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神々の加護で生産革命 ~異世界の片隅でまったりスローライフしてたら、なぜか多彩な人材が集まって最強国家ができてました~  作者: 風来山
第三章「魔界の深淵から」

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149.歓楽都市バッカニアは燃え尽きる

 とりあえず強行偵察。

 偵察といえば、空を飛べるドラゴン軍団だ。


 しかし、今回は相手が滅竜帝と聞いて、いつもは強気な竜族達が珍しくビビっている。


 相手が古竜という同じ系統の上位種だからかもしれない。

 本来強大なはずの竜種を超える、強大な敵なのだと覚悟しなければならない。。


 万が一の際はすぐに逃げるからという約束でなだめすかして、タダシ達は空を飛べるドラゴン軍団など機動力がある厳選されたメンバーのみで、アダル魔王国の首都、歓楽都市バッカンテに向かってみたのだが……。


「魔王ケイロン、まだ食ってるのか」


 時間がないから、タダシ達は疾走しながら作戦会議などをこなしているが、その中でも魔王ケイロンは異常であった。

 具体的に言うと、ずっとムシャムシャと食事している。


「この肉は凄く美味いな。初めて食べる味だ、何の肉なんだ?」


 もしかすると、ケンタウロス族は走りながら食うのが当然なのだろうか。

 実に器用なものだと思いながら、タダシは答える。


「魔牛の肉だ」


 こんな場所で美味い肉を食いたいと言ってきたのは、魔王ケイロンだ。

 一応相手は王ということで、特別にタダシがマジックバッグから秘蔵している魔牛の肉を出してやったのだ。


 それをどうするかと思ったら、魔王ケイロンは移動しながら魔法で焼いて食っている。


「なんと、タダシ王国では魔獣の家畜化に成功しているのか!」


 魔王ケイロンは、食道楽でなかなかのグルメらしく、この肉の価値に気がついているらしい。


「完全に家畜化できてるとは言いづらいな。クルルが監視してくれているから、なんとか小さな牧場として機能しているといったところだ」


 タダシが乗っているフェンリル、クルルがいてくれるからできていることだ。

 頭を撫でられて誇らしげに「くるるる」と鳴いている。


「俺は、それほど貴重な肉を賞味しているというわけか……なんだかパワーがでてきたぞ。これなら、戦いでも活躍できそうだ!」

「まあ、期待しているよ」


 魔王ケイロンがディオニシウス神から授けられたという星神の弓(サジタリウス)というかなり最強っぽい弓。

 神器であるのだから、何らかの役に立つに違いない。


「タダシ王。こんな場所でなんだが、アダル魔王国を譲る件を正式に考えてはくれないか」


 魔王ケイロンは、真面目な顔をして言う。

 アダル魔王国をあげると言ったのは、どうやら本気のようだ。


「なんでそんなに国を譲りたがっているんだ」

「国を守れる力を持っているから魔王なのだろう。今回の件で、俺には荷が重いことがわかった」


 力あるものが、国民を守るのが当然であり、守れなかったから魔王から退く。

 魔王ケイロンの考え方は、ただそれだけなのだ。


 極めて単純にして明瞭。

 やはり、好人物だなとタダシは思う。


 ただ、真面目な話をするのに肉を食い続けているのはどうかと思うが、腹が減っては戦ができぬということなのだろう。


「なんで、俺がそれだけの力を持ってるとわかるのだ」

「神に勝ったというタダシ王のことは魔界でも評判となっている。そうでなくとも、俺は魔獣というものをよく知っている。神獣フェンリルを従えているタダシが弱いはずがない!」


