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決着

 ハワイアン・リーグの面々は追い詰められていた。

 既にワイキキ方面を守備するアシュフォード大佐率いるホノルル・ライフルズは、戦力は維持しているが形勢の悪さから山岳戦に移行した。

 王宮には日本軍の救援部隊が続々と到着し、王の身辺は彼等によって守られている。

 「陽気な王」こと「メリー・モナーク」と言われるカラカウア王は、ホノルル市内に出て原住ハワイ人たちと話をする事を好む。

 その時に暗殺するしか一発逆転の手は無い。


 だが……


「エクスキューズ・ミー」

「誰だ?」

「貴方にメッセージが届いています。

 開けてよろしいですか?」

「誰か、様子を見てみろ。

 ジャップの罠かもしれねえ」

 密かに窓から周囲を見て、誰もいないのを確認する。

 ピストルを構え、ドアを少しだけ開ける。

 確かに白人のメッセージボーイが立っていて、両手を上げて敵意が無い事を示している。

「誰からだ?」

「私は存じません」

 メッセージカードを引ったくり取って、ドアを閉める。

 そのドア音でボーイが「逃げた方が良いです」と言ったのは聞き取れなかった。


「何のメッセージだ?」

「待て、今蝋封を切るから」

 その直後、ドアが打ち破られた。

 やはりメッセージ・ボーイはそこに人が居るかの確認の為に雇われて送られたもので、目星をつけた者がそこに「居る」事を確認出来た以上、彼等は踏み込んで来た。


「御用改めである」

 とすら言わない。

 ただ無言で斬って、斬って、斬って、そして証拠を持って去っていく。

 カラカウア王の散歩順路と地図を照合していた男たちは、ピストルを仕舞った僅かな瞬間に、逆に暗殺された……。


 ホノルル市中はこのように、もっと入り組んだ路地や下町で戦い続けた部隊「新撰組」による狩り場となっていた。

 室内戦闘のプロ、卑怯な手でも何でも使う、先頭に立つ者を「死役」と呼んで犠牲にする事も厭わない「カウンター・テロ」の一大組織。

 ここの部隊は早い内から原住ハワイ人や、志を同じくする白人をも組み込んでいた為、世代交代がされていた。

 その上「退いた者は斬る」という死の掟があった。

 その体現者が近頃復帰した為、苛烈さに拍車がかかっている。


 併合派白人たちにとってもう一つの希望は、未だ決着が着いていないハワイ島だ。

 リーダーの一人、キニーが率いる部隊が「日本人の王」を捕らえたら、一発逆転である。

 ジャップどもは王の命を救うべく、降伏するしか無くなる。




 そのハワイ島比呂城攻防戦は、いよいよ苛烈になっていた。

 なりふり構わっていられなくなったキニーたちは、彼を運んで来た輸送船に積まれていた砲も陸揚げして攻城に使用し始めた。

 何ポンド砲という旧式の砲だが、砲は有ると無いとでは大きく違う。

 更に守る比呂城側も、若松城の石垣と比べ、火山岩の玄武岩を漆喰で固めたもので、防御力的に難があったのだ。

 2日に渡る砲撃で、破壊し尽くされてはいないものの、崩れる場所が出て来て通行が寸断されたりして来た。

 見事な三階櫓に至っては、土台の石垣にガタが来て、半壊した惨めな姿に変わってしまっている。

 それでも比呂城は落ちる気配は無い。

 多くが誤解しているが、石垣やその上の構造物は、基本無くても戦える。

 土を盛り、縄張りが完成したところでその城の防御力の大半は決まる。

