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出動!旧幕府軍

 日本人がやって来る前にも、ハワイ王国軍というのは存在した。

 ただしこの軍隊は、カメハメハ大王の私兵的意味合いが大きかった。

 確かにアメリカ式に訓練され、砲兵・歩兵・工兵(後に騎兵)に分けられ、大隊・中隊・小隊という部隊系統になってはいた。

 だが、動かすのは王や摂政、議会の命令により、基本的に内乱鎮圧軍である為、補給という概念も無い。

 どの地区から何人を、何年間兵士とするという決まりもない。

 軍政という部分が無く、ほぼ王の思う通りに動かされる。

 これを軍事補佐官が、役割分担はその場で決める形で輔弼する。

 ハワイ人による志願兵制度で、一応士官学校はあったが、高等教育は各自が希望する場所で行われた。

 デーヴィッド・カラカウア大佐はプロイセンの軍人に教育を受けたし、他にはサルディーニャ(イタリア)式だったりアメリカ式だったりする。

 兵器も、特に意思を持って統一的に装備してはいない。

 良さそうな武器を買い集めているだけである。


 これを以てハワイは劣っている等とは言えない。

 同時期の日本の大名家の軍隊だって似たようなものだった。


 さて、このハワイ人で編制された王国軍だが、かつての2万人からは大きく減り、千数百人のみとなっている。

 この軍が反乱を起こした。


 ルナリロと、アメリカ上院議員ジョン・モーガンとの交渉で

 ・アメリカの保護国となる

 ・アメリカ以外に土地を売れない

 ・アメリカに真珠湾を貸与する

 という事が決まった。

 議会で批准されたら、正式にアメリカ・ハワイ保護条約締結となる。

 先んじてアメリカがかけた関税の撤廃と、決済通貨のドルへの切り替えが行われていた。

 民族主義的に「外国に土地を渡すな」という反対はあれど、白人議員の数の多さから、いずれは押し切られるであろう。


 そして軍が散発的に、各所で蜂起した。

 ルナリロ王政への不満を訴えてのものである。


 ルナリロは、反乱鎮圧にアメリカ人義勇兵を使おうと思い、カラカウアに相談した。

 カラカウアは首を横に振った。

「日本人部隊がいるではないか」

 そう言うカラカウアに、ルナリロは渋い顔をした。

「ダメなのか? どうして?」

 カラカウアの疑問にルナリロは

「私はいっそ、国軍を解体してはどうかと思っている」

 と、とんでもない事を言い出した。

 カラカウアも後に「ぶっ飛んだ男」っぷりを見せるが、この時は流石に唖然として聞き返した。

「どうしてだ? 日本人部隊は先王にも、君にも逆らっていないではないか!

 それにハワイ人の部隊は、王国建国以来、ずっと王家を支えて来たではないか!?」

「そんなレベルで話してはいない」

「では何故? 私には理由が分からない」

「軍隊は金がかかる。

 財政再建が必要な時期に、数千人の何も生産しない者に、武器を持たせておく事も無いだろう?

 それに我が国はアメリカの保護下に入った。

 だったら軍事もアメリカに任せれば良いのではないか?」

「おいおい、ルナリロ……。

 ちょっと考えてみろ。

 アメリカ人部隊のみ残して、他の軍を解体してしまったら、もしアメリカ兵が反乱を起こしたら誰が防ぐんだ?」

「アメリカ兵はそんな事はしないだろう。

 親米政策に反対しての反乱だったのだから」

「それこそ、そんなレベルで話さんでくれ。

 国にとって一番大事な軍隊を、他国任せにするなんておかしいだろ。

 日本人は、我が国の国民となった。

 せめて外国を頼るにしても、彼等にしてみないか?」

 ルナリロは頑固だった。

「いや、方針として国軍の解体は決定事項だ……」

 カラカウアは別口から攻めてみた。

「王家と日本人が交わした契約があるな。

 軍隊として分散させないでおくあれだ。

 少なくとも10年は、日本人部隊は軍隊として、分散される事なく存在し続けるのだが?」

「あ! そうか、解散もさせられない……」

「そう、上位に指揮組織の無い軍隊がポツンと存在し続ける。

 しかも所属はハワイ王国軍として、だ。

 軍が解体されるのに、実質的な軍隊が残っていて解散も命じられない。

 おかしいだろ?」

「では、給料を止めて自然解隊するのを待とう」

「おいおい、知らないのか?

