19 続・流行り風邪
マスクを考案したのはレイモンだったのか。支援で儲けようなんて本当に最低だね。尊敬して損したよ。
私が指名されたのに、レックスがオロオロしている。心配してくれているのがわかるから、そんなレックスをみると安心するね。
まあ、行くのはいい。ここに来た時点で多分決定事項だったのだ。1人で行くかみんなと行くかの違いだ。確かに初動は早い方がいい。大人数での移動となれば移動だけでも時間がかかる。流行り風邪自体はそんなに怖くはない。私は体力もあるし、肺炎になりかけても自分で治癒魔法をかければ悪くはならない。
要は、混乱を起こさず拡げないようにすればいいのだ。そのためには、如何に支援をもぎ取り、環境を整えて乗り込むかだ。私は覚悟を決め挙手をする。
「そう言われるのであれば、参ります。その代わり“マスク”だけではなく食料、解熱剤、連絡用の通信魔術具、町を封鎖する際に途絶える物資の補給を国費で支援してください。」
シャルロット王女は分かっていたようだ。
「ええ。約束いたしますわ。将来有望な魔術師を送り込むのですもの。不足がないよう十分に支援することをお約束いたします。足りないものがあれば遠慮無く言って下さいね。
サロモン、レイモンあなたたちには支援に当てる国庫の調整を行ってもらいます。よろしいですね。」
二人はそのための要員だったんだね。サロモンは空気が読めていなかったようだ。御愁傷様。貴族って怖い。
副団長が挙手する。あれ?まだ何かある?
「シェリル一人の派遣では指示が十分に理解されない危険がございます。上司として私の派遣も許可していただきたい。さらに、肺炎という症状の治療も『記憶』があれば可能と思われます。レックスと護衛も兼ねて騎士団のスティーブ・モーガン殿にもお声をかけさせていただいてもいいでしょうか?」
クロード様、いいの?危険だよ?怖くないの?
「ええ。いいわ。ディナンを派遣しようと思っていたのだけどクロードが行ってくれるなら上司としてあなたを派遣しましょう。他の二人はレックス本人とモーガン子爵の許可が出ればそちらも認めます。他に魔術師を連れていかなくても大丈夫?」
最後のは私への質問のようだ。
「感染を拡げないためにも初動が肝心です。時間が無いので少人数で移動したいと思います。人員が必要になるようならご連絡いたします。」そう返事を返すと、王女様は「わかりましたわ。いつ連絡が来てもいいように人選をしておきます。」と言ってくれた。
その後クロード様が挙手する。
「それと…レイモンをあちらでの物資の管理と調整にお借りしてもよろしいでしょうか?その辺りに詳しいものをあちらでお借りするわけにも参りませんので。」と最後に爆弾を投下した。王女様は驚きもせず「そうですわね。バンクス男爵には許可を取っておきますわ。」とさも当然のように返した。
レイモンのさっきまでの得意気な顔が真っ青になるところが見れたのでそこはすっきりとしたけれど…。
クロード様も怒ってくれたんですね。でも、ちょっとやりすぎな気がします。
それに、こんな性格の悪いやつと一緒に仕事なんてしたくないです。向こうでどんな嫌がらせを受けるか…足を引っ張られそうなのでお断りしたいです。
そんな心の声は届かず、会議はお開きとなり、各自準備に散っていく。レックスは「俺も付いていってやるからな。出来ることは手伝うから一人で頑張るなよ。」と言ってくれた。
団長は「騎士団とモーガン子爵のところは俺が行って来てやる。」王女様を送るついでだと出ていった。
残されたのは、クロード様とレックスと私。
「クロード様、一緒に行って下さってありがとうございます。でも、本当に良かったんですか?」
「心配要らないよ。君が行くと言ってくれて感謝しているのはこちらの方だ。申し訳ないけど、君にかなり期待していたからね。流行病は時々起こる。ここまで拡がることは珍しいけど、死者の多くは子供と年寄りだ。体力があれば罹っても死にはしない。まだ国内の患者はいないかもしれないし、いても数は少ないだろう。」
そういうことは分かっているんだ。パニックが予想されたから少し安心する。
「あと、レイモンは嫌がったら来なくて良いです。後でどんな嫌がらせを受けるか恐いので。足を引っ張られるのは困ります。」
「そうだな。断られたら強制はしないようにディナンにも言っておくよ。」
「あと、さっきは睨まれてしまったんですけど、リーゼス王国にお手紙を書いてもいいですか?支援って訳じゃないですけど、セルジュ達なら手紙でも説明すれば肺炎の治療が出来るかもしれないので。せめて皇太子様とクリスティーナ妃には対策と治療方法が渡れば、後はあちらでなんとかしてくれるかも知れませんし。」
「手紙くらいなら大丈夫だと思う。サザーランド伯爵も国境を封鎖しても物資の受け渡しくらいはしているだろうから、あちらに戻る商人に託せばいい。」
「ありがとうございます。」
「伯爵領でも僕のそばを離れちゃ行けないよ。特に伯爵には呼ばれても僕の同行を求めるように。レックスもね。」
相変わらず心配性だね。
「「分かりました。」」二人でしっかり返事をする。
「出発は明日の9時。寮まで迎えに行く。荷物はしっかり準備するように。馬車になるので途中で一泊して到着は明後日の夕方になる。今日は帰って荷物を纏めなさい。」
そして私たちも会議室をあとにした。




