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ガトリング砲VSミトライユーズ

 ガトリング砲は1861年に発明された。

 当時のものは車輪の付いた砲架に載せて、大砲と同じように扱っていた。

 ミトライユーズはそれより早い1851年に発明された。

 両者とも多銃身の機関砲であり、砲身のみの重量は型による違いもあるが、ガトリング砲が大体77kg程、ミトライユーズが大体340kg程であった。

 この重さと砲架に載せる形状の為、機関銃的な「左右に銃身を振って掃射」という使い方は出来ない。

 また歩兵と共に前進して野戦を戦うにも向いていなかった。

 何故なら、この時代の戦術は集団突撃を廃し、散開しながら突撃するものに変わっていたからである。

 フランスでは砲兵が運用し、敵を長距離狙撃する使い方をしたが、普仏戦争はミトライユーズの最大射程での戦闘は発生せず、もっと近い距離での戦闘となった為、大量の小銃での撃ち合いの方が柔軟に戦闘出来た。


 この両者は防御に使うのが良い。

 ガトリング砲は多くが、艦艇の舷側に付けられて敵艦や接近戦闘を仕掛ける敵小型船の迎撃に使われた。

 ミトライユーズは要塞防御用に設置されたが、普仏戦争後の実戦使用は報告されていない。

 フランス陸軍においてもガトリング砲を運用し、「ミトライユーズ」が「機関銃」の総称的な意味合いに変わった為、次第に記録上はどちらか分からなくなる。

 多銃身で燃焼滓の多い黒色火薬使用とあり、両者ともどこかの銃身で弾詰(ジャム)を起こしてしまう欠点もあった。


 やがてベルト給弾方式やカートリッジの改良と、燃焼滓が少ない無煙火薬、そして空冷や水冷を利用して加熱を防ぐ「単銃身機関銃」によって両者は歴史から姿を消す。




 ハワイ内戦において、アメリカ併合派はガトリング砲を、フランス陸軍から指導を受けた旧幕府軍はミトライユーズを、ほとんどの場合使用している。

 両者ともこの重い初期型機関砲の欠点は承知していた。

 両者は、この機関砲の個性の違いから、やや異なる使用法をする。


 併合派は比較的軽いガトリング砲を、大砲代わりにあちこちに引っ張り回した。

 数も多く用意していて、野戦ではないが、陣地に籠る旧幕府軍への攻撃に使用している。

 一方旧幕府軍はこの重いミトライユーズを人力で牽引しては来たが、基本的に防御陣地に設置して使用している。

 一本道の正面に置かれたら、散開が出来ない以上、併合派は突撃が出来ない。

 さらにミトライユーズの方が射程距離が長く、延伸性に優れている為、敵の銃隊が射撃態勢に入る前に撃つ。


 旧幕府軍、併合派軍ともに、欠点も威力の程も知っている為、敵陣に機関砲を認めた場合は無理をしなかった。

 それが内戦2日目、王宮前の戦闘を低調化させていた。

 正門前のミリラニ・ストリートは、長射程のミトライユーズによって使用不能となっている。

 大砲やガトリング砲を運ぼうにも、アウトレンジで阻止されてしまう。

 そこで側面のリチャーズ・ストリートやリケリケ・ストリートから王宮に入ろうとするが、ここは狭く、少数の兵士と小銃で防ぐ事が出来る。

 そこで側面から王宮内に大砲を撃ち込むが、観測員が居ない為に効果の程が分からない。

 王宮を攻めるのに大砲は必要無いという判断で、ワイキキ方面のホノルル・ライフルズ主力部隊が持って行ったのだが、どうも各戦線で必要となり、予備分を与えていた。

 少ない兵数、少ない大砲、そして機関砲、これが王宮の戦いを長引かせる割に双方余り犠牲が出ていない原因となっていた。


「我々には時間が余り無い」

 ホノルル・ライフルズ司令官アシュフォード大佐はそう言った。

「ラハイナの暴動は鎮圧され、早朝にも巡洋艦と輸送船が出航する。

