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いや、国作るぞ!~ホノルル幕府物語~  作者: ほうこうおんち
変わりゆく取り巻く状況
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急転

 その報は、まさに青天の霹靂と言えた。

「カメハメハ5世、急死」

 1872年12月11日、この報を聞いた榎本武揚は、持っていたペンを落とし、しばし茫然としていたという。


「どうしてだ? つい先日までお元気だったじゃないか!」

 高松凌雲が冷静に返す。

「死因は肺水腫と、医師団に聞きました」

「肺水腫??」

「左様、心臓病や肺病で肺の中に水が溜まる病です」

「王にそのような持病はあったのか?」

「聞いておりません。しかし、先代カメハメハ4世陛下、亡くなった5世陛下の弟君ですが、その方には喘息の持病が有ったと聞いております」


 しばらくして大鳥圭介が顔を出した。

 この男は、漢学に蘭学と両方で医術を習得している。

 高松凌雲と挨拶をしてから、

「王は、最初の婚約者に後を継いで欲しいと頼んだそうだが、断られたそうだね」

 そう言った。

「そうなのですか? 私はそれは知りませんでした。

 だとすると、少々腑に落ちないですな」

「あんたもそう思ったかい」

 榎本だけがポカンとしている。

「どういう事ですか?」

「いえ、ね、急死に近い病の王が、後継者指名をする時間があったのか?って事ですよ」

「左様。肺水腫で呼吸も出来ず、息も絶え絶えだった筈ですし」

「まさか?」

「いや、俺たちは腑に落ちないって言ってるだけで、そのまさかとは言っていない」

「単に数日前から症状が出ていて、それを知らされなかっただけかもしれませんし」




 この「まさか?」という疑問を一番強く感じたのは、比呂松平家大殿の松平容保だった。

「覚えがある」

 彼はそう言った。

 京都において、先帝孝明天皇は一橋慶喜と松平容保を深く信頼していた。

 十四代将軍徳川家茂が薨去し、帝の信頼篤い一橋卿が徳川慶喜となって将軍職を継いだ直後、帝が崩御なされた。

 帝が代わり、あれよあれよと言う間に徳川幕府は滅び、会津は朝敵の汚名を着せられ、官軍と称する西南雄藩の兵に攻め込まれ、家中一同大いに難儀をした。

 帝が代われば、己を取り巻く環境は急転する事がある。

 それ故に、帝の崩御で一番得をした者、そのままでは幕府に手出し出来なかった者によって、帝は弑されたのでは?

