45 交渉決裂
「それで、私に会いたい人ってどなたなんですか?紹介していただけますか?」
私は早速交渉に入った。
「聖女様に一番会いたがっていたのは、議長だった男だ。しばらく前に亡くなっている。」
「今、お会いできる方で紹介していただける方はいますか?」
「そうだな、たくさんいるが、まずは私と交渉してもらえるかな?」
「ええ。いいですよ。何をお望みですか?」
「まずは聖女の癒しを与えて欲しい。重症の者が今も苦しんでいる。」
「わかりました。高いですよ?一人にいくら出してくださいますか?」
「金貨1枚でどうだろうか?」
「冗談ですか?サルジャーノの偽聖女は子爵様に大金貨10枚を要求したそうですよ?」
「そんなにか!?」
「私はサルジャーノの相場が素晴らしく高いと思っていたのでかなりの儲けがでると期待しているのですけど。」
「人数が多いのだ。一人大金貨1枚で許して欲しい。」
「またまたご冗談を。私の誘拐の成功報酬は大金貨50枚と聞いていますよ。」
ラニエロさんの顔色が悪くなった。
サルジャーノがしてきたことを理解してもらえただろうか?
「わかった。大金貨100枚出そう。我々が出せる精一杯の金額だ。その代わり恥を忍んでお願いしたいことがある。」
「聞いてみないと受けるかどうかわかりませんよ。」
「かまわない。」
ラニエロさんのお願いはこうだった。
1つ目は、現在いる重症者の治療をして欲しいということ。
2つ目は、治療師が減ってしまって困っているので、弟子をとって欲しいということ。
3つ目、最後のこれが一番難関だ。
この国の商人を入国させてくれない国が多数出てきた。ここは貿易都市国家。他国から商品を仕入れてさらに他国へ運ぶのが仕事。なのに、調味料も、穀物も、金属も買えない、売れない。
他国に流行病の危険が去ったこと、流行病がサルジャーノのせいではないことを証明して欲しい。
と言うことだった。
「1つ目と2つ目はいいとして、最後のは私では無理がありますよ?
だって自業自得でしょう?
最初にラミュール王国に助けを求めれば、誘拐犯ではなく治療師を送り込んでいれば今頃もっと治療が進んで被害が少なくなっていた。流行病の終息を知らせることは出来ても、拡げてしまったのはサルジャーノの落ち度ですからサルジャーノのせいではないとは私は言えません。
今まで各国に優位にたって犯罪紛いの交渉をすることしかしてこなかったから、いざというときも自国の利益を優先して犯罪を唆すような商人がでるんですよ。
国がきちんと救済しないから犯罪者だって増えるし、他国の迷惑をかけることになる。
入国を断られるのだって当然です。
なるべくしてなった結果じゃないですか。」
バカなことを言うんじゃない!
こんなの解決できるような問題じゃないよ。
何でもかんでもお金で解決できると思ったら大間違いだ。
「そのとおりだ。無理を言った。」
ラニエロさんは黙ってしまった。
どうしようか?こんなのナースの考えることじゃないよね。
もうこんな国潰れてしまえと思うけど、だからといってこの国が潰れると世界の流通が途絶えてどこの国もしばらく生活が困ることになる。
こんなことになってるなんて、全くの予想外だ。
旬はとうに過ぎて私の商品価値はほとんどない。
せっかくここまで来たのに、何の役にもたたなかったじゃないか。
…………
助けてくれたのはクロード様だった。
「ラニエロ殿、もうお分かりになったでしょう?
最初に私が質問した時にもあなたには誠意が見られなかった。
商人に一番大事なのは信用と評判のはずです。
16歳の少女でも貴殿方が間違った対応をしてきたことを知っているのです。もう誤魔化すのはやめませんか?
失うものはもうないはずです。契約のためなら頭を下げることが出来るのに、謝罪のために下げることは出来ないのですか?
シェリルに頭を下げることが出来るなら、各国にもさげることが出来るでしょう?
サルジャーノがしなければならないのは謝罪と賠償ですよ。
それは彼女に頼むことではありません。」
クロード様の声は静かで落ち着いていたけれど、怒りとか悲しみとか諦めとか全部混ざったような複雑な声だった。
「重症者の治療は無償で行いましょう。教会をお借りします。そこに患者を集めてください。後はご自分で各国と話し合ってください。」
「では、失礼します。」
クロード様に促され、私たちは部屋出ていった。




