30 戦闘
2話投稿しています。
生々しい表現ではないと思いますが、流血表現があります。苦手な方はご遠慮ください。
「シェリル、それでレックスをどうやって助けに行くつもり?」
クロード様の疑問はもっともだ。
「上手く逃げられてしまったようですし、どうしましょう?取り敢えず、居場所を突き止めたいですよね。」
ドレスの下に仕込んでいたレッグポーチの中から一枚の紙を取り出す。
それで紙飛行機を折ってから「この紙飛行機に案内してもらいましょう。」っと言ってみる。
案の定、クロード様は頭にはてながいっぱいのようだ。
「この紙飛行機にはレックスのサインがあって、レックスのところまで飛んで行くように魔方陣が書かれているんです。それを追いかけます。」
「どうやって追いかけるの?見失わないかい?」
「私たちも飛んで行きましょう!」
前にレックスとやった“魔法の絨毯”だ。
バランスが難しいので、飛ぶときは絨毯に寝そべって落ちないようにしがみつくという間抜けな格好になってしまうけど。アニメのようにはうまく行かない。
人に見られるとそれも困るので、絨毯と私たちに隠蔽の魔術をかける。
外に絨毯を広げて間抜けな格好で乗り込む。
ふわりと屋根より少し高いくらいに浮かんでからそっと紙飛行機を飛ばす。
絨毯を飛ばすのと紙飛行機を飛ばすのと、どちらにもイメージがいるから気が抜けない。
それでも集中して紙飛行機を追いかける。
紙飛行機は大きめのお屋敷の壁に当たって落ちた。
わたしたちも(不法侵入だけど)屋敷の庭に降りて絨毯を隠してから小さい声で相談する。
「ここはどこのお屋敷でしょう?建物の中に監禁されているようですけど、どうやって入りましょうか?」
「ここはバンクス男爵の邸だったと思う。もしかしてレイモンが関わっているのかもしれない。」
多分そうなんじゃないでしょうか。あぁ、レイモン本当に最低だよ。
クロード様は再び団長と連絡を取った。
「シャルロット様の救出はうまく行ったみたいだよ。やっぱりあちらは囮だったようだね。少し遅れたが中止にも出来ない事情があるから今から披露宴は行うらしい。」
シャルロット様が無事で良かった。披露宴に参加できないのは残念だけど。
「応援はほとんど寄越せないみたいだけど、どうしようか?騎士が来るまで待つかい?」
「どうしましょう?このまま見張って待つしかないですよね?乗り込む訳にもいかないですし。」
「そうだね。別の場所に移されても困るから、見張りながら待っていよう。」
「出ていくなら裏口でしょうか?」
「普通はそうだね。」
裏口を見張っていると、馬車が一台帰って来た。
犯人の共犯者かしら?と思って見ていると、手を縛られたレイモンが降りてきた。
そのまま裏口から屋敷の中に入っていく。
私は慌ててクロード様に目で訴え、一緒に付いて行こうとして…手を引かれ止められた。
クロード様が顔を横に振る。
そうでした。さっき乗り込むわけには行かないって言ったばかりだよね。
でも、レイモンを縛っていた真犯人がもの凄く気になります。
裏口が閉まり、鍵がかかる。
「さっきレイモンを連れていった人は誰でしょう?」「僕にもわからない。でも、男爵家を好きに出来るくらいには権力がありそうだ。」
「貴族でしょうか?」
「他国の貴族か、サルジャーノの大商人辺りか…。」どちらにしろ厄介だな。とクロード様は呟く。
しばらくして、馬の蹄の音がして表側が騒がしくなった。騎士が来たようだ。でも、もう少し静かに来て欲しかった。これでは警戒されてしまうよ。
クロード様も同じ事を思ったのだろう。
「仕方ないな。合流は諦めよう。僕たちは裏から逃げられないように、ここを見張ることにしよう。」
「そうですね。」
騒がしくなったから、今ならレックスと通信できるかもしれない。
レックスに呼び掛ける。やっぱり返事はない。
心配で緊張が強くなる。
その時、裏口が開いた。
数人の人が出てくる。布を被せられた人が一人担がれている。
あれはレックス?リリーナさん?それとも囮?
だけど、ここから逃がすわけにはいかない。
魔術で裏門の前に落とし穴を作る。その土で門を土の壁で覆う。担いでいた人と担がれていた人が落ちる。
隠蔽の魔術が切れた。
既に剣を抜いて動いていたクロード様が交戦している。
「もう一人いるぞ!」
私も見つかった。
「あいつが聖女だ!」
落とし穴から布を被って出てきたのはレイモンだった。
「あいつが本命だ。俺を離せ!早く捕まえろ!」
嘘でしょ?レイモン、本当に本当に最低っ!
レイモンの縄が解かれ、敵が私に集中する。
落とし穴、カマイタチ、竜巻、近寄らないでと魔術をかける。でも接近されると間に合わない。
腕を掴まれた。
スタンガンで一度は逃げる。
もう一度掴まれ引き倒される。女性になんて事をするんだ!
馬乗りになり縛ろうとする。必死に抵抗していると、不意に身体が軽くなる。
見上げると、傷だらけのクロード様が背中に守ってくれている。
魔術師団の白い制服が赤く染まっているのに、騎士でもないのにクロード様が戦っている。
私のせいだ。なのにこの距離ではなにも出来ない。
たくさん準備をしていたはずなのに、全然役に立たない。
戦闘が終わらないと治療も出来ない。
「誰かたすけて!!」
助けを呼ぶことしか出来ない。
こちらの音が届いたのか、声が聴こえたのか、騎士がこちらに向かってきているのが見えた。
裏口は塞いだ。出口はない。もう大丈夫。
クロード様が膝を付く。
「クロード様!」
近寄って癒しをかける。何ヵ所も大きな刺し傷や切り傷がある。服を着たままじゃよく分からないよ。
「クロード様、クロード様。」
涙が止まらず名前を呼ぶことしか出来ない。
泣きながら必死に癒しをかける。
犯人が騎士に縛られて行く。それを確認するとクロード様はまだ、傷だらけで辛いはずなのに
「もう大丈夫。護れて良かった。」と微笑んでくれる。
良いわけ無いじゃないですか。
余計に涙が溢れてくる。私に泣く権利なんて無いのに。
私がここにいなかったらクロード様がこんなに傷だらけになることもなかったのに。
「クロード様が大丈夫じゃないです。」
涙は止まらない。血が滴り落ちるようなところはなくなったけれどまだ全部治せた訳じゃない。
犯人を縛り終えた騎士たちがやってくる。
それを見上げたクロード様が不意に私の名前を呼んで手を引く。
一瞬時間が止まる。抱き締められた後バランスが崩れて押し倒されたようになる。
何が起きたかわからなかった。
「大丈夫?」
そう聞きながらクロード様が起き上がると、レイモンが騎士に取り押さえられているのが見えた。
クロード様の肩には短剣が刺さっていた。
クロード様は短剣を抜く。またクロード様の血が流れる。
レイモンは私の首を狙ったらしい。
レイモンは狂ったように
「お前が悪い!お前が悪い!」と叫んでいた。




