由はもう何もない。


「…………私も、したい」


 ヴィクトリアは恥ずかしいと思いながらも、囁くような小さな声で自分の中にある欲望を打ち明けた。


 すると至近距離にいたレインがとても嬉しそうに笑ってくれた。大好きすぎるその綺麗な顔が笑うと、ヴィクトリアも気分が高揚して胸が甘く締め付けられた。


 レインが口付けを落としてくるので、ヴィクトリアはレインの全てを受け入れるつもりで、深すぎる接吻に応え、彼に抱きついた。


 ヴィクトリアだって、本当は一番最初にレインと口付けを交わした時から、レインと一つになりたいとずっと思っていたから。


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