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いや、国作るぞ!~ホノルル幕府物語~  作者: ほうこうおんち
ハワイアンズ・アイデンティティー
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カラカウア王の世界一周、後半の話

 ポルトガル首都リスボンの西に、アゾレス諸島が浮かんでいる。

 南方にはマディラ諸島がある。

 ポルトガルに到達したカラカウアは、ハワイへの農業移民を要請した。

 そしてこの2つの地域から、第5勢力となるポルトガル系移民がハワイ王国に定住する事になる。

 第1勢力を現地ハワイ人、第2勢力を白人、第3勢力を日系人とするなら第4勢力は華僑である。

 カラカウアは第4勢力華僑についても、これまでの女性移民禁止をやめる事を宣言した為、出稼ぎ労働者ではない、定住民が増えることになる。

 同じ事は日本にも通達され、会津等一部を除いて妻子を日本に置いて来た幕臣たちは、新たに来る日系移民女性と結婚する事も出来る。

 もっとも「もっと早くそうして欲しかった」という幕臣たちも多いだろう。

 彼等はハワイに移る前のわずかな日に、妻子がある者は隠居届けを出して子を当主にして家名存続を図り、子が無い者は養子を取ったり、一度家督を父親に返したりして、単身「幕臣の意地を見せるべく」ハワイ移住したのだ。

 さらにそこから数年、女が必要な者は現地妻を持ち、子を産ませた者も居た。

 ハワイ王国自体が「健康な外国人との子を産めよ、増やせよ」という方針だった為、日系二世はルーツを2つ持つ。

 その日系二世の数も、ハワイの人口増加に一役買っていた。


 京都では祇園でモテまくり、自慢する手紙を兄に送っていた土方歳三の場合、どうしているのか不明ではある。

「女遊びはもう飽きた」

 とトンでもない発言をしているが、しばしば夜間行方が知れない事もある。

 この旅においても、時々宿舎から姿を消している事があるが、カラカウア一行が気づいた時にはもう戻っているので、「とりあえずあいつの事は放っておいて良いだろう」と暗黙の了解となっている。


 話題を元に戻す。

 ポルトガル領マディラ諸島にはブラギーニャという楽器がある。

 小さなギターである。

 この楽器を元に、材質をハワイ化した「ウクレレ」という楽器が生まれるのだが、それは数年後のポルトガルからの第二次移民船団が到達してからになる。

 ちなみに、カラカウアとリリウオカラニの兄妹はギターの愛好家である。

 ギターで多くの作曲をしていた。

 ギターを爪弾くカラカウアを見ながら、アメリカ人随員のチャールズ・ジャッドは

(こういうただの趣味人ならば、ずっと親友のままで居られるのに……)

 と思っていた。

 残念な事にカラカウアは、陽気で抜けた言動の裏に、ハワイのハワイたるものを再興させようとする王の意思を隠し持った男で、やがて彼等白人と決裂するかもしれなかった。

 ※なお、ウィリアム・アームストロングは一時的に別行動となり、アメリカ本国に戻っている。




 一方、イタリア・シシリー島。

 昔の「赤シャツ隊」隊長ジュゼッペ・ガリバルディは、島の有力者と話をしていた。

 シシリーの有力者とは、いわゆるマフィアたちに他ならない。

 ガリバルディは、ハワイという王国について話をした。


 先日一緒に酒を飲んだ土方歳三という男は、情報をベラベラ語る男ではなかった。

 東洋人が黒人の王を守るべく、白人とやり合っているという噂は、ガリバルディは別な線から聞いている。

 その東洋人に探りを入れてみて、それで一緒に飲んだわけだが、彼は重要な件は一切話さない。

 酔ったと言いつつ、精神の奥深いとこが醒めていて、言質を取られる発言もしないし、前後不覚に陥り足元が覚束なくなるような事もなかった。

 だから、そういう連中が守る王国の話をマフィアのボスに語るのだが、情報自体は彼自身が仕入れたものだ。


「アメリカに多く家族(ファミリア)を移民させているって聞くが、ハワイもどうだ?」

「ジュゼッペの爺さん、さっき言ってた日本人(ジャッポーネ)と抗争を起こせって言うのかい?」

「フフフ……さっき話したのは、俺が見た日本人(ジャッポーネ)はこうだったって事に過ぎない。

 俺はもう一人、会ってみたい日本人(ジャッポーネ)が居るが、俺もこの年だ、会う事もなかろう」

「どんな奴だ?」

「お前さんたちと同類だよ。

 名前に(ネーロ)が入っている、確か黒駒(カヴァッロ・ネーロ)とか言ったかな。

 そいつと張り合うも良し、家族になるも良し、とにかく金の成る木をそいつは植えて育てている。

 絡んでみて良いと思うぞ」


 マフィアのボスたちは、ガリバルディ自身の考えを聞いてみた。

 なにせ、イタリア統一の英雄であり、一級の愛国者として知られるガリバルディなのだ。

 彼が人脈を使って、マフィアにそのような事を言う真意が知りたかった。


「俺は民主主義が好きだ、だからナポレオン3世を嫌い、フランス第三共和制を支持する。

 ハワイは王政だと言うから、民主主義にしたい議会派を本来支持すべきかもしれん。

 だが俺は、一国が他の国の奴隷となるのを許せない。

 未回収のイタリアに拘ったのも、ナポレオン3世が保護して統合させようとしなかったローマ教皇領を奪おうとしたのも、他国の干渉を許せんからだ。

 ハワイの議会派の後ろにはアメリカがいる。

 ハワイ人がアメリカ人の奴隷になるなら……俺はアメリカと戦う。

 奴隷解放を掲げておきながら、実は身内ですらその同意を得られてなく、国内の奴隷を解放しつつ外国を奴隷にしようとするなら、その二枚舌(パラーレ・ドッピオ)を正してやりたい」