 こいつがワイキキ海岸に到着し、我々に艦砲射撃をして来たら、砲の威力の前に降伏せざるを得ない。

 そうなる前に、『ハワイの王』と『日本人の王』を手中にしなければならない」

 そう考え、アシュフォードは作戦を変更した。

「我々が敵の増援を抑えて時間を稼ぐ一方で、味方にはさっさと2人の王を捕らえて貰わなければならない。

 そこで、この陣地を棄てて後方の第二陣に撤退し、敵がこの陣地に入ったとこを銃撃する。

 敵をホノルルに近づけ、かつ湿地帯からも脱出させてしまうが、やむを得ない。

 左翼を敵に取られた以上、夜明けと共に正面と左翼から攻撃を受けるだろうから、この陣地に固執しても意味はない。

 そして、第二陣もまた『防ぎきれない』と考えよう。

 その場合第三陣に後退して時間を稼ぐ。

 後退しながら兎に角時間を稼ぐのだ」

 部下が質問する。

「それではただ時間を稼ぐだけで、敵の陸軍は防げても、いずれ巡洋艦にやられます。

 何か決め手はあるのですか?」

「うむ、ここから兵を割いて王宮攻撃に向かわせる。

 我々が少なくなった兵で、陣を奪われながらも時間を稼ぐ間に、戦力強化した王宮攻撃隊がカラカウアを捕らえるか殺す。

 それが成ったら、各員分散せよ。

 分散し、ハワイ島に移動出来る者は移動し、長引いていたらそちらに加勢する。

 海を抑えられていたら、市内に潜伏して時を待て。

 とにかく王宮を陥落させよ」


 時を同じくして、陸軍第一旅団第三大隊の星恂太郎は、腹心の中隊長荒井平之進少佐を呼んでいた。

「どうも(わし)らは後方に回され、手柄はお預けのようだ」

「口惜しいが、仕方ありませんな」

「そこで君の中隊は当戦線を離脱し、昨日の梅沢少佐同様迂回路を取って、イオラニ宮殿に入城して貰いたい」

「戦場を離れろ、と?」

(わし)らの本来の任務は、イオラニ宮殿に入城して敵を迎撃する事だった。

 先んじて街道を抑えられ、想定外の合戦となってしまったが、今なら本来の任務が出来そうだ」

「分かりました」

「では夜が明ける前に出発せよ。

 大鳥さんには(わし)から言っておく。

 あと、梅沢が置いていった残りの3個小隊も連れていけ」

「はっ!」

 夜明け頃に両軍は王宮を目指して動き出す。




 イオラニ宮殿の藤田五郎は、指揮所で寝ているのか起きているのか定かではなかった。

 遠目には眠って休んでいるように見える。

 しかし近づくと、その目はこちらを見ている。

(まったく、恐ろしい人だな。

 剣客というのはこういう人たちばかりなのだろうか?)

 と梅沢配下の兵たちは話していた。


 その藤田が急に起き上がり、正門に向かって歩き出した。

 斥候が戻って来て、敵が動き出した事を知らせる。

 直ちに藤田は陸軍兵士にミトライユーズの射撃準備をさせる。


 ミリラニ・ストリートを敵部隊が走って近づいて来る。

 射程外でも小銃を撃って来る。

「あの距離では届かん。

 臆病にならず、反撃せよ」

 ミトライユーズが火を噴く。

 敵歩兵が多数倒れるのと引き換えに、25発セットがあっという間に無くなる。

 25発セットの弾倉を砲尾から装填する。

 その間に敵が迫る。

 一本道の敵にまた斉射を行って多くの敵を倒し、弾を使い切る。

 味方の銃撃も加わっているが、基本外れる弾も多く、3発で1人を倒している程度だ。

 3回目の斉射の最中、兵士が叫んだ。

「弾詰まり発生! これを撃ち切った後、しばらく射撃不能!

 弾詰まりの対応に入ります」

 藤田の目は歩兵部隊の奥を捉えた。

 大砲とガトリング砲。

 そしてミトライユーズの射撃が止まった時、彼等が動き出した。


「ガトリング砲、弾込めろ」

「藤田隊長、ガトリング砲は弾がほとんどありません。

 40発入りの弾倉5個分、すぐに使い切ってしまいます」

「敵の大砲とガトリング砲を近づけるな!

