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神々の加護で生産革命 ~異世界の片隅でまったりスローライフしてたら、なぜか多彩な人材が集まって最強国家ができてました~  作者: 風来山
第三章「王国の危機」

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38.エリンの敵討ち

 虐殺騎士グラハムたちが攻めてきたのは、すでに海岸線の偵察を密にしていたタダシたちには丸わかりであった。

 そこですぐさま漁村からの避難が完了して、タダシやエリンたち獣人の戦士たちの出撃準備も整っておりカモフラージュしている雑木林に潜んで敵を観察している。


「魔獣を使って騎士の数を減らすとは、エリンさんの作戦にしてはなかなかいいですニャア」


 タダシの軍師役をやっている商人賢者のシンクーが、戦闘の興奮に猫の尻尾をブンブン振って言う。


「軍師役をやるのは初めてだと聞いたが、大した度胸だなシンクー」

「この世界で商人なんかやってたら、血なまぐさいことは慣れっこになりますからニャー」


 そういう物か。

 タダシは初めて見る生の戦闘に戦々恐々としているのだが、あまり心配はいらないようだった。


 なにせ家畜の魔獣をけしかけるだけで、敵の数がどんどん減っている。


「それにしても公国軍ってこんなに弱いのか?」

「ニャハハ、偉大なるタダシ陛下の軍にたかだか騎士百人程度で攻撃とは、甘く見られたものですニャー」


「そういや、エリンはどうした。さっきから黙ったままだが」


 シンクーに煽られたらいつも口喧嘩しているのに、今日のエリンはずっと押し黙ったままだ。


「……ねえ、ご主人あいつらはボクたちにやらせてよ」


「攻めたいってことか?」

「あいつらが、ボクたちの村を焼き、仲間を殺した奴らなんだよ! 絶対に逃さない!」


 エリンの髪が総毛立っている。


「ま、待て、落ち着けエリン。シンクーどう思う?」

「大丈夫じゃないですかニャ。みんなドワーフの名工が鍛えた魔鋼鉄の武器を持ってるんですニャから、そうそう死なないでしょうニャア」


 即死以外の怪我なら、イセリナが在庫を山積みにしている万能薬エリクサーで治療できる。

 真剣なエリンは、タダシにすがりついて懇願こんがんする。


「ねえご主人様、お願いだよ。あいつあのままじゃ逃げちゃうよ」

「そういう感じなのか」


「うん、お願い。今しかないんだ。やらせてくれたら、お嫁さんになってあげるから!」

「ええ、今それを言うのかよ」


「早く!」

「わかった。じゃあ、攻撃を許可するが無理は……」


 ……するなよ。

 そうタダシが言う前に、ビュンッと音を立てて飛び出していった。


 誰も反応できない速度だった。

 獣人の戦士たち千人が飛び出していった勇者エリンを追いかけて、手に魔鋼鉄の武器を構えて「うぉおおお!」と突撃していった。


「エリンたちは大丈夫かな。まあしかし、魔獣を使うのはここらが潮時か。全滅しちゃうと明日のミルクや卵にも困るから、クルル魔獣たちに指示を頼む」

「グルルル!」


 タダシとクルルは、グラハム隊と相打ちになっていた魔牛や魔鶏たちをいい頃合いで引かせる。

 だいぶ家畜が殺されてしまって、替わりに牛肉と鶏肉が手に入る。


 これは、しばらく焼肉パーティーだなとタダシは思うのだった。


 一方――。


 飛び出してきた獣人戦士隊千人を見て、グラハムは無言で(きびす)を返す。

 撤退の指示は出さない。


 すでに、ここは死地だ。

 この状況で(おく)れを取るものは、殿(しんがり)として犠牲にすると決めた。


 副団長であるグラハムが生き残れるならば、他の全員が死んだとしても無駄死にではない。

 用意周到なグラハムは、一隻だけすぐさま退避できる準備を整えさせておいた。


 生き残りさえすれば、いくらでも反撃の機会はある。

 だが、軍船に向かって脱兎の如く逃げ出そうとするグラハムに、凄まじいスピードで獣人の勇者エリンが立ちふさがる。


「チッ、あの時の小娘勇者か!」

「虐殺騎士グラハム!」


 鋭く息を吐いたエリンが青く輝く剣を懐に突きこんでくる。

 からくも、身体をくねらせて回避した。


 一瞬だけ掠めたお互いの剣が、火花を散らす。

 グラハムは相手の剣をへし折るつもりで魔剣を叩きつけるが、それを受けた小柄なエリンの身体はびくともしない。