 日本人部隊は独自の船舶部隊や商社との繋がりがあって、下手したら自給自足が可能なんだぞ。

 給料を止めたところで、10年は保つぞ」

「どうしてそんな部隊の存続を法で認めたんだ?」

「元々彼等は1つの国だった。

 先王がその国を丸ごと受け容れたからだ。

 その国丸ごと先王に忠誠を誓ったからね。

 いや、日本人の国は他に4つある。

 それぞれが君主を戴いているのだが、それにも関わらず彼等は我々ハワイ王家の為に戦って死ぬと言っている」

「私には分からん!」

「普通に考えたら私にだって分からんよ。

 でも、そういう連中が確かにいるって事だ。

 それは君が国王であっても否定はできないよ。

 彼等は目と鼻の先に存在してるんだから」


 ルナリロはしばし考えてから、言った。

「分かった、日本人部隊に出動を要請してくれ。

 だが、私は国軍解隊は止める気はないぞ」


 カラカウアはこれ以上の議論は無意味と、頭を下げて退出した。

(国軍解隊だって?

 そんな事しても、日本人部隊が無くならない以上、何かあったら政府は彼等を頼ることになる。

 そうすると、特例法で守られた部隊が事実上の軍隊になってしまい、手がつけられなくなる。

 幸い彼等に野心は無いようなのだが、そんなレベルで物事は考えられない。

 ルナリロは一体、どうしてしまったのだろう?)




 ルナリロとカラカウアの議論は知らず、出動命令を受けた日本人旅団司令部では、大鳥圭介が喜色満面だった。

 相手は百人から二百人程度の少数の部隊が、小銃をもって連絡も無しにあちこちで蜂起している。

 兵力分散は愚であるが、今回はこちらの兵力が圧倒的に多い。

 4個大隊を4ヶ所に出動させ、最大二百人規模の反乱軍を八百人で一気に潰す。

 外国からの干渉を招かないよう、時間を掛けずに片づける。


「相手はハワイ人、本来我々が守るべき人々なんですが、それを一気呵成にやってしまっていいんですかね?」

 そう質問したのは、第4大隊長の伊庭八郎だった。

「むしろ、何が起きたのか気づかないくらい迅速に、事を片づけた方が後腐れが無いだろう」

 第2大隊長の今井信郎が応える。

 この人は、何が起きたのか分からぬくらい迅速に、幕末日本史を語る上での重要人物を暗殺した疑いが持たれている。

「もしも奇襲に失敗し、長引きそうならば、力の差を見せつけて心を砕くのが上策」

 第1大隊長古屋佐久左衛門がそう言うと、

「左様さな。

 早期に鎮圧したならば、速やかに他の部署に応援にかけつけ、数で圧倒しよう。

 その方が守るべきハワイ人を殺さずに済む」

 第3大隊長星恂太郎がまとめた。

「では、留守は第1、第2の予備大隊が守ることで、よろしいな?」

 参謀・瀧川充太郎の言に、

「承知」

「お任せあれ」

 予備役第1大隊長春日左衛門と予備役第2大隊長大川正次郎が応える。

「では、司令官、ちゃんと後方での指揮をやって下さいよ。

 間違っても『戦いたい』と前線に来ないで下さいよ」

 参謀・本田幸七郎が一同を笑わせた。


 日本人部隊は速やかに準備を整えたが、すぐには出動しなかった。

 日が沈むと共に動き出した。

 見かけたハワイ人は何とも思わないが、白人ならば首を傾げただろう。

 彼等は軍靴を履かず、草鞋履きに、銃にも布を巻いて、息を殺して走っていった。

 オアフ島北岸のカイルアには、小型の帆船2隻に分乗して出撃した。


 早朝、蜂起はあっさりと鎮圧された。

 要所を抑え、銃を撃ち放ち、王への不満を叫んでいた蜂起部隊と、それを説得する為の同じハワイ人部隊が向き合っていた。

 その外側に日本人部隊は到着し、息を整えて様子を見ていた。

 真夜中から明るくなりかけるまで、両陣営は銃を撃ったり、要求を怒鳴り合ったりしていたが、ようやく疲れて来たようで、間が出来た。

 そこに日本人部隊が突撃し、彼等が気づいた時は、比較しての大軍に部隊は分断され、銃ではなくやたら切れそうな刀を突き付けられていた。

「殺したくはない。

 降伏すれば良い」

 言葉短かにそう言われ、反乱軍は降伏した。

 長引くことも、部隊を他に転用させる事もなかった。

 言われずとも出動しようかとしていた、アメリカ白人ライフル部隊(義勇軍)だったが、準備が整った時には既に事件は終わっていたという素早さだった。


 事件終結の報を受けたカラカウアは、ルナリロに

「どうだい? 日本人部隊で良かったじゃないか」

 そう言った。

 曖昧に頷くルナリロ。

「彼等の忠誠心は認めてやってもいいと思うよ。

 財政的にボーナスとか出せないっぽいから、私の個人資産から何か贈っておくね」

 そう言って軍事補佐官は去っていった。


 ルナリロは独り言ちた。

「そう、余りにも迅速で無駄がない。

 だから恐ろしい。

 私には、異質過ぎるものは理解できない……」

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