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ナースな魔術師  作者: 柚×花
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9※ ずるい大人

計画は失敗した。


自分の気持ちに気付いてから僕はずいぶんと悩んだ。

彼女は僕を男としてみてくれるだろうか?

彼女は僕を慕ってくれている。だけど見ていればわかる。そこに恋心はない。

本当は彼女に僕を選んで貰いたいけれど、誰のものにもならず側におけるならそれでもいいと思っていた。

そうして、いずれ彼女に見合い話が出る頃に、彼女の両親から承諾を貰えば僕のものにできると安易に考えていた。

だけど、受賞をきっかけに彼女の知識を欲しがる悪い虫が出てきた。目立ってしまえば彼女自身も魅力的だから心を寄せる男も増えるだろう。だから今回の実績を理由に研究部門を作り彼女を囲い込んでしまうことにした。


他の男が寄ってきても悪い大人の権限で、邪魔をしてしまえば良いと思っていたのだ。なんて酷い男だろう。


それがうまく行かないことに気がついたのは、彼女がレックスと恋愛について話していたのを聞いてしまったときだった。

彼女も恋をする、そんな当たり前のことに気付いていなかったのだ。


そのときの僕はどんな顔をしていたのだろう。その後のことはあまり覚えていない。ディナンに馬車に乗せられ一緒に邸に帰った。ディナンにいろいろ聞かれたし、いろいろ話したと思うが、それも記憶が曖昧だ。

今度の授賞式でエスコートすれば、うまく行けば男として意識して貰えるし、少くても虫除けにはなるから頑張れと言われたことだけは覚えている。


それなのに、そんなことさえもうまく行かない。

どこからか情報が流れたのだろう。授賞式に合わせて隣国の皇太子に嫁いだ元王女が里帰りしてきた。

皇太子も一緒なら断ることもできたが、妹の婚約者が表彰されるのに祝いに帰るのも許されないのかと言われ許可が出たようだ。

そうなると困るのがエスコート。皇太子妃からの指名とあらば、婚約者のいない僕には断る術がない。

ディナンに申し訳なさそうに告げられた。

「すまない…。皇太子妃自らの指名だ。王からの命令でもある。

そういうことになってしまったから、シェリルのことは任せろ。誰にもエスコートさせないように見張らせる。一番の伏兵はレックスだが、そちらも相手を手配した。」

心配で仕方なかった授賞式だが、なんとか無事に切り抜けたと思っていた。


どこで間違ったんだろう?

クロードは働かない頭で考える。


新しい部署を作ろうとしたことが間違いだったのか?

彼女を囲い込むだけでなく、彼らを欲しがる権力者から守る必要もあったのだ。最近特に忙しい彼らにゆっくり研究する時間も与えたかったのだ。

決して自分の利益の為だけではなかった。


授賞式に参加させたことは?

それは大事なことだった。彼らの成果を全て奪ってしまうような事は出来なかった。

レックスにリリーナを紹介したこと?

頼まれたわけでも、本人から希望を聞いたわけでもないのに。

やっぱり彼女は冗談のように言っていたけれど、レックスのことが好きなんだろうか?

フォローをして貰うだけなら団内の女性でも、最悪、シェリルと一緒にして見張るようにしておけば良かったのだ。

レックスならシェリルのエスコート相手には一番無難だったのに。


本当にいけなかったのは彼らの話を聞いてしまったことかもしれない。

最後まで聞かず、もしくはあのまま研究室に入ってしまえばこんなに苦しい気持ちになることもなかったのに。

きっとこれが罰なんだろう。


それでもと言い訳がましく、魔法陣を眺めながら考える。


今の二人は僕たちより多くの魔法が使える。

この国一番、二番は間違いなく彼らなのだ。

まだ社会に出たばかりの二人には、色々なところに取り込まれたり、悪用されないようにあまり目立たず、僕らの下にいて貰わなくては守れない。

いずれ貴族社会を知ってから、力を与えるまでは守ってやらなければならない。

それは保護者である僕の義務だ。

もういっそのこと全て打ち明けてしまおうか。

それでも彼女は僕を嫌いにはならないだろう。

そうすれば、罪悪感を感じることなく堂々と彼女を守れる。


レックスの言葉が蘇る。あんな思いはさせたくない。

僕が欲しいのは彼女自身だけじゃなく、彼女の笑顔や、研究の話をする時間、一生懸命何かをしている彼女だ。


それはきっと、今はどちらかしか手に入らない。


それなら、やっぱり僕の気持ちは隠してしまおう。罪悪感を抱えながらずるい大人のままでいよう。彼女が手に入らなくても今の関係を守っていたい。

きっと今は誰のものにもならないのだから。

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