14 対決
打ち合わせは終わり、クリスティーナ様と側近二人が入室してくる。
私たちは立って出迎え挨拶する。
着席の許可をいただくと、クリスティーナ様が口を開いた。
「時間がないから茶番は良いわ。」
え?待って?仮病を早々に暴露したのは…まぁ、良いことにしよう。面倒くさいし。
でもそっちの側近の紹介もしてくれないの?
「私、どうしてもあなたたち二人に会いたかったのよ。あなたたちも『記憶』があるんでしょう?」
おおう。直球だね(苦笑)
宰相様が割って入る。
「クリスティーナ妃。失礼ながら診察の名目で呼び出し、我々もいる前でのその行いは看過できません。お国の使者としての立場をお忘れではございませんか?」
クリスティーナ様は悪びれず、
「私は使者として来たつもりはないわ。里帰りに来たの。それに私の無礼はお嫁に出したこちらの恥じよ?むしろリーゼス王国の侍女を連れてないのだから恥が知られなくて良かったのはこの国の方よ?ねぇ、お父様?」
凄い理屈だね。国王様は
「見解の相違であるな。我が国は貴方が嫁いだ時点で貴方の行動の責任を負わない。」
「まぁ。でも良いですわ。たいした責任でもないですものね。非公式なのですから無礼講でお話ししましょう?
いいわよね?」
笑顔なのに目が全然笑っていない。逃がさないとばかりの猛禽類の目だ。
私は宰相様が諦めたように頷いたのを確認して口を開く。
「どんなお話をなさりたいのでしょうか?」
「わたくし、あなたたちが神の使者なのを知っているの。」
私は知らない。隣を見る。レックスも知らないようだ。
「そんな話しは存じ上げません。私は生まれる前の『記憶』を持っているだけです。クリスティーナ様は何をお知りなのですか?」
クリスティーナ様は得意そうに言う。
「私の側近は神によって魔法の無い違う世界から使わされたそうなのです。神は魔法の無い世界をお望みなのでしょう?あなたたちは何故神の意思に背き、魔法を再現するのですか?」
いきなり予想と違う。困ったな。
私たちが神の使いではないからです。なんて言うわけにはいかないよね。
「私は神の使いなのでしょうか?私は神にお逢いしたことも、使命を頂いたことも御座いません。」
「あら、そうなの?そちらの方はどう?」
「私も自分が神の使者などと思ってはおりませんし、そのような事実は御座いません。」
「あら?困ったわ。神を信じてはいらっしゃらないの?」
レックスが鋭い視線に戸惑っている。信じてないとは言えない…が、信じてると返せば次が困るだろう。
クリスティーナ様はレックスが答えないので、少し余裕ができたのか笑みを深めて私を見た。
私は覚悟を決める。
「私の『記憶』は魔法をこの世界にもたらした神の国のものではありません。そこはお間違えの無いようにお願い致します。
私が信じているのはこの世界を作った神であり、魔法をもたらした国の者ではありません。聖書に《魔法はどの星でも世界を壊すことしかできないのだ。》という一文があります。
魔法をもたらした国は一度、別の世界で滅んでいたのではないかと考えております。
私の記憶にある世界には、魔法の代わりに『科学』がありました。『科学』も使い方を間違えれば世界を滅ぼすものでした。
実際に私たちの世界は滅びの危機を迎えました。
その世界の神は何もなされませんでした。
それでも世界を滅ぼさないように自分達でルールを決め世界を守ることが出来ました。人は正しい道を選ぶことも出きるのです。
人がいる限り、魔法が無くなっても、科学の発展は止められません。同じ道を辿ります。
私は神を、運命を信じております。神の使者だったのでは魔法をもたらした国の方たちだったと考えています。神は滅びの危機を教訓として教えててくださったのです。今度は間違えずに生活のために魔法を使うようにと。」
「ですので、教会の教えのとおりに魔法使います。私たちの生活を豊かにするために。いかがでしょう?」
王様をはじめこの国の人達は納得された顔をしていた。まずはひと安心だ。
クリスティーナ様は…変な顔をしている。怒っているのか、困っているのか、呆れているのかわからないけど、せっかくの美人が台無しだ。
側近の一人が発言を求めて挙手をした。
クリスティーナ様は許可しなかった。
「分かったわ。あなたたちが神の使者ではないという前提で話しましょう。それでも、あなたたちが持っている知識をこの国だけに留めておくのは、魔法の国の時のように争いのもとになるとは思わなくて?」
痛いところを突いてくる。
「それは危惧しております。ですがどこの国も先の争いの影響が残っており、神の教えが広がっていることも存じています。どこか一つの国が教えを信じず戦を仕掛ければ他の国が黙ってはいないでしょう。
私たちは、この知識を自国のためだけにつかうのではなく、他国にも広げるつもりがあります。
今回も先だってリーゼス王国の使者様にもお教え致しました。
その際に理解していただけたと思いますが、私たちの知識は複雑で一つ教えるのにもとても時間がかかるのです。
争いが起これば、また消えてしまうもの。発展を望むのであれば奪うのではなく育てなければならないのです。
これから、私たちが魔法を含め知識を各国に広げる際、この事を前提に説明しようと考えております。
神の使者ではない私には、それで国が守れるかは判断できませんが、攻めてくる国があれば今度こそ、この世界から魔法は消えてしまうのではないかと愚考致しております。」
あ、最後のやっちゃった…。団長がにらんでるや(苦笑)
王様が話に入ってきた。
「クリスティーナ妃、こちらの言い分は理解していただけたであろうか?私は、そなたが嫁入りの際も知識の流出を知っていながら二人の『記憶』持ちの同行を許した。本人たちも了承したし、リーゼス王国に贈る価値があったと思ったからだ。
リーゼス王国では、そちらのお二人は妃の護衛以外に何を為されているのか?」
指摘されたクリスティーナ様は表情は代えなかったが、少し動揺したように見えた。
「その当たりは我が国の内部のことなのでお話致しかねますわ。」
王様はさらに追求する。
「先程、クリスティーナ妃はそちらの側近が自身を「神の使い」と言っていたように思うがそれは相違ないか?」
今度ははっきりと動揺が見えた。
「あらお父様嫌ですわ。私の側近が『記憶』持ちの側近のことを「神の使い」のようだと言ったので私がそう思い込んでしまったのですわ。本人たちが言ったのではないのです。」
誤解させてしまったようですわ、と笑顔で追求を拒絶する。
王様はそうか、とそれ以上は追求しなかった。代わりに
口調を砕いて言った。
「では今度は使者ではなく、嫁に行った娘に話そう。うちの魔法師団のシェリルは『記憶』持ちなのだがな。
記憶持ち同士はお互いに『科学』の話が出きるらしい。
得意分野も違うらしく、そちらの『記憶』持ちと話をすることでお互いに新たな発見があるのではないかと言っていたのだ。
リーゼス王国でも新たな開発が出きるようになるかもしれんし、我が国もまだ開発できていないもののヒントを得られるかもしれん。この提案についてはどう思う?」
クリスティーナ様は二人を見て余計なことを言わないようにという感じの視線を送った。
「ここで今から話すのであれば構いません。」
「では、彼らの会話に口を挟むなよ?」
クリスティーナ様は頷いた。
「許可が出た。我々は“内容が分からなくても”口を出さない。思うように話すと良い。」
許可は出た。
私は日本語で話をはじめた。