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12.困ってるエルフと獣人たちに食糧をあげる

 イセリナを奴隷にしろってどういうこと?

 完全に平伏しているイセリナに呆然と立ち尽くすが、ハッとなって周りを見回す。


「いや違うよ。違うって! 俺は女の子を奴隷にする趣味はないからね!」


 タダシは、慌てて違う違うと手を振る。

 あらぬ誤解を受けて、周りの女の子の眼からジトッと見られてたまらない。


 タダシの言葉に、イセリナはびっくりして顔を上げる。


「え、人族の男ってみんなエルフや獣人を奴隷にしたい鬼畜生じゃないんですか?」

「そんなわけないでしょ!」


「タダシ様も善人そうに恩に着せておいて、あわよくば私達を奴隷化しようと企んでいるんではなかったんですか?」

「なんなんだよその地獄のような勘違いは!」


 疑い深すぎる。


「誰かが犠牲にならなければならないなら、私だけで勘弁してもらおうと言うつもりでしたが……」

「いやいや、なんで飯を食わせた程度でそうなるんだよ」


 獣人のエリンも、割り込んで言う。


「えーイセリナはダメだよ。イセリナはボクたちの代表で、エルフの女王でしょ。ご主人様の奴隷には僕がなるよ」

「いけません! 獣人の勇者である貴女は、私達の最後の希望なんですから!」


 エリンまでそんなことを思っていたのか。

 タダシは慌てて言う。


「ちょっと待ってくれ。奴隷なんてほんとにいらないから。だいたい俺、ここに一人で住んでるからね!」


 奴隷なんていても邪魔なだけだろう。


「本当なんですか?」

「じゃあ、なんで私達をご主人様は助けてくれるの?」


 そんな不思議そうに言われても困る。


「そんなの困ってたら誰でも助けるだろ。この世界の人間はそうじゃないのかよ」


 イセリナもエリンも、ブルブルと首を横にふる。

 まったく、この世界の人間ってどうなってんだよ!


 さっきからずっと話が食い違っているので、代表者であるイセリナに話を詳しく聞いてみると、とんでもないことがわかった。

 イセリナたちが住んでいるカンバル諸島のエルフや獣人たちは、東から攻めてきた人族の軍事国家フロントライン公国に侵略され支配されているそうなのだ。


「フロントラインに支配される前は、魔族から何度も略奪されて仲間が食べられてました」

「悲惨すぎる」


 カルバン諸島にあったイセリナの国は、魔族と人族の国の両方から攻められてボロボロになっていったそうだ。

 海エルフ族や島獣人は争いから逃れて島に流れ着いた弱い種族で戦闘に不向きな者が多い。


 イセリナの仲間に若い女性しかいないのも、年長者は真っ先に戦いに出て死んだからだそうだ。

 聞けば聞くほど、話が重すぎる。


「魔族の国、アンブロサム魔王国は私達の存在をモンスターの食べ物くらいにしか思ってません。それに比べれば人間はまだマシなんですが、かけられた税が重すぎて……」


 エリンが怒りを露わにしながら言う。


「公国の兵士たちは七つの倉がいっぱいになるまで食べ物を収めなきゃ、奴隷にするって脅してくるんだよ。ボクはあんな奴らの奴隷になるのは嫌だよ!」

「私達エルフは、仲間を大事にします。仲間の奴隷化を阻止するために、沖に出て必死に食糧を集めていたんです」


 それでイセリナたちの船には採った魚があったのに、食べずに飢えていたのか。

 そりゃ、人間の評判最悪になるわ!