「そういうものか」

「タダシ王を見て、弱いと思う者がいるなどとは考えられないな」


 それが、これまでのケースだとタダシを弱いと思って見下してくる相手はいたりする。

 野良着を着て鍬を担いでいる農民丸出しのタダシを見て、そこまで正しく力の差を認識できる方が珍しい。


 魔王ケイロンは、しごく単純な思考回路をしているために、却って物事の本質が正しく掴めるのだろう。


「王様! 歓楽都市バッカンテが見えてきました。えっとなんと言ったらいいか」


 小竜侯(ワイバーン・ロード)デシベルが言いにくそうに言う。


「前に来たことあるから、違いがわかるけど……街がなくなってる」


 それは大変だ。

 タダシは、クルルにジャンプしてくれと頼む。


「くるるるるる!」


 クルルは、ここが活躍どころと張り切って大ジャンプする。

 フェンリルが苦手なデシベル達は、自分たちのところまでクルルが飛んでくると「うわわ!」といって、逃げ惑う。


「なにもないじゃないか?」


 本当に何もない。

 強いて言えば、巨大なクレーターのような窪地が遠くに見えるくらいか。


「王様、そのなにもないところに大きな街があったの……」

「ああ! もしかして、黒焦げになっているあれか」


 遠方から、かろうじてまだ煙が上がっているところが見える。

 よくよく目をこらせば、だんだんと街だったものの残骸が見えてきた。


 一部分には、燃え残っているところもあってそこでは古竜たちが炎のブレスを吐いて焼き尽くさんとしている。

 なるほど、デシベル達が自分達とは違うと言うはずだ。


 これまで見てきたワイバーンやドラゴン達は、この恐ろしい古竜達に比べたらまだ可愛げがある。

 古竜は、黒や茶色などの薄汚れた色で、みんなゴツゴツとした岩のような肌をしておりその巨体は三メートルから四メートルほど。


 どちらかというと、怪獣映画に出てきそうなモンスターである。

 だんだんと近づいてみればわかってきたが、そいつらが、数えきれないほどうじゃうじゃと飛んでいる。


 そいつらがメラメラとした炎のブレスで街を焼き尽くすのだ。

 こんな事をされては、どんなデカい都市でも、ひとたまりもない。


 おそらくクレーターの窪みいっぱいに街があったのだろう。

 ちょうど円形の硬い土の壁ができていて四方に大きな門が建造されていた。


 それが、天然の防壁となって鉄壁の街だったに違いない。

 しかしそれも、空を飛ぶ古竜の群れに襲われてはひとたまりもなかった。


 そこに、ひょいと魔王ケイロンも飛んできて言う。


「歓楽都市バッカンテは、神話時代に、フェンリルと竜神が激突したことにより出来た巨大なクレーターのあとに出来た賑やかな都市だ。いや、これを見ると、賑やかな都市だったと言うべきか」


 相変わらず、自分の国なのに淡々とした他人事のような口調である。

 一方、タダシは静かな怒りに震えていた。


 大きな都市一つを焼き払う行為は、もはや虐殺だった。

 こんなやり方、戦争だとしてもありえない。


 一体何の目的があって、こんなことをするんだ!


「なんとか、できるかぎり一人でも多く助ける!」

「そう言ってもらえるのはありがたいが、デカさはともかくあの数は……」


 誰が見ても無理だと、魔王ケイロンは言いたい。

 そう思うだろう。


 タダシも、一匹や二匹ならともかく数百以上もいる巨大な古竜を一気に倒すなど不可能だ。

 それでも……。


「俺が虐殺を止めて見せる! なんとか助ける時間を稼いで見せる!」

「どうするんだ?」


「みんな俺に付いてきてくれ! クルル! クレーターの真ん中まで走っていってくれ!」


 くるるるるる!


 クルルは、大きく叫ぶと全力で跳躍して、一気にクレーターの真ん中へとタダシを運んだ。


「よし!」


 タダシは、その勢いのままに懐から世界樹の種を取り出して投げる。

 そして地面に思いっきり魔鋼鉄の鍬を叩きつけた。


 ピキーン!


 大きな煌めきとともに、地面よりニョキッと生えた世界樹が見る間にあたりを覆い尽くしていく。


「そうか! 世界樹を空からの攻撃に対する防波堤にするのか!」


 タダシの願いのままに、世界樹は低く枝を伸ばして、古竜の攻撃から街を守るようにする。

 巨大なクレーターに世界樹で蓋をしてしまえば、空からの攻撃は防げる。


「何をしてるニャ! 今のうちに住民を逃がすニャ!」


 真っ先に、タダシの意図を察知した商人賢者シンクーが叫んだ。

 古竜が突如として出現した世界樹に混乱している今がチャンス。


 タダシは叫ぶ!


