おかあさんは まほうつかい
わたしの おかあさんは、まほうつかい なの。
でも、おかあさんが まほうを つかったのを、みたこと ない。
「みせて」
って いったら
「あなたが ほんとうに ぴんちに なったときに みせてあげる」
だって。
だから、わたしは かんがえたの。
ぴんちって、どうやったら なれるかしら。
たかい ところから とびおりて みる?
はしってる くるまに とびこんで みる?
わざと おもいっきり こけてみる?
だめだめ、いたいのは いやだもの。
それじゃあ、ひどい かぜを ひいてみる?
しんじゃう ような びょうきに なってみる?
むりむり、びょうきって どうしたら なれるか わからない。
ぴんちに なるって むずかしいな。
いっしょうけんめい かんがえたけど、わたしが ほんとうに ぴんちになる ほうほうは みつけられない。
もういちど、おかあさんに
「まほうを みせて」
って たのんでみよう。
わたしは おかあさんの ところへ はしった。
そして、つまずいて こけちゃった。
あしが いたくて、てが いたくて、かなしく なって なみだが でてくる。
わたしは わんわん ないた。
わたしの なきごえを きいて、おかあさんが やってきた。
おかあさんは、わたしを おこして
「どこが いたいの?」
って きいた。
わたしは
「あしと てが いたい」
って いった。
おかあさんは わたしの あしと てを みる。
「ちは でてないから だいじょうぶよ」
わたしは いった。
「でも、いたいの」
「それじゃあ、おかあさんが まほうを かけてあげる」
わたしの あしと てに おかあさんが てを のせて、じゅもんを となえた。
「ちちんぷいぷい、いたいの いたいの、とおくの おやまへ とんでいけ!」
「ほら、いたいのが おやまへ とんでった でしょう?」
おかあさんに いわれてみると、わたしは あしも ても いたくなかった。
「いまのが まほう?」
「そうよ。おかあさんは、あなたが ほんとうに ぴんちの ときに、まほうが つかえるの」
おかあさんの いうことは、ほんとうだった。
おかあさんは、まほうつかい だったんだ!
「これは ふたりだけの ひみつよ」
「ほかの ひとに しられると、まほうが つかえなく なっちゃうから」
おかあさんが いうので、わたしは
「うん」
とうなずいた。
でもね、じつは もうひとり、おかあさんが まほうつかいだって しってる ひとが いるの。
わたしが まだ おかあさんの ことを しんじてなかった とき、おとうさんに きいたの。
「おかあさんが まほうつかい だって しってる?」
って。
おとうさんは いったの。
「しってるよ。おとうさんは おかあさんに まほうを かけられたから おかあさんと けっこん したんだ」