20 サザーランド伯爵領
出発の時間になった。大きな鞄を抱えて寮の前に降りると少し早めにおりてきたのもかかわらず、既に子爵家の大きな馬車が停まっていた。
レックスも私のすぐあとに降りてきて、御者が二人分の荷物を馬車の荷台に固定してくれた。私たちも馬車に乗り込む。
「お早うございます。お待たせしてすみません。」
「気にしないで。思ったより道が空いていたんだ。」
クロード様はいつもと変わらず優しい笑顔で答えてくれる。朝から幸せな気分だ。
「昨日の話だけど、スティーブ殿は快く引き受けてくださったそうだよ。バンクス男爵も快いお返事をくださったのでレイモンも来るそうだ。バンクス男爵には今回の一件が片付けばレイモンの昇進も近くなるだろうと話してきたそうなので、レイモンも自分の昇進に響くような事はしないと思う。2人とはこの後北門の広場で合流予定だ。」
クロード様がこの後のことを教えてくれる。
レイモンは来るんだね。まぁ、自分の昇進の為だと思えばちゃんと仕事をするしかないよね?大丈夫だよね?
「あとは、スティーブ殿のほかにも護衛騎士が二人と、当面の食料と薬などを積んだ馬車が一台一緒に行く。その他の支援物資は準備が出来たものから順番に送られて来ることになっている。」
通信の魔道具は2組貸し出され、一組のうち片方は王宮との連絡用となっている。支援物資の第1陣とともに先にサザーランド伯爵領に送られているそうだ。
そうこうしていると北門の広場についた。
広場には、見送りの団長の姿もあった。
私たちはスティーブ様を見つけて挨拶に向かう。
「スティーブ様お久し振りでございます。今回私共に同行してくださること心より感謝いたしております。」スティーブ様は貴族に養子に行ったので丁寧に挨拶する。
スティーブ様は以前の気安い話し方で「おう、二人とも久しぶり。元気にしてたか?」と声をかけてくれた。
スティーブ様に今回巻き込んでしまったことについて謝ると「謝罪も敬称も要らないぞ。なんか気持ち悪い。要はインフルエンザだろ?もし罹患しても1週間も寝てれば治るさ。心配要らない。前みたいに仲良くやろうぜ。」となんでもないように言ってくれた。
良かった、スティーブは前と変わらず気さくでいい奴なんだね。友達が変わってしまうのを見るのは辛いからね。安心したよ。
スティーブと私たちはしばらくお互いの近況などを話していたがレイモンが見当たらない。
キョロキョロしてレイモンを探していると「奴は来ないぜ。」とスティーブが教えてくれる。
「何かあったの?」と聞けば「仮病で高熱が出たらしい、あーっはっは。」と大笑いしながらスティーブが教えてくれた。
かわりに、一日遅れて別の政務官が来る予定だそうだ。
レイモン…本当に最低だな。
レイモンが来ない事がわかり、メンバーも揃ったところで改めて出発となった。
途中の村や町で休憩を挟みつつサザーランド伯爵領に向かう。途中の村や町でも流行り風邪が広がっていないことを確認しながら馬車を進める。特にトラブルもなく、出発の翌日、予定どおりサザーランド伯爵領に到着したのである。
サザーランド伯爵領も今のところ混乱は無さそうだ。少しほっとする。
国境が封鎖されたので、活気が無いようにも見えるが、人々の生活は通常どおりに見えた。
まずは伯爵へ到着の報告とご挨拶に向かう。
伯爵家のお屋敷に行きお目どおりを願うと、すぐに客間に案内された。
「お久しぶりでございます。今回の派遣要請に対し王から代表に指名いただきクロード・ガロワが参上いたしました。サザーランド伯爵自らお出迎え下さりましたこと恐悦至極に存じます。」
クロード様が代表して挨拶してくださる。
「要請をしたのはこちらだ。使者を迎えもせんのは人としての道に悖る。しかし、まさかクロード殿が我が地に来てくれるとは思わなんだ。どのようなものが来るのか不安があったが、貴殿が来てくれたのなら心強い。貴殿の事は信用している。」
クロード様は派遣が少人数となったこと、支援物資はあとから来ることを説明してくれた。さらに私たちの紹介もしてくれたので、難しい挨拶は簡単に済ますことが出来た。伯爵様は派遣が少人数だったことにも文句も言わず私たちにも「要請に応じてくれたことに感謝する。」と言ってくれた。
伯爵様はがっしりと引き締まった体格の老紳士で少し気難しそうに見えたが、それは理性的で実力があるためなのだろう。
それは国外の情報を持っていることや、国境を封鎖したことからもうかがえる。
王女様も言っていたが私の中でも、流行り病を隠さず国に助けを求めたのも好評価だ。
普通は私のような小娘が今回の指揮をとることになると怒り出したり文句を言ったりしそうなものだが、クロード様の信用もあったのか伯爵様は異を唱えず受け入れてくださった。クロード様は伯爵様の事をご存知だったから着いてきてくださったのかも知れない。
プライドだけは高い貴族が多いので受け入れて貰うまでが一番の難所だと思っていた私はそこまで考慮していたであろうクロード様に改めて感謝した。
伯爵様に現状で把握されている事を聞くと、教会に風邪の患者が増えていること、解熱剤が入ってこないのでこのままでは不足しそうな状況であること、宿に泊まっていた商人にも発熱した者がおり、教会で保護されているということ、高熱のものも数人いるのを確認していると教えてくれた。
まずは隔離である。教会の治療院ではベッドも少なく部屋も無いので出来ればどこかの宿を病院として貸して貰いたい。出来れば中心部から離れている方がいい。
さらに、発熱がある人は家で寝ている人が多い。薬をもらいに来るのは本人ではなく家族だ。なので、薬を貰いに来た人に事情を説明して、治療をするから良くなるまで教会で過ごして貰うようにしなければならない。
その事を相談すると少し不便なところになるが、国境の砦に普段使われない兵士の宿舎があるのでそこを使って良いと言って貰えた。
普段から掃除もされていて、リネンも揃っているらしい。完璧だ。
後は患者をそこまで運ぶだけである。
着いたのは夕方だったが話をしているうちに夜になっていて、今夜は遅い夕食を食べ、明日患者会いに行くことで今日はゆっくり休めることになった。