 その噂は大いに信じられる。

 この度のカメハメハ5世の急死も、「まさか?」。


 事態の急転が起こり得る中、首都から離れたハワイ島に居ては何も分からない。

 松平容保は兵を率いてオアフ島ホノルルに向かった。

 どの道、ハワイの王族・酋長に準じる立場を与えられた彼は、葬儀の為に赴かざるを得ない。

 それは古奈松平家、カウアイ酒井家、オアフ林家も同様であった。

 彼等はホノルルに服喪の為に集まった。




 カメハメハ5世の急死が真に病死であったのは、彼等の狼狽ぶりを見れば分かったかもしれない。

「なんだっていきなり死ぬのだ! こちらは準備どころか、人集めすら済んでいない!」

 平間重助が黒駒勝蔵の前で大声を出していた。

「あっしにゃ関係ございませんね。

 まあ、準備というか、人の固めも出来ていないのはこちらも同じですがね」

 黒駒勝蔵は我関せず。

「白人連中は何か知っちょりもはんか?」

 伊牟田尚平もまた、白人の仕業、人為的な死を疑っていた。

 勝蔵は否定する。

「白人の連中、国王派も、ここに堕ちたダメ白人も皆一様に驚いていた。

 それはハワイ人も同じだな。

 もっと王の近くに居た奴の仕業かもしれないが、少なくともラハイナに居る連中には寝耳に水な話のようだ。

 むしろ、わしはあんたら抱えている人斬りが先走ったんじゃねえか、って疑ってまさぁ」

「それは大丈夫だ。神代さんは目の届く場所に居た。

 船を盗んでホノルルまで行ったって事はない」

「だったらいいさ」


 平間と伊牟田は、これで流れが変わると直感した。

 カメハメハ5世は旧幕臣たちに同情的であり、信頼も寄せていた節がある。

 それが誰に代わるにせよ、今までと同じようにはいかないだろう。

 そして、それはこちらにも言えること。

 時流を見誤らず、殺ること殺ったらどこかに消えよう……。


「……で、誰が次の国王様なんだ??」




 後日。

 ハワイ国王に仕える4大名家がホノルルに集まった。

 それぞれが輸出用の倉庫(蔵屋敷)を持っている為、連れて来た兵士の収容には困らない。

 大名家の当主・大殿と、やはり弔問の旗本たちは、榎本武揚の執務室に集まった。


「後継ぎについて、何か聞いているか? 土方君」

 土方歳三は特に王の信頼が篤かった。

 ただし彼は警護役(ボディーガード)ではなく、市中の治安担当者で、常に近侍していた訳ではない。

「後継ぎは未定だ。だから政府の方でもどうしようか迷っている。

 この迷っているというのが、誰かが計算して国王に毒とか盛ったって事じゃねえのを示してるな。

 もっとも、自分にとって都合の良い王家の人間を担ぎ出そうと、もう動き始めちゃいるが」

「それは誰なんだ?」

「一人はウィリアム・ルナリロという男。

 砂糖農園主のアメリカ系白人に絶大な支持をされている。

 初代カメハメハ大王の異母弟のお血筋だ。

 会津様と同じような立場ですかな」

 松平容保が神妙に頷く。

 会津松平家は三代将軍徳川家光の異母弟を祖とする。

 将軍後継にはなり得ない血筋である。

 それが候補となっているのは、御三家・御三卿にあたる「後継者となって当然」の血筋の者が絶えている事を意味する。

「もう一人はデイヴィッド・カラカウアという男だ。

 こちらも砂糖農園主のアメリカ系から支持されている。

 初代カメハメハ大王の叔父のお血筋にあたるそうだ」

 江戸幕府に置き換えるなら、徳川家康の伯父の水野信元の子孫が、急に将軍候補に祭り上げられたようなものだ。

 なんという候補の少なさ。

 旧幕臣たちは、徳川家康が御三家を作り、徳川吉宗が御三卿を立て、徳川家斉が大量の子孫を残した事について、正しかったのだと納得した。


「それにしても、他の候補はいないのか?」

「うむ。これではどちらにしても、アメリカ系砂糖農園主の力が強まるばかりではないか」

 王家の事情に詳しくなった土方は首を振る。

「エンマ女王がいる。あの方の祖先は、カメハメハ大王の姪である。

 だが、今は国王になる気は無いようだ。

 それと、5世陛下の許嫁だったパウアヒ王女がいて、こちらはカメハメハ大王の曾孫にあたる。

 この女性に後継を頼んだが、自分は既にアメリカ人と結婚していて資格が無いと断られた。

 ……世話になった方に言うのもおかしいが、王は自分をフった女性にこだわり過ぎだ。

 パウアヒ王女にせよ、エンマ女王にせよ、王をフったのだから次にいけば良かっただけだ。

 そして子を生していれば、このような事にはならなかった」


 誰かが心の中で

(誰もが祇園でとっかえひっかえしてたあんたのように、次の女って簡単にはいけないだろ!)

(国王夫人なのだから、血筋や背後関係を調べないとならず、次にいけばとか言えん)

 とツッコミを入れていた。

 一方で松平定敬は

(だから許嫁が日本を離れず、離縁状を送って来た私に対し、国王陛下は涙を流して同情し、親身になって王族の女性を世話してくれたのか)

 と納得もした。

 そして……

(場合によっては……、王族がことごとく死に絶え、私と王族の(つま)の子のみが生き残った場合、その子が国王となる事も起こり得るのか!?)

 と気づいてしまった。

(室に、どれだけの血筋かを聞いておかねばならないかな)

 四代前の名君・松平定信の幼名・賢丸(かたいまる)の名を与えた我が子が、急に重要人物に思えてならなかった。




 葬儀が終わり、議会は後継者について発表をした。

 国王が後継者を定めないで死んだことで、憲法に則って選挙を行うこと。

 それは数日中に行う、とのことだった。


 ……そして、分散される事を回避する為、選挙権を放棄した彼等幕臣たちは、成り行きを見守る他は無かった。

先日、『必殺仕事人意外伝 主水、第七騎兵隊と闘う 大利根ウエスタン月夜』を時代劇専門チャンネルで見ました。

うん、あれくらいやっちゃっていいんですね(笑)。

第七騎兵隊カスター将軍は、実は中村主水に倒されたんです。

次郎衛門という男がアメリカに残り、酋長となって、やがて訛って「ジェロニモ」と呼ばれるようになったんです。

西部開拓時代には、既にカーブ、フォークボール、ナックルを使いこなすインディアンのグッド・コントロール(役:板東英二)という男がいたんです。

面白ければ、これくらい無茶な設定してもいいかと、似たような改変歴史ものを書いていて、なんか気が楽になりました。

まあ、面白ければ、ですね。

その免罪符を使う為にも、もっと話をきちんと作らねば、と思いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 後書きの「必殺仕事人意外伝 主水、第七騎兵隊と闘う 大利根ウエスタン月夜」!今知りました。 こんな時代劇があったとは! 架空歴史小説はもっと自由になっても良いですね!
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