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獣人姫は逃げまくる ~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかかって逃げたけどそのうちの一人と番になりました~  作者: 鈴田在可
故郷編

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9 忠告

 ヴィクトリアは微笑んでいた。隣にリュージュがいて、二人で草原の上に寝転んでいる。

 身体には心地よい疲れが残っていた。


 いつものように木陰にいたら、本ばっかり読んでないで体も鍛えろ、と言われ、先程まで二人で鍛錬をしていた。

 

 組手をしてみたけど、毎日鍛えているリュージュの方が勘が鋭く攻撃は全部避けられた。確かにもう少し鍛えないといざという時に困ると思った。

 基本の体作りは一人でもできるけど、戦闘訓練は相手がいないとできないわと言うと、俺が相手になるから頑張れ、諦めるな、と言われた。わりと熱血だ。


「あ、サーシャだ」


 上半身を起こしていたリュージュが、籠を持ちながら一人で魔の森へと向かっていくサーシャを見つけた。


「また一人かよ、誰かに声かけろって言ってるのに」


 薬師は忙しい。薬草が足りなくなると彼女は護衛を頼むのを面倒がり、よく一人で魔の森まで出かけてしまう。

 魔の森は時々人間が出たり大柄な野生動物もいるので危険もあるのだが、「私も獣人だし何かあればシド様が飛んでくるから大丈夫」と言っているらしい。


 リュージュはサーシャを見かねて魔の森に同行することがある。リュージュらしいなと思う。


 ヴィクトリアも一度、一緒に薬草取りに行かないかと誘われたことがあるが、シドから里の外へ出ること、つまり魔の森へ行くことは禁じられているので、断っている。


「ちょっと行ってくるな」


「気をつけてね」


 手を振って走り出したリュージュだったが、少し走った所でくるりとこちらに方向転換して戻ってきた。


「どうしたの?」


「お前、頭ボッサボサだぞ」


「え?」


 寝転んだせいで乱れてしまったのだろうか。直そうとしたが、それより早くリュージュの手が伸びてきて、ぐしゃぐしゃに掻き回される。


「もうっ!」


 リュージュは、ははっと笑って行ってしまった。


 ヴィクトリアは結っていた長い銀髪をほどき、手櫛で整えながらも、満面の笑みでリュージュを見送った。











「少しいいか?」


 木陰に移動して本の続きを読んでいると、あまり気配を感じさせずに一人の男がやって来た。ウォグバードだ。


 ウォグバードは長い波打つ深緑の髪を後ろで一つに束ねた、四十代くらいの長身の男だ。

 ボタンの付いた開襟シャツと軍服のような黒いボトムスを履き、腰には剣士である証明のように剣を提げている。

 右眼の瞼の上から縦に斬られた傷があり、常に閉じた状態だ。


 ヴィクトリアはこくりと頷いた。


 話をすることを了承したのに、ウォグバードは一定の距離を保ったまま近づいて来ない。


 強い風が吹いて、ヴィクトリアが開いていた本の頁がパラパラとめくれた。彼女は本を閉じた。


「リュージュはあなたを慕っている。懐いていると言った方がいいかもしれないが」


 案の定、話はリュージュの事だ。


「だからこそ、逃げる時は一人で行ってほしい」

 

 ヴィクトリアはウォグバードを見つめた。


「リュージュはあなたが里を出る時、一緒に付いて行こうとするかもしれない。その時は止めてほしい。あの方はあなたを奪う者全てを許さないだろう。あなたと逃げたと分かれば、あの方はリュージュを許さない。地の果てまでも追いかけて、殺すだろう」


 ウォグバードは厳しい眼差しを向けてくる。


「あなたに非常に酷な事を言っているのは分かっている。だが、逃げる時は一人で逃げなさい。あいつを巻き込まないでほしい」


 ヴィクトリアの瞳に戸惑いや怒りはなかった。ウォグバードの気持ちがよくわかったから。


 リュージュを守りたいのだろう。ヴィクトリアが憎くて言っているのではない。リュージュを大切に思っているのだ。


「リュージュは、私の宝物なの」


 少しの沈黙の後、ヴィクトリアはそう答えた。


「あなたと同じよ、守りたいの。あの男に傷付けさせたりするもんですか」


 リュージュを守りたい。


 ウォグバードと意見は同じだ。


「行くときは一人で。元から、そのつもりよ」


 ヴィクトリアはそう言ってから苦笑する。


「今の所、どうやって逃げればいいのかなんで、何の策も無いけど」


 ウォグバードは感情のあまり読めない顔でヴィクトリアを見つめている。


「すまない、余計な事を言ったようだ」


 ウォグバードはそれだけ言って、去って行った。


 リュージュ。


 あの明るい茶髪の、人との距離の取り方が少しおかしくて、ヴィクトリアにはとびきり優しくてくれて、笑うとすごく可愛い表情をする少年のことを考えると、心が温かくなって、まだよく知らない感情が湧き上がってくるような気がする。


 けれどヴィクトリアは、それに蓋をする。


 たぶん気付いてはいけない。気付くと、別れが辛くなる。


 ヴィクトリアは考えを追い払うように首を振り、再び読書に没頭しようと、本を開いた。


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