「よし決めた! 食糧があればいいんだな!」


 タダシはマジックバッグを裏返すと、ドサドサドサと椎の実とハタケキノコを山と出す。


「こ、これは」

「イセリナ。椎の実とかキノコでも食べられればいいのか?」


 そう言う間も、まだドサドサとマジックバッグから溢れ出す椎の実の洪水は続いている。


「は、はい。私達や人間も、椎の実やキノコは食べますから。しかし、こんなに!? そのバッグはなんですか!?」


 イセリナは、またツッコミが追いつかず目を白黒させる。


「ならばよし! これを持っていけば仲間も助かるんだろう。必要ならもっとたくさん作ってくるぞ」


 万が一を考えて、食糧を大量に持ってきてよかった。


「ご主人様ありがとう! これで仲間が助かるよ!」

「いや、ご主人様はやめろエリン」


 さっきの話を聞いてると洒落にならない。


「じゃあなんて呼べばいいの? 王様? 救世主?」

「タダシでいい。俺は、ただの農夫だ」


「農業王タダシ様!」

「エリン、お前からかってるだろ?」


 エリンは、そんなことないよと無邪気に笑った。


「あ、あの……」


 イセリナがおずおずと尋ねてくる。


「なんだ」

「先程、タダシ様はエリシア草を出されました。もしかしたら、たくさんお持ちなのですか」


「ああ、それも売るほどあるよ。そうか、こっちのほうがお金になったりする?」


 裏返したマジックバッグから、エリシア草もドサドサと出す。


「エリシア草がこんなに……実は島の仲間には怪我人も多く、少しわけていただけないかと思いまして」

「全部持っていけばいいよ。こんなもの、畑に帰ればいくらでも作れるから」


「エリシア草を作る!? そんな話は聞いたことがないんですが」

「言っただろ。俺は農夫だ。作れる」


「いや、作れるって!? エリシア草は育てるのが大変難しく!」


 世界の常識にこだわるイセリナの肩を叩いて、エリンが言う。


「いいじゃんイセリナ。タダシ様にはできるんだよ。農業の加護☆☆☆☆☆☆☆(セブンスター)を持ってるんだから」


 頭痛がしたのか、額をほっそりとした指で押さえるイセリナは考え込んでいった。


「そ、そうですねエリン。目の前の現実は認めなきゃ……タダシ様にとっては、エリシア草はそんなに希少なものではないという理解でよろしいですか」

「そうだ。必要ならあるだけ持っていくと良い」


「申し遅れましたが、私も、癒やしの加護☆☆☆(スリースター)を持つ薬師です。エリシア草を使って、最高位の治療薬であるエリクサーを生産することができます」

「おお、すごいな。それは俺にはできない」


 タダシに褒められると、イセリナは頬を少しほころばせた。


「はい! さっそくやってみますね」


 イセリナはゴリゴリとエリシア草をすり潰して、やかんで煎じ始める。

 抽出したエリシア草の薬効成分を、透明なガラス瓶に入れて出来上がりだ。


 あざやかな緑色のエリクサーが完成した。


「いかがですか。お助けいただけるお礼となるものは何もありませんが、癒やしの加護☆☆☆(スリースター)を持つ薬師である私が、生涯タダシ様のためにエリクサーを作り続けましょう」


 毛布をマントのように羽織ったエルフの元女王イセリナは、タダシにさっとエリクサーの小瓶を差し出すと、ふくよかな胸に手を当てて優雅に頭を下げた。


「ほう、見事なガラス瓶だ」

「えー、そっちですか! 私の一世一代の見せ場だったんですが……」


 タダシの意外な反応に、イセリナはずっこけそうになる。


「いや、エリクサーも凄いが、ガラス瓶が作れるのが凄いなと」

「ああ、ガラス瓶なら砂があれば作れますから。アーシャ!」


 イセリナが、一人のエルフを呼ぶ。


「はい。イセリナ様」

「アーシャは、鍛冶の加護☆を持つガラス職人です。砂から、ガラス器を作る技術を持っています」


 ガラス職人だからというわけでもないだろうが、大人しそうな印象のアーシャはメガネをかけていた。

 レンズを作る技術も有しているというわけか。


「それは是非、教えを請いたい」

「え、私ですか」


 泣きそうな顔になったアーシャは、エリンとイセリナをキョロキョロと見回して、諦めたように肩を落とす。


「じゃあ、私が奴隷に……」

「いやいや、お前らいい加減、奴隷って発想から離れろ! 俺にも作れるように教えて欲しいって言ってるだけだ」


 フロントラインとかいう国のせいで、話がややっこしくなって困る。


「あのタダシ様、アーシャは確かにガラス器を作る高度な技術を持っています。製法は本来エルフの秘密なのですが、大恩あるタダシ様にならお教えしても構いません」

「それは助かる」


 こんな綺麗なガラス瓶が作れるようになったら凄く楽しいなと、タダシはワクワクする。


「ですが、ここには材料となる砂はあっても、燃料も、炉も、道具すらありません」


 見渡す限りの砂浜で、燃料になりそうなものは何もない。

 

「燃料はたくさんあるぞ。炉も道具も、どのような形の物が必要なのか言ってくれればすぐに造るから」

「すぐ造る、ですか!?」


 タダシがマジックバッグからドサドサと、木材や魔木、魔鉱石や魔鋼鉄などを取り出すので、イセリナたちは全員あっけに取られるのだった。

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速報、12月28日に「神々の加護で生産革命」コミック1巻が出る! 発売はモンスターコミックス様より! 予約お待ちしております! 特典情報 メロンブックス様・とらのあな様でご予約いただくと 特典のモノクロイラストカードがつくそうですので(メロンブックス様がイセリナ、とらのあな様がエリンだそうです) ぜひご検討くださいm(__)m 神々の加護で生産革命、書籍版2巻発売中! 発売はMノベルズ様からです。ぜひとも、よろしくおねがいします!

※ なろうの書報 ※

― 新着の感想 ―
[気になる点] あー、、、 折角良いチュートリアルだなぁって思ってたけど 神様達にはチュートリアルで主人公にこの世界の 常識を教えておいてほしかった(笑)
[一言] まったく人間どもときたら、すぐにエルフを奴隷にしようとするんだから!(激怒
[一言] 皆まとめて移住決行ですな。 何人ぐらいいるかな。 数百人の若い女性たち、未亡人たちや子供たち、けがをした力ある年長者たち(未亡人歓迎)もいるはずです。 知識、経験等は今後とも必要だからみんな…
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