7 自分の気持ち
授与式の次の日は休日だった。
気分は最悪だ。
食べすぎて胃がもたれている。
鳩尾の辺りに手を当て胃の疲れをとるイメージで回復魔法をかける。
胃のムカムカが治まっても気分は良くならない。
あぁ、この気持ちを知ってる。
憧れてるだけだと思っていたけど、私、結構クロード様のこと好きだったのね。
小さい頃からお世話になっていたし、尊敬している自覚はあった。
カッコいいと思うことは多々あったし、性格だって理想的だなって思ってはいた。
でも、手の届かない人だって知っていたはずなのに。
兄として保護者として師匠として尊敬していたはずなのに。
いつから好きだったんだろう?近すぎて今まで気付かなかった。ずっと一緒にいられるような気がしていた。
今までの日常が頭のなかでぐるぐると回る。
「クロード様、これってうまく行きそうじゃないですか?」
「クロード様、ここ間違ってませんか?」
「シェリル、これ頼んでも良いかな?」
「シェリル、そのアイディアもっと詳しく!」
「シェリル、さすがだね!」
名前を呼んでもらう嬉しさも、頭を撫でてもらうくすぐったさも、誉めてもらったときの恥ずかしさも意識してなかったから素直に喜べた。
クロード様の訓練の後の気の抜けた姿も、魔方陣に夢中で全然話を聞いてない姿も、うたた寝してる姿も、社交が面倒だと愚痴ってる姿も、「ファンが見たらがっかりしますよ」と言いながらそんな姿を独り占めしたかったのかも知れない。
研究室に行くのが怖いと思う。
今まで通り過ごせるのかな。
きっとクロード様は変わらない。
だけど、私はもう研究を楽しめないのではないか、そんな不安がある。
確かに、アイディアを出すのも新しい発見も楽しかったけど、分析するのは好きじゃ無かったし、魔法陣を見比べたりするのもあまり好きじゃなかった。
何の魔法だかも分からない魔法陣の話はちゃんと聞いていなかった気もする。
きっとクロード様が誉めてくれるから、研究が楽しかったんじゃないかな。
誉めてもらえれば満足できる?きっと誰かのものになっても今まで通り可愛がってくれるはず。
私はそれで満足できる?
何度も何度も自問自答するけど答えはでない。
これでは前に進めない。
このまま来年は研究部門に移動しても良いのかな?
私は本当は何がしたかったんだろう?
魔法に憧れてたのは本当。
やっぱり看護師だったからかな?回復魔法の研究がしたかったな。
表面的な怪我だけじゃなくて、私以外の人でも大きな骨折も、病気も、治せるようにしたい。
脱水とか、傷の感染とか、流行り風邪の予防とか、身近で簡単なところから医療の知識を広げたい。
このまま研究部門に行ったら後悔するかもしれない。
自分のやりたいことを選んだなら、うまく行かなくても後悔はしない。
じゃあ、このまま魔法師団の一般の部署で経験を積んでから、治療院の専属になれるように頑張ろう!
研究は専門にしなくても今まで通り参加できるしね!
なんか前向きになってきた。
しばらくは寂しい気持ちになるかもしれないけど、クロード様にも幸せになって貰わないとね。
クロード様を困らせたい訳じゃないし、自分がクロード様と結婚したいわけでもない。
クロード様が結婚しないとパトリック様も結婚できないものね。
まだ重苦しい気持ちは残っていたけど、明日もいつも通り過ごせそうなくらいには大丈夫そうだ。
気づいたら一日が終わろうとしていた。