10 理由と爆弾発言
結局昨日は使い物にならなくなったクロード様を団長に任せて先に帰ってしまった。団長には申し訳ないことをしてしまった。
クロード様はなんであんなにびっくりしたのかな?
レックスの事もあったから、子離れが出来なかったのかもしれない。
もしかしたら何かしらの計画があったのかもしれない。
今日はちゃんと話し合おう。
仕事を終えて研究室に行くと、今日は団長と副団長が先に来ていた。
「お疲れ様です。」と声をかけて入室すると クロード様が顔を上げてちょいちょいと手招きした。
今日はいつも通りのようだ。
「昨日はびっくりさせて申し訳ありませんでした。でも、早めに言っておいた方がいいと思ったんです。」
反対ですか?と聞けば、クロード様は困ったような諦めたような複雑な表情をして言った。
「ワガママ言えば一緒に研究したかったけど、必要なところは手伝ってくれるみたいだし、ディナンも言ったけど反対する理由がないんだよね。だから自分の行きたい部署に行けばいいと思う。治療院だって僕らの管轄だ。」
ただ…とクロード様は続けた。
「君たちは『記憶』を持っていて、本当は僕やディナンよりも魔法が上手い。それをあまり他人に知られないように。公表されていない魔法は使わないように。
権力の無い力は奪われる。どこの国も力は欲しいし、悪い国も奴らもたくさんいるからね。いずれ、君にもレックスにもちゃんと相応しい地位が貰えるようにするから、それまではあまり目立たないようにするんだよ。」
やっぱり理由があったんだね。
「クロード様たちは、私たちが嫌な目にあわないように新しい部署を作ってくれたんですね。」
「それだけじゃないけど、それもあった。考え直して新しい部署に来る?」
凄く惹かれる提案だ。やっぱり少しでも近くにいたい。
「そこに所属して治療院に行ったり、治癒魔法の研究をしたりしてもいいですか?あと、怪我の治療のコツとか病気の予防法とかを広めたいので、書物にして治療院に流したりもしたいんですけど、いいでしょうか?」
「研究員も増やす予定だから、その人たちに覚えてもらって広げていくのでもいいよね。じゃあ、異動は決定でいいかな?」
クロード様がいつもの穏やかな表情で言うから…。
私はなんだか訳もなく恥ずかしくなって小さな声で
「お願いします。」と言った。
「でも、この前までは新しい部署に異動する話になってたのになんで急にやめようって思ったの?僕らに原因があった?」
す…鋭い…。
「あ、いえ、えーっと…授賞式で…。
ほら、魔法陣の再現での授賞式だったので、新しい部署に行ったらまた分析とかたくさんしなきゃいけないのかなと思いまして。あまり得意ではないので…。そうしたら私が得意なのは治癒魔法なので治療院に行った方が役に立てるんじゃないかと思ったんです。」
一応本当の理由だ。
クロード様は少し疑っているようだけど。
ごまかさなければ…
「クロード様はなんであんなに驚いたんですか?あんなクロード様は始めて見ました。」
今度はクロード様が目をそらした。ん?何か理由があったのかしら?
「君が急に異動しないって言ったから、良かれと思ってレックスにリリーナをつけたように、良かれと思ってしたことで、君にも何か嫌な思いをさせたんじゃないかって思って反省してた。君たちの功績を僕らのものにしてしまっていることも、慣れない授賞式に出したことも。何か気に障ったなら謝らないと行けないと思って。」
ダメだなぁ、こういうところが近くて困る原因なんだね。
自覚したら余計に胸がきゅっとする。期待してしまうから余計だ。
何て返事を返せばいいか困ってしまう。
「何もなかったですよ。」
と言うのが精一杯だった。
そこで団長が「話はついたか?」と声をかけてくれた。
やっぱり団長はイケメンだ。
団長にもやっぱり新しい部署に異動させて欲しいこと、治癒魔法の研究がしたいこと、知識の拡散もしたいことを伝え許可を得る。
そして団長にも
「今だから聞くけど、何で急に異動やめようと思ったんだ?報告は無かったけど授賞式で何かあったのか?」と聞かれた。
「何も無かったデス。」と答えると
「レックスがリリーナをエスコートしてたから、気まずくなったのかと思ったが違ったか?」
と的はずれなことを聞かれた。いや、あながち外れてないような…?でもレックスと私ってそんな関係に見えてたのかな?
「レックスと私ってそんな風に見えます?」
と思わず聞いてしまった。
「お前、行き遅れたらレックスに貰ってくれって頼んでたじゃないか(笑)」
爆弾発言だ!
「えぇ~?!なんですかそれ?まさか聞いてたんですか?性格悪いです!せっかく団長イケメンだって思ってたのに台無しです!ガッカリです!」
団長は思いっきり吹き出して、笑いながら
「愛の告白してたようだったから気を利かせてやったのに。」と有りがたくない台詞を吐く。
「だからあの日お二人とも研究室に来なかったんですね。違います!勘違いです!途中からでも入ってきてくれれば良かったのに!」
本当に入ってきてくれれば良かったのに。あのときなら恥ずかしさは半減だし、誤解も解けた。
こうなったら八つ当たりして巻き込んでやる!
「あれは私の理想が高いから、恋が出来ないって話だったんです!そうなったのも、団長と副団長のせいなんですからね!二人ともお仕事の時は無駄に格好いいから迷惑してるんですからね!」
団長は当然といった涼しい顔だ。悔しい。
クロード様は…お顔が真っ赤だった。