 北出丸と二ノ丸という構造物そのものを破壊しないと、いくら砲撃を続けて上部構造を砕き続けていても意味が無いのだ。

 それを為すには工兵と大量の爆薬が必要だが、キニーの部隊にそんな物資は無かった。


 伝令が駆け込む。

「街道北部、あと1日の行程の地点に日本軍が現れました」

「来たか!」

 キニーはその報告を聞くと、予定通り抑えの兵だけを残し兵を退かせた。

 大砲は一部を除いて城への砲撃に使い続ける。

 キング率いる部隊が北回りの部隊にあたり、キニーは城と南回りの部隊に備える。

 街道はガトリング砲で封鎖する。

 予定していた通りの行動に移った。


「ほお、兵は退いていきますぞ」

「なんの、大砲はまだ残っておる」

「これは、城から打って出る事を防ぎつつ、援軍を迎え撃つようじゃな」

「援軍が来ていると言われるか?」

「戦国の昔から、後詰と戦うのはありふれた事よ」

「そうじゃの。

 では我等は、城の修繕にかかろう」

「まだ撃って来ているからな、弾に当たらんよう気をつけろよ」

 老兵たちはノタノタしているが、状況判断を確実にすると籠城を更に続けるべく行動した。


 元会津家老山川浩率いる大隊は、馬を調達して可能な限り高機動でヒロにやって来た。

 疲れた兵で戦わない、そして借りた馬を傷つけないよう、あと1日の距離の村に泊まって休養と馬の管理を委ねた。

 そして大砲と機関砲(ミトライユーズ)が追い付いたのを確認し、翌朝から進軍する。


「敵が街道を封鎖しています。

 ガトリング砲もあり、突破は困難です」

 斥候からの報告を受け、山川は作戦を考える。

「この中に、狙撃の名手がおったな。

 そう、先年のカラカウア王50歳の誕生日の式典で、一番成績の良かった者じゃ。

 そうじゃ、山本覚馬の妹に習ったとか言った奴じゃ」

「自分です」

「にしゃ、若いの。

 元『白虎隊』か?」

「そうです」

「よし、にしゃは隠れて行動し、ガトリング砲の射手を狙え。

 狙撃したら離脱して良い」

「分かりました」

「皆の衆!

 この者がガトリング砲の射手を狙撃したら突撃する。

 敵を倒す事が目的でねえ。

 城まで駆け抜ける事が目的じゃ。

 安心せえ、走っていれば中々当たるもんじゃねえ」

 兵たちはざわつく。

「この山川浩が先頭で走るから、儂の後に着いて来い」


 山川は戦場を駆け抜けた事で、いくつか経験を得ていた。

 起伏がある土地を走る兵士には、中々銃は当たらない。

 真っ直ぐに駆けるならば被害も大きくなるが、上下左右にブレながら走れば命中率は格段に下がる。

 そして銃火は第一撃を乗り越えれば、黒色火薬の煙が戦場を覆う事で命中率は低下し、白兵戦に移行しやすくなる。

 撃たれるのは恐怖で足が竦む者だ。

 または視界良好なのに無謀な突撃を仕掛ける者だ。

 撃っている内に戦場は煙で視界不良となる。

 この時に損害と敵陣到達人数を想像し、最も効率良いタイミングが分かる者が良い歩兵司令官、当時はそう言えた。

 この常識は機関銃と無煙火薬の普及で時代遅れとなるが、今は最後の「銃火の呼吸を読んで白兵戦に移行出来る時期」と言えた。


 だが、この突撃は未遂に終わる。

 ガトリング砲射手の狙撃兵が配置に着く前に、急に城から歓声が上がり、敵後方が乱れ始めた。

(まさか、城の爺様たち、打って出たのか?)

 山川は驚き、

(キニーの奴、大きな事言っていながら、城からの出撃すら防げなかったのか?)

