6 授賞式
授賞式の日、折角おめかしをして楽しみに出掛けたが、結論を言えば何一つ良いこともなく、緊張と苛立ちばかりの最悪な一日となった。
最初に授賞式が行われ、団長と副団長のおまけで王様から報奨のペンダントと金一封を頂いた(こちらは後日受け取りに行くのだが)。
そこまでは緊張もしたけど、そのことについては問題は無かった。
問題はそこからである。
団長は早々に婚約者のシャルロット様をエスコートしてパーティーを楽しんでる。シャルロット様は王女様だから、不用意に声をかける女性も居ない。
普段の制服姿とは別人のように凛々しい装いで、表情も柔らかい。どこからみても仲睦まじい婚約者同士だ。いつもより5割増しで素敵な紳士に見える。
次にレックスが女性に囲まれ消えた。
平民ながら魔術師団の将来有望な若者だ。婚約者が決まっていない女性の格好の餌食になった。
化粧の濃い気の強そうな女性に囲まれ、とてもかわいそうである。腕、すごく引っ張られてない?
袖が破けないか心配だ。
レックスよ、骨は拾ってやろう。私に拾う体力があったらだけど。
最後にクロード様も領主様に連れられて居なくなった。
クロード様は最初は断っていたけど、権力には勝てなかったらしい。
保護者のように「くれぐれも知らない人について行かないように、会場から勝手に出ないように」と釘を刺して行ってしまった。
レックスが居なくなった段階で気付いていた。
私のエスコート相手は居なくなったと。
それでも、魔術師団の同僚や先輩方が声をかけてくれ、一人になったり、壁の花にならなかったのは助かった。
「シェリルおめでとう。お前ら凄いな。新人の中でも仕事が優秀ってだけでも凄いのに、団長たちの会話について行けるのがもっと凄い。俺たちは今の仕事をこなすのが精一杯。」
「おめでとう。レックスは大変そうだな。お祝い言う暇も無かったよ。」
「シェリル、席とっておいたぞ。なにか食べるか?」
先輩が目立たず隠れすぎずのいい席を確保してくれたので、そのテーブルに座る。
食べ物も飲み物もいくつか持ってきてくれる。
知らない部署のお偉いさんや、貴族の方々が挨拶に来てくれたが、それも先輩方が、代わりに挨拶してくれたり紹介してくれたりするので社交も困ることはなかった。
じゃあ、問題ないじゃないか?
確かにそうだ。
だけど、誰もダンスに誘ってくれないのである。正確には、知らない人からの誘いはあったが、先輩方が全て断ったのである。
まさか女性から誘うわけにも行かず、せっかく上級学校で習ったダンスを披露する場だったのに、機会を得られなかった。せめて勝手に断るなら先輩方も誘ってくれれば良いのに。私ダンス苦手なんて言ったことなかったよね?納得がいかない。
社交も一段落して、回りをみる余裕が出来た頃、レックスのとなりには肉食獣のような派手な女性ではなく、ドレスの印象なのかもしれないけれど、ふんわりとした雰囲気の可愛い女の子がいた。
心なしかレックスの頬が赤く染まって見える。
「先輩!レックスと一緒にいる女の子どこの令嬢だか分かりますか?」
「うわっ。あの人見知りのレックスがやるなぁ。」
「あの子、王女様の侍女の子じゃない?男爵令嬢だったかな?見たことあるよ。」
あの!人見知りのレックスがエスコートしてダンスに誘っている。みんな興味津々だった。
「上級学校で習ったダンス。使う日が来て良かったねレックス。私も踊りたかったよ。」
ちょっとアピールしたが、誰も誘ってくれなかった。しょんぼり…。
私はレックスのこと当てにしてたのに。と声に出さずに思う。
少し妬ましい気持ちもあったけど、後でいろいろ話を聞かなくてはと、テンションを上げて眺めていた。
次の曲がかかりレックスたちが輪に入っていく。
そこで私は見てしまった。
クロード様が、背の高い美人さんと踊っているのを!
クロード様もいつもの雰囲気ではなく、完全に仕事モードだったが、それでも今は婚約者もいないし、あんなに女性は面倒くさい、お見合いはしない、ダンスもしないと言い張っていたのに。
なのに女性と踊っている。
領主様の指示なら仕方ないし、そうでなくても誰と踊ろうがクロード様の自由だ。それなのに私はレックスが踊っていることよりずっとずっとショックだった。
多分、同僚も先輩も副団長が踊る姿は見ていただろうけど、貴族とはそう言うものだからそこに新しい発見は無かったらしい。誰も副団長に関しては何も言わなかった。だから、どこの令嬢かは聞けなかった。
そのあともクロード様はその女性をエスコートして一緒に座って話したりしている。
私はなんだかモヤモヤした気持ちを抱えて、デザートをたくさん食べて帰るタイミングを探していた。