「みんな、住民を運んで逃げてくれ!」


 竜種の上位種が相手でビビッていたワイバーンや、ドラゴンは、我先にと魔族の避難民を連れて逃げようとする。

 突如現れた竜種にも、住民の魔族は恐れていたのだが。


「魔王ケイロンだ! この人達や、魔界の竜種は味方だ! みんな生き延びたければ協力して全力で逃げろ!」


 魔王ケイロンが、冷静に魔族の住人を説得して周り素早く避難させる。

 自身も、馬の背に避難民を乗せて脱兎のごとく逃げ去るスピードは見事だった。


 建物がメラメラと燃えていても、世界樹の枝は空気を通して古竜を通さないから煙で窒息することはない。

 突然のことに、古竜達は混乱して暴れるだけで何もできない様子だ。


「ギャォオオオ!」


 上空を旋回してギャーギャー騒いでる古竜に向かって、商人賢者シンクーは挑発して叫ぶ。


「そんなに吠えても怖くないニャー! 偉大なるタダシ陛下の神技! 世界樹の威力を知れニャー!」


 シンクーが挑発をかますことなんて珍しい。

 なるほどと、タダシはすぐ気がつく。


 街から逃げ出すドラゴン軍団を追撃させないための囮になるつもりなのか。

 シンクーがひょいとクルルに飛び乗ったので、タダシもそれに続く。


 シンクーとタダシは、クルルに避難民とは逆の方向の門に向かってもらいながら、古竜達を誘導するために精一杯叫ぶ。


「俺がタダシだ! 他の者を攻撃するな! 俺に文句があるなら滅竜帝ガドーとやらを呼んでくるがいい!」


 タダシもいつになく真剣に大見得を切る!


「バーカ! バーカ、デカいだけで役立たずの間抜けな黒トカゲどもニャ!」


 シンクーも全力で罵倒する。

 ドラゴンをトカゲ呼ばわりするのは最大の侮辱である。

 

 タダシ自らが殿(しんがり)となって古竜達を引き付けて、ときおり世界樹の種を更に生やして空を飛んでいる古竜をなぎ倒して挑発する。

 古竜どものやっていることが許せないため、タダシも今回ばかりは本気で怒りに震えているのだ。


 タダシに向かって古竜が無数に殺到しているが、世界樹の葉にその攻撃は全て受け流されて、味方に押し潰される古竜が出る始末。

 本当に破壊以外何の取り柄もない、間抜けどもだ。


 こうして、タダシ達が囮になったことによって。

 救助は順調に進んでいった。


「向こうも、相当カッカッ来てるみたいニャ」

「そうだな」


「でもタダシ陛下。ここは頃合いを見て、一旦引いた方がいいニャ」

「そうか、ここで戦闘は難しいよな」


 避難民の救助が最優先。

 それらを守りながら戦うのは得策ではない。


「相手の実力がわからないということもあるニャけど、戦うのにここは場所が悪すぎるニャ」


 これだけの敵を相手にするなら、適した場所を選びたいというのはわかる。

 それに、すでにかなり破壊されてしまっていると言えど、ここはアダル魔王国の首都でもある。


「でも、どこで戦うシンクー?」

「まず古竜対策ニャ。この数を、一気に殲滅するには超級の大量破壊兵器しかないニャ。そこで、敵をこのガイラス湾に誘い込めればベストニャ」


 シンクーは、ククルの背中に広げた大陸地図を指差して言う。

 アダル魔王国にも、超弩級戦艦ヤマトを浮かべられるような深さのある港があるらしい。


「そうか、拡散超弩級砲を使うのか」

「空を飛ぶたくさんの相手をするにはもっとも効果的ニャ」


 シンクーも手回しがいいことで、もし陸に向かって攻撃を仕掛けることができるならここしかないと、すでに超弩級戦艦ヤマトに向かうように指示をしているという。

 さすがはタダシの知恵袋、最初からそのつもりであったということか。


 と、そこに!

 ギリギリと音を立てて、世界樹の枝がバッサリ落ちてくる。


 どうやら、何かに切り刻まれているようだ。


「なんと!」


 世界樹を断ち切れるだけの威力を持つ攻撃ができる相手といえば、ただの古竜ではない!

 鋭く黒光りする鱗に覆われた巨大な竜の腕が伸びてきて、タダシ達の近くにズシャッと爪を立てる。


「滅竜閃剣爪!」


 禍々しく反り返った鋭い爪が、スレスレのところを切り裂いていった。

 あまりの威力に赤く焼けただれた大地の爪痕!


 ククルは、それらの攻撃を全て避けて、避難民とは逆方向に向かってギザギザに走る。

 その背中の上で、タダシは叫んだ。


「滅竜帝ガドーよ! 恐ろしくなければガイラス湾へと来るがいい! そこでお前ら全てを滅ぼしてやる!」


 攻撃が届かなかった腹いせに滅竜帝ガドーがなにか攻撃したのか、背後でメキメキと世界樹が砕け散る音を聞きながら、タダシ達は一路ガイラス湾に向かって走り去る。

 上手く敵を誘導することができれば良いが……。


 敵は一万年の長きにわたり強さのみを追い求め、神へと迫ろうとする滅竜帝ガドーと数百匹はいる巨大な古竜の軍団。

 世界樹を砕くほどの強敵を誘い込み、タダシは決戦を挑む!

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