 とキングが罵倒した。


 だが、実態はあと数日かかると見られた南回りの部隊・立見尚文の大隊があらぬ方向から現れ、奇襲を掛けたものだった。




 立見尚文は重い武装を全て山川に押し付けると、やはり馬を借りて騎乗で移動した。

 この時、何度か調査して、事ある時用に目をつけていた現地人を雇っての山岳行軍をしたのだ。

 現地人がショートカットして島を縦断する道を教える。

「ほれ、あの火山の向こうに、あんたらと同じように島を抜けようとした兵隊が死んだ場所がある」

 その現地人は言う。

「ここは危険なのか?」

 立見はそう聞いたら、意外な答えが返って来た。

「昔、カメハメハ大王がハワイ島3分の1の王だった時、別の王がコハラを奇襲しようと火山の横を通ったんじゃ。

 ハワイ人は火山等恐れないからな。

 じゃがその時は運が悪かった。

 噴火が起きて、兵の4分の1が悪い空気に当たって死んでしまった。

 あっちにはその時の兵隊の足跡が残っているぞ」

 脅しのように言って、ケラケラ笑う原住ハワイ人の老人。

「火山の噴火の時、カメハメハ大王はどうしたんだ?」

「自分の髪を切って、それを生贄に捧げた」

「そうか……」

 立見は下馬し、自分の髪を軍刀で切る。

「大王には及ばぬが、私も精一杯の生贄を捧げる。

 加護の在らん事を」

 そういって一礼し、部下たちにも火山に向かって敬礼を命じた。

「志途中で命を落としたハワイ島の兵士たちへの敬礼!」

 一同は「火山によって死亡した兵士の足跡の遺跡」に向かっても礼を取る。


 結局何も起こらなかったが、現地人の道案内は非常に協力的になり、予定以上の速度でヒロ後方に辿り着いた。


「馬の損害は後で私が何とかする。

 騎乗のまま突っ込むぞ。

 銃も当てる必要はない、ただ撃てば良い。

 敵に奇襲を掛けられたらそれで十分だ。

 では行くぞ!」

 こうして立見大隊は、キニーの警戒していなかった場所から出現し、半分は比呂入城に成功、半数は立見の指揮の下、キニー隊を蹂躙した。

 心理的奇襲にキニー隊は算を乱し、壊乱した。

 それがキング隊にも伝播する。


 状況を呑み込んだ山川の判断は早かった。

「敵が乱れている今、出来るだけここで兵力を削る。

 機関砲(ミトライユーズ)、前へ!

 大砲は敵の後方、退路を狙え。

 撃て!!

 歩兵隊、こちらに向かって来る敵は確実に倒せ!!」


 混乱した兵、軍事の素人である指揮官、敵の方が射程距離の長い銃火砲、全てで不利なキング隊もまた壊滅した。

 残存兵力はヒロの市街に逃げ込む。




 数日後、ホノルル、ヒロ両市内に逃げ込んだ残党に、中立派白人が外から呼び掛ける。

「市内及び山岳地帯において抵抗をするハワイアン・リーグ加盟者に、停戦を勧告する。

 日本のミスター林が和議について仲介を約束した。

 武器を持ったままで良いから、組織を維持したままで良いから、ホノルル・ライフルズの司令部に出頭せよ。

 王国政府並びに陸海軍との停戦交渉を行う。

 生命と身分と財産は保証すると確約を得ている。

 この約束はイギリス及びフランス領事館の承認付である。

 停戦交渉はオアフ島の林邸にて行われる。

 我々の現在の代表は、サンフォード・ドール氏である。

 彼はまだ生きている。

 抵抗をやめて出て来て欲しい。

 市中に逃げている方が余程危険だ!

 新撰組がハワイアン・リーグ狩りを始めている!

 殺されない内に、早く出て来てくれ!!!!」

 最後の方は悲鳴だった……。

約5日間の戦闘は終わり、これで1章消化とします。

まだアシュフォード大佐にキニーが逃げてますし、新撰組の市中取り締まりはこれからが本番なので、内戦自体はまだ続きますが、軍事対決は終わりました。

蛤御門の変が終わり、長州の残党狩りフェーズに入って新撰組が一番生き生きした時間帯と同じ感じです。


さて、銃より刀が強過ぎないか?と疑問が出るかと思いましたので。

銃の方が強いです。

昼間の戦闘で刀は勝ってません。

基本、狭い室内戦闘が、木々が生い茂る中での夜戦で「制圧」に成功してるだけで、刀側の損害も結構出てます。

あと、この後の話(多分書かない)でアメリカによるフィリピン制圧戦争があります。

この時、モロ族との戦いで、呪文を唱えながら突撃してくる敵の蛮刀の兵士に、38口径のピストルが何発当たっても死なず、一人一殺を果たしてから死ぬという事がありました。

小銃、機関砲とかならともかく、室内や狭いとこで使うピストルは、この当時の最大の38口径では威力不足だったようです。

これでコルト45ガバメントという傑作拳銃が開発されたという話があります。

なので、史実通りフィリピンで苦戦し、45口径の強力なピストルが生まれるまでは、急所にでも当たらない限り、戦闘状態に入った日本刀の侍相手にピストルでは苦戦する場面は出す予定です。

小銃に関しては、そろそろ世代交代するので(また金が掛かる)、威力不足と命中率不足と戦場を覆って抜刀隊の接近を許す黒煙の問題は解決します。

旧幕府軍、皆さんオッサンになってるので、そろそろ抜刀突撃をすると足腰痛める年頃なので、これが最後の「刀による勝利」になると思います。

次の戦争からは銃の性能は上がるし、侍の身体能力はさらに落ちるしで、室内戦闘とか船内戦闘とか以外では絶対に銃が勝つでしょう。

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