12 クリスティーナ妃
クリスティーナ妃は手強い相手である。
城の外へ出れないならと、城のなかで情報を集めるようだ。
クリスティーナ様の侍女は方向音痴になるほど体調不良であるらしく、あれから連日治療院にお世話になっている。
城のあちこちで目撃され、城の召し使いや庭師に声をかけていた。理由を問うと、体調不良で治療院に行く途中だったという。同じ日に何度も同じ理由でうろうろされるので次の日には兵士が付き添い(見張りではない)がついた。
治療院だって怪我以外は基本的に投薬治療だ。
症状に合わせた薬を処方して、与えられた部屋で休むように指示している。
それでも1時間と開けずやって来て付き添いの兵士や、治療院に来ている患者から話を聞こうとする。休むように言ったはずだと言うと、話をするのは気分転換で、今度は頭痛がするので痛み止を貰いに来ただけだ言うのだ。
クリスティーナ様に苦情を言えば
「体調不良の侍女に風邪でもうつされては困りますもの、治療院はきちんと直してあげてくださいませ。」
と言う。
クリスティーナ様がお帰りになる予定の前日には、侍女に静養のため一室を与えて、必要なら兵士が治療院に赴くようにした。侍女はおとなしくなった。
しかし、今度は代わりにクリスティーナ様が体調不良だと訴えた。
団長自ら診察に向かったが、女性がいいと追い返された。
女性の魔術師が診察したが、特に悪い様子もない。
しかしクリスティーナ様は言った。
「病気も治せる魔術師が居ると聞いたのです。その方を呼んでくださらない?」と。
クリスティーナ様は授賞式で私の名前を聞いたはずだし、そこまで情報を集めたなら同一人物であることも恐らく知っているだろう。
あえて指名しなかったのであれば、こちらを試しているのかも知れない。
ここのところ私は運良く土木の担当で王都の外壁の修繕に来ていた。
団長の使いの人が来て、今日は仕事が終わり次第、真っ直ぐ寮に帰るように言われた。
明日も運良く休日である。
明後日からは治療院なので体調不良を理由に帰国を遅らせられるとお会いしなくてはいけなくなるかもしれないが…。
寮に帰ると、レックスが訪ねてきた。
今日はレックスも研究室には行かなかったようだ。
聞くところによると、王も困っているらしい。
結局、魔法は二人の側近にクロード様が教えたようだ。魔法文字の一つも知らなかったようだが、仕組みは理解でき習得は数時間で済んだ。
その後情報を交換しましょうと持ちかけられたそうだが、クロード様は、「あなた方も『科学』とやらの知識がおありなら、魔術師になられたらいかがですか?新たな魔術の情報をお持ちくだされば、こちらも相応の情報をお渡ししますよ。」と地位が上であることを盾に早々に引き上げたそうだ。
お茶会は異母姉妹で以前から仲も良くなかったはずなのに、団長の婚約者であるシャルロット様を招待なさろうとしたり(王に止められたが)「授賞式の時は紹介していただけなかったので」、とシェリルとレックスを招待しようとしていたらしい。(これも王の許可が出されなかった。)
結局、自分の同年代の昔のお友だちを呼んでお茶会を行ったようだ。
お茶会自体に収穫は無かったようだが(これも招待客には魔術と『記憶』持ちの情報を話してはならないと通達があった。)少し変わった優秀な若者が居ないか?最近はどんなものが流行しているのか?誰が開発したのかなど、質問責めにしたようである。
以前から自己中心的で我が儘な質ではあったが、王女としての分別はあったらしいのに、いったいどうしてしまったのだろうか。
自分の母国に恨みでもあるのか?それとも、嫁ぎ先で何かしらの功績を欲しているのか?
誰もクリスティーナ妃の行動が予測できず、困っているのが現状だ。
何か打開策は無いかとレックスも期待されたが思い当たらず、私の意見を聞きに来たらしい。
「もう、ここまで来たら隣国に苦情のお手紙を書くしか無いんじゃない?」
早くても迎えが来るのは10日後になってしまうけど。
「苦情は王様から、クリスティーナ妃に直接伝えられているんでしょう?」
実の娘で他国の皇太子妃という地位もある人に人目があるのに強くは言えないよね。
普通は地位のある人がそんな我が儘なことはしないのだけど。
明日からが思いやられるなと私とレックスは肩を落とした。