「相変わらず情熱的(パッショーネ)だな」

「まあ、どっちが正しいのか分からんが、お前さんたちの同類が仕事しようとしてるんだから、金蔓を放っておくこともあるまい。

 組織を作っておいて、より悪い奴らがハワイを支配した時、裏からお前たちで食ってやるがよい。

 まあ、俺は言うだけで、判断するのはお前さんたちだ」

「さっき聞いた日本人(ジャッポーネ)の話は、そこに繋がるのか。

 ヒジカタという男とカヴァッロ・ネーロが同じかは分からんが、似たような精神だったら良い友にも強力な敵にもなるって事だな。

 面白いな、爺さん。

 ハワイにも一家(ファミリア)を送ってみるかね」


 ジュゼッペ・ガリバルディはこの翌年、故郷で死ぬ。

 シシリアン・マフィアがマウイ島に上陸し、拠点を構えるのは、さらにその翌年の事になる。




 1881年9月23日、カラカウア一行はヨーロッパからアメリカ・ニューヨークに到達した。

 ベルギーでワーテルロー会戦の古戦場を見物、オーストリアでケルン大聖堂を観光、パリではコンサートを鑑賞したり要人に叙勲をしたりと、政治的な行動は無かった。

 土方歳三はパリで、ハワイ王国を支援するフランス陸軍の将校と密かに会った。

 支援といっても、かつての第二帝政のような大規模なものはない。

 戦術指導教官を送り、武器を紹介して売買する、その程度である。

 土方は多少のフランス語(彼も蝦夷共和国以来、フランス軍の訓練を受けている)で、海軍の技術者を紹介して貰った。

 彼はイギリスで見た脅威について話す。

 フランス技師は残念そうな表情で、土方に告げた。

「ムッシュ土方、イギリス海軍のその艦に対抗出来るのは、我がフランス、アメリカくらいなものだ」

 まだ彼はドイツ海軍を軽視している。

 実際この時期のドイツ帝国海軍は大した戦力ではない。

 普仏戦争でも海軍はフランスの方が勝っていたのだし。


 フランス技師は言う。

「ハワイには大規模なドックが無い。

 蒸気機関を製造する工場も無い。

 大口径砲を鋳造する兵器工廠も無い。

 我々から兵器を買うだけだが、いずれそれにも限界が来る」

 それは土方も理解している。


「考え方を変えた方が良いかもしれないね」

 フランス技師の発言に土方は食いつく。

「何か方法はあるのか?」

「うむ、実は新しい艦艇についてのアイデアがあるのだ」


 それは海防戦艦という、小型艦に大口径砲を積み、遠征能力を省略する代わりに、沿岸での能力に重点を置き、守備に徹する軍艦の構想であった。

 また大量の水雷艇という小型艦を配備し、大型艦を水線下から撃破する戦術構想も話した。

 その発展型で「潜水艦」という艦種も開発中であり、これも大型艦を持つ国に小国が対抗する一個の手段であると言う。


 これらは「青年学派」と呼ばれるフランス海軍の戦略思想の一派であった。

 主流は後の「大艦巨砲主義」に繋がるものなのだが、「青年学派」は「フランスはどうせイギリスに大型艦保有数ではかなわない」という前提のもと、新型艦種とそれを使った戦略・戦術を考案していた。

 後には色々問題があったり、机上の空論部分も明らかになるが、今はともかく将来は大艦巨砲の競争にはついていけなくなる事が予想されるハワイ王国において、小型艦に強力な武装を施し、防御に徹するこれらの考えは福音のように聞こえた。

 もっとも土方は海軍の専門家ではない。

 詳しい事は榎本武揚に任せよう。


「意見ありがとう。

 貴公の名を伺いたい。

 後ほど我等が海軍司令官から問い合わせをさせていただく」

「分かりました。

 私の名はルイ=エミール・ベルタンと言います。

 どうぞよろしく」




 フランスで土方がベルタン技師に感銘を受けたように、カラカウアはアメリカである技術者に感銘を受けていた。

 トーマス・アルバ・エジソン、発明王と名高い人物である。

 カラカウアはアメリカでアームストロングに再会すると、彼に紹介して貰いエジソンを訪ねた。

 そして、ホノルルの灯油ランプによる街灯を全て電灯に換えたいと申し出た。

 エジソンは多くの電球を示し、カラカウアは大いに感動した。

 電信の事、電気式エレベーターの事等を見聞きし、すっかり入れ込んでしまった。

「我がハワイには火山が多いが、それを使って発電は出来ないだろうか?」

「流石に無理です」

 このような軽口も飛んだ。


 エジソンの発明品を見たカラカウアは、建築中のイオラニ宮殿にそれらを取り入れる事に決めた。

 当時のバッキンガム宮殿にすら、電灯は備えられていない。

 一気に世界有数の近代型宮殿への設計変更、それを支える発電機を2機購入。

 相変わらずの金遣いだった。

(このエジソンって野郎の発明の中で「電気椅子」ってのは中々良さそうだから、王に頼んで新撰組用に一脚買って貰おうかな……)


 こうしてイオラニ宮殿の建築費は36万ドルに跳ね上がった。

「お兄ぃ様ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 留守を守る摂政リリウオカラニの怒りは、噴火するキラウェア火山の如くなっていた。

 カラカウアの帰国は、あと少し先になる……。


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