5 理想
夏が過ぎ私も16歳になった。毎日の業務にも慣れ、研究時間を有効に使えるようになった私たちは、副団長に連れられて、貴重な魔方陣が書かれた魔道具の解析に踏み出した。
電話機のような音を伝える魔道具は魔方陣に個体識別の文字が入っていることが分かり、個体識別の文字を数字に置き換えて試してみると、使えるようになった。
城で使われる判子を識別する魔方陣は、結局分析できなかったが、新しい判子でもその判子を押してから識別の魔方陣を書けば新たに作ることが出来た。
識別系の魔方陣は文字が分からなくても識別さえ出来れば稼働しそうだ。
稼働したものから分析していけばこの辺りも予想がつく文字が出るかもしれない。
秋も終わろうとする頃、風魔法と雷魔法の再現が一般に公開された。
私たちはちょっとした有名人になった。
「レックス、私たちこの短期間に結構頑張ったよね!学生時代は文字と魔方陣ばっかり眺めてたけど、やっぱり実物を知るって大事!」
「うんうん。魔方陣を見るよりも構造から予想できるものも結構あったからね。」
中には魔方陣がいくつか組み合わされている道具もあって、魔法国の科学、技術の高さに今の世界が不釣り合いに感じてしまったこともしばしばあった。
「見習い期間ももう少しで終わるし、功績も認められたし、来年からは研究中心に時間が使えるようになるらしいよ。団長が研究部署作ってくださるって!」
「それはスゲー!俄然やる気が出るな。」
「今度、研究結果の発表と再現の表彰パーティーするらしいよ。私もレックスも夜会デビューだね。ドキドキするね。」
「そんな話しは初めて聞いた。それって制服で行ってもいいヤツ?」
「そんなわけ無いでしょ?レックスのスーツ姿楽しみだよ。私もパーティードレス探しに行かなきゃ。」
「お前そんな金あるのか?俺はないぞ?」
「えっ?レックスお給料はどうしてるの?ここのお給料結構あるでしょ?」
「そう言えばオレ、給料ここ何ヵ月か受け取りに行ってないわ。一月たつの早いよな。受け取りにくの忘れてた。確かに数ヵ月分あったら何とかなるか。」
「忘れるって(笑)。お金に困って無い証拠だね。」
「でも面倒だな。偉そうな貴族も居るから絡まれないようにしなきゃ。」
「確かにね。でも、レックスは可愛いお嬢様と素敵な出会いがあるかもよ?」
「シェリルはそういうの期待してるの?」
「私はないない。貴族の男性は大抵上級学校に通うから新しい出逢いは期待できないよ。団長と副団長みたいにハイスペックな人と比べちゃうから、上級生にもときめくような人居なかったなぁ。」
「シェリルはあういうのが好み?」
「仕事が出来て頼りになる大人の男性って素敵!レックスももう少し大人になったら私の好みかも。」
「オレはお前みたいなすぐ突っ走るタイプは好みじゃ無いぞ。お前だってあんまり本気じゃ無いだろ。」
「それは残念。結構本気で行き遅れたら貰って貰おうと思ってたのに。レックスだったら結婚しても仕事させてくれると思ったのに。レックスは可愛い女の子が好きなの?」
「守ってやりたくなるような年下の女の子が理想。」
「レックスが恋愛に興味あったなんて意外だわ。」
「オレはシェリルに夢がない方が意外だったよ(笑)。」
「夢はあるけど、理想が高いんだよ、私。」
「記憶持ちだからお前の合格ラインに乗る人が少ないからなぁ。仕事が出来て頼りになる大人が条件なら、いっそ騎士団とか、体で守ってくれるタイプの方が合うのかもしれないな。ま、でもお前なら仕事が出来る大人が求婚してくれるんじゃない?もう少し待ってみなよ(笑)」
「うん、期待しないで待ってみるよ(笑)」
「じゃあ、オレ、給料受け取ってくる。」
「うん、お疲れ様。」
レックスを見送ると私も片付けをして帰る準備をする。
ドレスどこのお店がいいか誰かに聞かなきゃね。と思いながら、そう言えば今日は団長も副団長も一度も研究室に来なかったなとなんとなく疑問に思った。