29 結婚式 と誘拐
今日はシャルロット王女と我が魔術師団団長ことディナン・ド・ヴィエール公爵の結婚式の日。
たくさんの歓声の中、白い花びらが舞う。大聖堂のドアが空き、純白のドレスに身を包んだシャルロット様と同じく純白のタキシードに身を包んだディナン様が入場される。ディナン様がエスコートの手を差し出して、シャルロット様が手を重ねる瞬間、二人が微笑みあったのが見えた。
結婚式という優しい緊張感の不思議な空気を味わいながら、私は二人の美しさに息を飲む。
幸せの笑顔を振り撒きながらゆっくりと入場する二人はお互いに愛されているという自信に満ちていた。
二人は壇上の王に臣下の礼をとり祝辞を受ける。
お互いに見つめあって誓いの言葉を述べ、ディナン様が跪き、シャルロット様の手の甲に口付ける。
大きな歓声が上がった。私はこの光景を目に焼き付けることしか出来なかった。
王様がそれを静めて婚姻の許可を与える。
ここに一組の夫婦が生まれた。
……………
先ほどの光景が頭から離れず、私はまだ夢見心地でいた。参列者は順番に結婚披露パーティーの会場である大広間へ移動する。
私たちもその波に乗って移動を開始する。
「団長もシャルロット様も素敵でしたね!」まだ興奮が冷めない私はクロード様にも同意を求める。
「そうだね。幸せそうだった。昨日はあんなに嫌がっていたのにね。」可笑しいよね。とクロード様が笑う。
「あれは式が嫌なんじゃなくて、見られて後でからかわれるのが嫌だったんですよ。きっと。」
「うん。それは知ってる。僕もきっと同じ気持ちになると思うからからかうのはやめておくよ。」クロード様は今度は少し恥ずかしそうに目を細めてもう一度笑った。
幸せだなって思う。
まるで恋人同士みたいだ。
嬉しくなって…顔が赤くなるのを自覚しながらクロード様を見つめて私も笑った。
会場に着くとさっきとは違って華やかな雰囲気に包まれる。
他国の貴族も来ていて、あちらこちらで挨拶が交わされている。
御披露目まではもう少しかかるのだろう。
私たちも声をかけられながら無難な挨拶を交わす。流石に今日は不躾に声をかけられるような事はなく穏やかに時間が過ぎる。
それにしても時間が掛かりすぎではないだろうか?
周りもそう思っているのか、少し空気が変わってきた。
「ちょっと遅いですね。何かあったんでしょうか?」不安になってクロード様に声をかける。
「少しざわついてきたね。何かあるかもしれない。気をつけて僕の手を離さないように。」そう言ってクロード様が手を繋いでくれる。
警備の兵士が半数ほど広間から出ていく。
やっぱりただ事ではないようだ。
ざわめきが大きくなる中、誰かが叫んだ。
「花嫁が誘拐された!」と。
会場は大きなざわめきに包まれ、それは本当かとウエイターに詰め寄る人までいる。
会場はパニックになっているが、かといってここから動くわけにも行かない。
そんな中、今度は20人程の武器を持った男たちが流れ込んできた。残っていた騎士が応戦する。女性たちの悲鳴が上がる。
クロード様は私を引っ張り壁側に移動する。誰かが拐われたようだ。また大きな悲鳴が上がった。
目的を果たしたのだろう。乱入者はあっという間に居なくなった。騎士にとらえられた者も居たが大部分は逃げられたようだ。
会場は喧騒に包まれていた。嫌なドキドキが止まらない。
「誰が拐われた?」と誰かが聞いた。
「去年授賞式に出ていた若い魔術師とパートナーの女性だった。」と誰かが答えた。
レックスだ!
「リリーナ嬢も一緒か。厄介だな。」クロード様は小型化した通信の魔術具で団長に連絡をとる。
私もレックスに通信する。
レックスは意識がないのか反応がない。
団長の方は繋がって、シャルロット様がお色直しの最中に誘拐されたらしく、救出作戦中出そうだ。
そちらは団長と騎士団の皆さんに任せても大丈夫だろう。団長も最新兵器を持っているからきっと大丈夫!
それにしても、王女の誘拐まで行うなんてやりすぎだ。
仕掛けてきたのはどこの国だろう。
サザーランド伯爵から集団の入国は報告されていないはず。きっと国内に協力者がいるんだね。誰だろう。
さっき、シャルロット様が拐われたって叫んだ人が怪しいよね。
私は決意する。
「クロード様、レックスを助けに行きましょう!」
「まさか君も行くの?」
「勿論です!私の方がたくさん新兵器を使えるんですから行かない選択肢はありません。レックス一人なら脱出出来るでしょうけど、リリーナさんもいるからきっと助けが必要ですよ。」
「そうだね。君を1人で置いておくのも不安だし…一緒に行こうか。」
「はい!」
残っている兵士にシャルロット様が誘拐されたと叫んだ人物を特定して事情を聞くようにとお願いし、私たちは会場を抜け出し、研究室で魔術師団の制服に着替えてレックス救出に向かった。