51※ 劣等感
~sideクロード~
壁が一気に崩れた。
「シェリル!!」
彼女を護ろうと手を伸ばす。
だが間に合わない。どうか避けてくれ。目の前にいるのに間に合わない自分を呪った。
次の瞬間、馬が通りすぎた。敵が飛ばされる。
味方か?
馬から人が飛び降りてくるのと同時にシェリルを捕まえる。
「良かった。」と後ろから抱き締め無事を確認する。
シェリル無事で良かった。
「ジャファル!!」
シェリルが叫ぶ。
助けてくれたのはジャファルだった。
「悪い。遅くなった。なかなか国境を出してもらえなくて困ったが、間に合って良かった。これで借りは返したぞ。」
僕など見えてないかのようにジャファルが近づいてくる。
「助けてくれてありがとう。」
シェリルが見惚れたようにボーッとした表情で言った。
僕の腕に力が入る。
「何をしに来た?」
「助けに。こうなるだろうことは大体分かっていたから。今ごろ、議会の連中は捕まっている頃だな。あとはこいつらとあなたたちに証言してもらえば、あいつらは立派な犯罪者だ。」
「お前は何者だ?」
「ルテニアの諜報部隊の隊長。前国王の私生児の一人かな?あとは、前サルジャーノの議長の護衛もしていた。あとは何が聞きたい?」
飄々とジャファルは答える。
その態度に怒りがわいてくる。
「シェリルを利用したのか?」
さすがにジャファルの表情が変わった。
「神に誓ってしていない!」
「注意はしていただろう?奴らを捕まえる手伝いをしたから狙われているのを知っていただけだ。いつ襲われるか分からなかったからリーゼス王国につくまではこっそり着いていくつもりだったんだ。」
「何のために。」
「借りを返すためだ。」
そう言うとジャファルは邪魔だと言うように僕を睨んだ。
そうだ、邪魔しているんだ。シェリルは僕の婚約者だ。
ジャファルは僕を見ないで彼女の前に跪づいて言った。
「シェリル、借りは返した。これで貴女と私は対等になった。今こそ伝えたいことがある。
貴女に助けてもらった時から、私は貴女の清廉な美しさに心を奪われてしまった。願わくは私と結婚して欲しい。」
「ごめんなさい。婚約者がいるので無理だと思います。それに頭がついていかなくて理解できません。」
彼女が断ったのを聞いて僕は安堵した。
………
その後サルジャーノに戻って数日後、ジャファルが僕を訪ねてきた。
「クロード、お前はシェリルの婚約者がどんな男か知っているか?」
僕は自分だと言うことが出来なかった。
こんな気持ちを知っている。嫉妬と劣等感だ。
「知っているけど、どうして僕に聞く?」
「お前が婚約者だったのでは無かったのか?」
なんだ。知っていたんじゃないか。どうして聞いたんだ。
僕は答えなかった。
「ラミュールでは小さすぎてシェリルを護れまい?サルジャーノごときに良いように掻き回されたではないか。誘拐まではされずとも、大国に圧力を掛けられれば治療に赴かなければならなくなる。国でゆっくりはできないだろう。」
「………。」
「私は、諦めたくないのだ。シェリルが婚約者を愛していないのならまだチャンスはあると思わないか?」
ジャファルは何かを知っているんだろうか?
「断られたのに?」
「好きな男がいるのに、他の男に嫁ぐなど辛いだけだ。どうせ一緒になれんのなら遠くはなれた地に行く方が幸せになれるかもしれん。
それに、私は自分に自信があるからな。一緒に居れば、私の良さもわかるだろう。」
確かにジャファルならシェリルも好きになるだろう。仕事が出来て頼りになる大人の男性だ。彼女を護る力もある。
「その自信が羨ましいよ。」これは本心だ。
「お前も一度保護者をやめてみてはどうだ?彼女が嫁に行くときに後悔しても遅いのだぞ?」
「その台詞は、前にも言われたことがあるよ。」
「だったら正々堂々戦わないか?お前になら負けても悔いはない。」
僕はやっぱり答えなかった。
「私が勝っても恨むなよ?」
そう言って彼は帰っていった。