8 思惑
さらに次の日、気合いを入れて仕事に行き、その後研究室に向かう。
研究室にはレックスだけ。
「この間はお疲れ様。」
挨拶をして部屋にはいるとレックスは視線少しずらして疲れたように言った。
「お疲れ。この間見てたんだろ?今日はさんざんからかわれた。」
「見てたよ。男爵令嬢だっけ?」
「男爵令嬢って呼ぶなよ。彼女はリリーナさん!でも身分違いじゃないか。団長が王女様の侍女って紹介してくれて。めっちゃ好みだったのに。王女様がお相手がいないからエスコートして上げてほしいって言うから、オレ凄く頑張ったんだぜ?」
「ダンス誘ってたもんね。緊張してた割りにはきれいに踊れてたよ?」
「でも、脈無しだよなー。身分はどうにもなら無い。」
「そう?レックスならこのまま研究結果出せば爵位貰えるんじゃない?」
「そう言うこと?先物買ってやつ?」
「そうそう。まだ2~3年は猶予があるんじゃない?侍女ならあんまり出逢いもないだろうし。お見合いの話が出る前に交渉すれば何とかなるかもよ?」
「オレが爵位貰えるか分からないから無理だな。後でダメになったときのダメージに耐えれそうにない。」
「団長はそれを見越してエスコートさせたと思うんだけど良く考えたらどうなるか分からないのに待たせるのはリリーナさんにも失礼だよね。」うーん。と二人で考え込む。
しばらく沈黙したあと、レックスがそう言えばと
「エスコートしなくて悪かったな。一応の落ち着いたら戻るつもりだったんだけど、団長がシェリルには団員たちを付けてあるから心配要らないって言ってたから任せちゃって。」
「あれ、団長の手配だったの?うわぁ、団長さすがイケメン!貴族様とか各部署の偉い人とかも来て大変だったんだけど、先輩が挨拶とか紹介とかしてくれて凄く助かったんだよー!後でお礼言わなきゃ。」
「レックスは大丈夫だったの?」
「そう言えば、その辺りはリリーナさんが詳しくて。もしかしたら、シェリルに先輩つけてくれたみたいにオレにもリリーナさんをつけてくれただけだったのかもしれないな。」
「そう言う見方もあるかも。」
「そう言うことにしておこう。その方が諦めがつく。」
「そうだね」
ちょっと実感がこもってしまった。
そしてちょうどいいと思いレックスに話をする。
「レックス、話しは変わるんだけど、私、来年研究の部署が出来ても異動しないかも。」
「えっ?何で?」
「私、やっぱり魔法陣の研究より回復魔法の研究とか治療とかがやりたいんだよね。だからこのまま異動しないで、一人前になったら治療院の専属に異動させて貰おうと思ってる。」
だからごめんね。と伝える。
「でも、研究の相談にも乗るし手伝いにも来るから、今とあんまり変わらないよ。」
「そっか、医療の知識も大事だよな。シェリルが広めないと発展しないもんな。」
でも、と言って顔をしかめ
「団長と副団長には自分で言えよ。それに関しては協力しないからな。」と鬼のような台詞を言った。
そうこうして、文字から魔法の推測をして発動を試す実験をしていると、団長と副団長がやってきた。
「お疲れ様です。団長、先日はお気遣いありがとうございました。大きな失敗もせず無事に参加することが出来ました。」とまずは先日のお礼を言う。
団長は何でもないことのように
「ついててやれないのが分かってたからな。」と言ってくれた。
レックスもついでとばかりに
「オレの方もお気遣いありがとうございました。王女様にもリリーナ様にもお礼をお伝えください。」
とお礼を言った。
団長が副団長をちらりと見る。
おや?
団長は少し気まずそうに「リリーナには自分でお礼を言えばいいじゃないか」と言った。
やっぱりそう言うつもりで紹介したんだなと納得していると
「身分が…」とレックスが小さく返した。
そのあと、レックスには珍しくしっかり団長たちの方を見てはっきり言った。
「リリーナ様は素敵な方で、とても私の理想の女性でしたが、私には爵位がありません。いずれ貰えるかもしれませんが、そんな不安定な私にリリーナ様を振り回す権利もなく、困らせるつもりはありません。私はそこまで自分に自信が持てませんし、後々ダメになることを考えれば、リリーナ様にも身分の合う方とお付き合いしていただきたいので、未練が残らないうちにお断りさせてください。」
うわぁ、レックス格好いい!
凄く見直したよ。
団長は仕方ないなとあっさりひいた。
副団長は関係ないのに、でも…とか、いい話じゃないか、とかもう一度考え直せとか全然格好良くない。
クロード様も自分の弟子には幸せになってほしかったのかな?
でも、全然らしくなくて、格好悪くて安心した。
私は、今ならちょうど言いやすい雰囲気だなと思い
「団長、副団長、ついでにお話したいことがあるんですけど、研究前にいいですか?」
と切り出す。
何だ?と訝しむ二人に私は言った。
「私、来年研究の部署が出来ても異動しないことにしました。ちゃんと理由があって、私やっぱり魔法陣の研究より回復魔法の研究とか治療とかがやりたいんです。
このまま研究部署に異動してしまったら、そう言う方向には進めなくなってしまうので、このまま異動しないで、一人前になったら治療院の専属に異動させて貰おうと思っています。」
もちろん、と続ける
「研究室にも来ますし、レックスの相談に乗ったり、アイディアをだしたり、これからも出来るところは手伝いに来ますのでご理解をお願い致します。」
妙な沈黙が流れる。団長はクロード様に聞いてたのか?というような顔を向けたが、クロード様は言葉もなく固まっている。クロード様が全然動かなくかったので、団長はレックスに「お前は知ってたのか?」と聞いた。
レックスは「さっき聞いたばかりです。」と正直に答える。
クロード様はまだ固まっていて、団長とレックスがため息をついた。
団長は「仕方ないな。無理に引き抜く理由がない。後できちんと保護者を説得するように。」
と言って研究を始めてしまった。
団長から許可が出たんだから、いいんだよね?
レックスは団長に呼ばれ研究の続きを始めた。
クロード様はまだ固まっている。
私も団長に呼ばれ、クロード様を気にしつつ研究に戻った。
クロード様もようやく動く出して、魔法陣を眺め出した。
聞かれるまではそっとしておこう。
クロード様エスコート相手の事も気になっていたけど、今は自分の方が追求されるのが怖いと思っているので。