11 隣国の皇太子妃
そんなやり取りをしているとレックスもやってきた。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様。レックスもこっちに来て座れ。二人に注意しておくことがある。」
団長がさっきまでのふざけた口調から一転して真面目な表情になった。
「先日の授賞式に隣国の皇太子妃が里帰りしていたこと聞いたか?」
「いいえ。」と私たちは首を降る。
「隣のリーゼス王国に、この国の第一王女だったクリスティーナ姫が嫁いでいる。先日の授賞式への参加が表向きの理由だったが、すぐに帰ればいいのに、しばらく居座るらしい。
リーゼス王国とは友好的な関係だが、あの姫はリーゼス王国に人や情報を引き抜くところがある。無理やりではないんだが、嫁入りの際にも側近として『記憶』持ちも二人連れていっている。
その側近二人と他にも数名護衛の騎士と侍女と魔術師を何名か連れてきている。しばらくは知らない奴に話しかけられても、申し訳ありません、存じ上げませんで誤魔化すように。
お前たちも『記憶』持ちだと知られれば誘われるかもしれないから、その時のはすぐに返事をせず相談してくれ。
多分今回はクロードがクリスティーナ妃の担当になったから、上手いこと風魔法と雷魔法の再現方法だけを持って帰らせるように仕向けている。
ただ、クリスティーナ妃が連れている魔術師がわざとなのか理解が悪くて困っている。少し時間がかかるかもしれない。」
団長が事情を説明してくれる。厄介な相手のようだ。
「クリスティーナ妃とは、もしかして授賞式でクロード様がエスコートしていた方ですか?」レックスが聞くと
「そうだ。」と返ってきた。
あ、あの女性人妻だったんだ。とつい関係ないことを考えてしまった。
いやいや、そんな場合じゃないよね。うーん。
「確認させていただきたいのですが、お妃様には滞在の理由をお聞きになっていますか?」
クロード様が答える。
「久しぶりの里帰りなので、家族や友人と過ごしたいと。ついでに家族なのだから、再現した魔法をリーゼス王国にも友好の明かしとして贈って欲しいそうだ。」
「王様は許可されたのですか?」
「魔法を友好の証とすることは同意なされた。クリスティーナ妃は客人なので外出は許されず、城でのお茶会のみとされ、招待も王の許可を取ったものだけとした。
滞在期限は授賞式後の一昨日から7日。残りは4日程だ。」
ただしと続ける。
「魔術師が覚えていないので帰れないとごねる可能性がある。また、側近と侍女の外出を要求している。」
「厄介な方ですね。」ため息が出ちゃいそう。
「側近と侍女の外出は阻止していただきたいですね。絶対色々持って帰る気満々じゃないですか。」
その間担当にされるクロード様が1番可哀想じゃないか。それならば…。
「こうしてはどうでしょう?」私はちょっと怒っていたんだと思う。後で考えれば顔に出ていたかもしれない。
「警備だって、お茶会の給仕だって自分の連れてきた者が居なくては困るのはお妃様なんですよ?お妃様の側近と侍女に休暇を与える余裕があるのであれば、我が国よりの見張りや手伝いの侍女は不要でございますね。」
さらに
「魔法を教えるだけなら、その魔術師の人だけ覚えるまで残って貰うか、一旦お帰りになって貰って、出来のいい方数名に来ていただくかしたらどうでしょう?」
もしくはと続ける。
「お二人もいる『記憶』持ちの方に教えるとか。こちらの方がもともと知っている知識ですからすぐに理解されますよ。なんならお会いしなくてもいいように書面に致しますか?」
…。沈黙が流れた。
団長に「お前、喧嘩売りに行くなよ。」とう釘を刺され、
クロード様は「まぁ、対策としては悪くない。王に進言してみよう。」とフォローしてくれた。