「魔剣と互角に打ち合うだと。なんだよその奇っ怪な剣は、小癪(こしゃく)なメスガキ風情がぁよ!」

「貴様が、コーネルを!」


 速い、そして重い斬撃。

 この前までの小娘とはまるで違う。


 エリンの放つ凄まじい切っ先を辛くも避け、受け流しながらグラハムの心は殺意を高めてどんどん冷たくなっていく。

 荒れ狂う剣戟(けんげき)の雨の中で、こりゃ殺すしかねえなと思考する。


 グラハムは気の強い女が好きだ。

 後数年すりゃ、エリンもいい女になっていただろう。


 先の戦いで仲間を目の前で殺されて、ピーピー泣いている姿はかなりそそられた。

 しかも、こいつは自分よりも弱いくせに、獣人の勇者なんて呼ばれてやがる。


 何が獣人の希望だ。何が勇者だ。

 こいつらゴミどもにそんなものはいらない。

 

 エリンには、それを絶対にわからせてやろうと思った。

 そのうち無理やりベッドに組み敷いて、泣き叫ばせながら自分の立場を教えてやるのも楽しいかと思ったから、あの時はあえて仲間を甚振(いたぶ)って殺し、エリンは生かした。


 しかし、今はグラハムの方が死地にいる。

 命あっての物種、エリンのような上玉を殺すのはもったいねえが遊びは終わりだ。


「ふん、しゃーねえ。溶けて焼け死ね! 濃硫酸の刃(アシッドブラスト)!」


 凄まじい勢いで濃硫酸の刃が幾重にも飛んでいく。

 とても避けられるスピードではない。


 これぞ、グラハムの奥の手。魔剣アシッドの異能の力、アシッドブラスト。

 可愛らしい犬耳勇者エリンは、無残にも濃硫酸の刃に切り刻まれてドロドロに溶けた肉片へと変わる、はずだった。


「なっ! なぜ避けられる! お前は一体何なんだ!」


 ありえないスピードで、エリンの身体が横にブレた。

 エリンの身体は残像を残して、アシッドブラストの射程の外にいた。


「もう前のボクじゃないんだよ。ご主人様のおかげで、ボクはもう英雄の加護☆☆☆☆(フォースター)の勇者なんだ!」

「ええい、アシッドぉおお!」


 それでも、魔剣アシッドを構えて異能を繰り出そうとするグラハムに、エリンは全力の一撃を叩き込んだ。


「くどい!」

「折っただと! かはっ!」


 魔剣アシッドが折れるというありえない現実を前にした一瞬の隙。

 それが、虐殺騎士グラハムの致命傷となった。


「コーネルのかたきだ!」

「うあああぁ!」


 グラハムは胸に突き刺された刀身を掴み、凄まじい絶叫(ぜっきょう)とともに剣を引き抜こうとするが、深く突き刺された胸の傷はもはや致命傷。

 これまで多くの人を甚振り、いたずらに命を奪ってきた虐殺騎士にそれがわからぬはずもない。


「お前は、ここで死ぬんだグラハム!」

「クソ、ガキ……」


 もはや声も出ない。

 青ざめた唇の動きだけで、貴様も道連れだと、グラハムが死に際に放った全力の濃硫酸の刃(アシッドブラスト)に、エリンの身体が焼き裂かれる。


 それでも、エリンは腹の底から叫びながら、更に力を込めて剣を強く突き刺した。

 折れた魔剣の力では相打ちには持ち込めずに、グラハムはついに事切れた。


 そうして、本懐(ほんかい)()げてその場に力尽きたように倒れ込むエリンを見つけて、タダシが慌ててやってくる。


「大丈夫か。エリン!」

「……ご主人様、ボクやったよお」


「ああ、よくやった。この戦いは俺たちの勝ちだ。これ飲んでゆっくり休め」


 撒き散らされた酸の海からエリンを救い出して、タダシはエリクサーをゆっくり飲ませる。

 エリンがグラハムを討ち果たした時、獣人の戦士隊もグラハム隊に圧勝していた。


 なにせ、騎士の鋼の剣も魔鋼鉄の武器の前には、あっという間に折れてしまうのだから戦いは一方的だった。

 怪我をしてもエリクサーですぐ回復するので、もともと壊滅寸前だった敵の騎士はほとんどが怒りに震える獣人の戦士たちに殺され、十数名は捕らえられてしまった。

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※ なろうの書報 ※

― 新着の感想 ―
[一言] 知恵がある魔獣にエリクサーを持たせたら・・・
[一言] 復讐は何も生まない、などと言いながら忠臣蔵が美談とされる日本である。
[良い点] ケジメもついたしこれで偉大なる生産王の生産活動に身を委ねても大丈夫だ [一言] さて、マチルダ閣下は自分の大失態に気付けるかな
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