 奴ら、こちらの射程距離が長いのを知って、外側に待機させていた。

 そして弾詰まりが起きやすい事を知っていて、それが起きるのを待っていた。

 準備は出来たか?」

「出来ました」

 それはカートリッジを差し込むだけだから、ミトライユーズの再装填よりも早く準備出来るものだ。

「敵が射程距離に入り次第、大砲とガトリング砲だけを狙え。

 歩兵は小銃に任せろ」

「射程距離が同じなので、相打ちになるやもしれません」

「構わん! やれ!」


 王宮前で両陣営のガトリング砲が火を噴いた。

 案外命中率が低く、弾が飛び交うばかりだ。

 併合派は大砲の準備も出来たようで、撃って来る。

 1発が王宮に着弾し、木造部分を破壊して崩す。

 あとは王宮の庭に着弾する。

 駐退機が無い分、発射速度が遅いのと、砲撃後に後ろに吹っ飛ぶ砲ゆえに、再照準の精度が低い為助かっていた。


「ミトライユーズ、修復まだか?」

「今終わりました。

 射撃開始します」

 ミトライユーズは多銃身それぞれに弾を詰める為、弾詰まり後のクリーニングが面倒である。

 時間が掛かったが、何とか再攻撃可能になった。

 だが、その間に敵歩兵は近づいており、宮殿2階からの射撃戦を潜り抜けた兵がミトライユーズを操作する兵を撃った。

 弾丸は肩に当たったが、もうその兵士は戦闘不能である。

 藤田五郎は躊躇せず、その兵士に代ってミトライユーズのクランクを回した。

 彼自身の命令通り、とにかく大砲とガトリング砲を狙う。

 その為、近くまで来ている敵歩兵は、ミトライユーズを操作する藤田を狙う。

 ガトリング砲も同じ事だが、立ってクランクを回す操作の為、射手は隠れる事が出来ない。


 藤田は被弾を免れた。

 接近し過ぎた敵に対し、味方の射撃が命中したのだった。

 王を守っている筈のロイヤル・ガードが、ジョージ・ハサウェイ・ドール中佐の指揮で正面玄関から射撃を開始した。

 彼等の前には、時計やら厚いマホガニー材で出来たテーブルやらバネのいっぱい詰まったソファーやら、豪華な障壁が置かれている。

(そうか、ロイヤル・ガード出動は王の命令か)

 と藤田は納得し、弾が飛び交うのを全く気にせずにクランクを回し続ける。


 隣のガトリング砲は、時間を稼ぐ役割を終え、弾を使い果たして沈黙していた。

 ガトリング砲側の兵士は小銃を持ち、射撃戦に切り替えている。

 だが……


「うん? また弾詰まりか?」

 何度再装填したかは覚えていないが、またミトライユーズは停止した。

 近くの兵士に

「直せ」

 と命じると、藤田もまた小銃を持ち射撃戦に切り替えようとした。


 その刹那、王宮正面から10人ばかりが着剣した小銃で突撃を慣行。

 先頭には梅沢少佐が立っている。


(あの若造、大胆だな)

 藤田は感心し、自らも抜刀して突撃する。

 新撰組一番隊もそれに続く。


 突撃は必ずしも良い戦法ではない。

 準備している所に突撃等、単なる自殺行為である。

 後に梅沢が語る所によると「戦場の呼吸」で「僅かに敵陣営に安心感から来る緩みを見つけた」そうだ。

 機関砲(ミトライユーズ)が沈黙し、勝てると思ったのかもしれない。

 その隙を銃剣突撃で衝いた為、併合派は短期間崩れた。


「よし、このガトリング砲を曳いて後退だ。

 大砲は撃てないよう、門扉を壊しておけ」

 そういう梅沢に藤田は改めて

「大胆な奴だな、気に入った」

 短く声を掛けた。

 梅沢も短く、現実的な返答をする。

「2階から見ていたら、増援が近づいていたのを見ました。

 押し返しておく必要があったものでして」

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