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仏布同盟・英布協定・露布協商

 かなりギリギリだが、アメリカと戦争で引き分けに持ち込み、その後の講和条約で以前と変わらぬ経済交流に持ち込んだハワイ王国は、一躍世界の脚光を浴びるようになる。

 ……脚光を浴びるが故に入り込もうとする無政府主義過激派のテロを、有無を言わさぬカウンターテロで惨殺する野蛮性についても知られるとことなり、批判も次第に増えて来ているが……。

 アメリカも、肚の底ではいまだ深い恨みを持っているのが、時々形になって現れるのだが、今のところは何とか互恵条約を結んだ宗主国として寛大に振る舞っている。


 世界の帝国主義は変化しつつあった。

 もう地球は狭くなり、取り分は限られて来た。

 強欲に奪うよりも、なるべく相手に渡さない、という妨害合戦になりつつある。

 獲得(オフェンス)よりも妨害(ディフェンス)が外交のキモである。

 本来ならばハワイに協力したイギリス、フランスは領土や領海、資源を求めるものだが、距離的に近いアメリカが本気で帝国主義の植民地保有国に変わりつつある今、小国に無理を言って領土割譲させるより、小国を助けて正義をかざし、大国の野心を食い止める方が理に適う。

 ハワイ併合の根拠無しを理由にアメリカを妨害し、太平洋への侵出を最低限に食い止めた。

 南下政策で不凍港を得られないよう、日本に協力してロシアを食い止めた。

 日本を条約改正交渉で列強に迎えながら、朝鮮半島や満州への侵出を食い止めた。

 このように、多数派を形成して正義をかざし、それでも聞かない場合は連合を持って実力で阻止するぞ、という風潮になりつつあった。

 連盟とか連合と言う名の国際機関の芽は、この時期に出始めていたのだ。


 次に食い止めるべきは、後から植民地獲得に乗り出して来たドイツ帝国となる。

 ドイツもドイツで多数派を形成しようと、オーストリアやイタリア等に声をかけている。

 やがて「言う事を聞かないならば、こちらの連合が丸ごと実力阻止に出るぞ」という塊が2つ出来てしまい、小国同士の小競り合いがお互い引かぬまま、丸ごと実力阻止に発展するようになる。

 今はその前段階、お互いが多数派となろうと味方を増やしている段階である。


 ハワイ王国・ホノルル幕府はイギリス政府から魅力的な提案を受けていた。

 新型巡洋艦を大量に貸与(リース)してくれるという。

 その対価は「太平洋・アジアにあるイギリス財産を守る為に使用する事」であった。

 ハワイ海軍(幕府海軍)は、フランス製軍艦を使用した「青年学派」海軍である。

 それを急にイギリス式にしたならば、今迄の協力者フランスは怒らないか、それが心配だ。


 同時期、フランスもハワイと交渉を持つ。

 交渉の内容は、攻守同盟とイギリスよりもハッキリしていた。

 フランスの敵はドイツである。

 ドイツは中国の青島(チンタオ)、サイパン島、サモア島と太平洋に拠点を持った。

 中国にあるフランスの半植民地はともかく、太平洋上のタヒチやニューカレドニア等はハワイに守って貰いたい。

 それには陸軍の派兵も含まれる。


 大御所(タイクン)徳川定敬は、戦争が一通り終わった事から、征夷大将軍ジョナ・クヒオに実権を移しつつあった。

 元々自分の才覚は大した事無いと見限った人物で、クヒオが将軍として慣れて来た為、やっと隠居に入れそうだと言っている。

 将軍ジョナ・クヒオは、海外に幕府歩兵を出す事について考えた。

 今迄の経緯から、安上がりに国を守る方法等無いと知った。

 援軍を求められた時に派兵するのは、ある意味一番後腐れや計算の無い協力となろう。

 下手に資金援助と言っても出せる額は知れているし、何もしなければいざという時に誰も助けてくれない。

 その一方で、やっと人口が増えて安定して来たポリネシア社会、ハワイ人の生活を壊したくは無い。

 そうなると幕府という軍事組織が国に代わって兵を出すのが一番だろう。

 軍事同盟については異存は無い。

 心配なのが、同時に交渉しているイギリスとの関係で、矛盾にならないかどうかだ。

 イギリスは海軍を自国式に切り替えるように言って来ている。

 この辺、相手に伝えづらい。


 しかし、それはあっけなく解決した。

 フランスの方から話を出したのだ。

「残念ながら、我が国の青年学派(ジューヌ・エコール)の思想では、太平洋上の我が海外領を守って貰うには力不足です。

 青年学派(ジューヌ・エコール)の思想そのものは間違いで無いと考えます。

 しかし、それを実現する力が今の小型艦艇には無い。

 もっと強力で長射程の魚雷、もっと高速で数を揃え易い水雷艇、もっと遠方で活動出来る上に一定の防御力を持った小型巡洋艦を開発しなければなりません。

 残念ながらフランスにもその力は無く、フランスそのものがドイツに対抗すべく大型艦を建造中で、余裕がありません。

 紹介しますから、イギリス製の無骨で可愛げが無く、積もうと思えばもっと武装強化出来るのに控えめにしている気取った軍艦を使って下さい」

 ……関係改善しているとは言え、ライバル心が垣間見える。

「実は既にイギリスから巡洋艦の貸し出しの話が来ているのです。

 幕府はフランスへの裏切りにならないか、それが心配でした。

 代表は我々がイギリス製に切り替えても、それを裏切りとは思わないのでしょうか?」

 フランスの交渉団は、何とも言えない笑顔を浮かべた。

「日本人は義理堅いのですね。

 そこまで気を使ってくれただけで十分です。

 国と国の関係はもっとドライです。

 どうぞ、我々の為にも飯不味野郎の軍艦を使って下さい」


 これで外交は両面解決した。

 1906年3月、仏布同盟が締結された。

 そして巡洋艦の貸し出し等をまとめ、1906年5月に英布海軍軍事協定が締結される。


 英布協定は幕府海軍を一新した。

 早速三等巡洋艦「ピローラス」級をベースにした巡洋艦が到着した。

 「ピローラス」級は2,135トン、強制通風で蒸気機関を使用すると速力20ノットという艦だが、武装が10cm単装速射砲8基と頼り無かった。

 そこで前後の2基ずつの10cm砲を1基ずつの15cm速射砲に変更して貰った。

 この改「ピローラス」級にクヒオは、海生生物のハワイ語の名を付けた。

・ホヌ (honu): アオウミガメ

・モオ (moo): 龍

・マノ (mano): サメ

・ヘエ (hee): タコ

・プヒ (puhi): ウナギ

・レホ (leho): タカラガイ

 この6隻が外洋艦隊の主戦力となる。


 フランスには、海防戦艦と「マウナロア」級の改装を依頼した。

 海防戦艦からは水雷艇搭載能力を外し、代わりに前後のバランスを取るべき後甲板にも24cm砲を搭載して貰った。

 代わりに艦橋横の砲郭内の24cm砲は撤去し、15cm速射砲に換装する。

 結果、24cm連装砲塔1基、24cm単装砲塔1基、15cm速射砲4基の海防戦艦として生まれ変わった。

 トップヘビーでローリングがきついのは設計上もうどうしようもない。

 「マウナロア」「マウナケア」は、砲を減らした「マウナケア」に武装を合わせ、24cm砲は長砲身の20cm砲に換装して貰った。

 檣楼(マスト)は中央のものを外し、上部構造を整理して貰う。

 これにより、20cm砲4門、15cm砲5門で19ノットを出す、そこそこの性能に上昇させた。

 20cm砲以上の巨砲を積んだ4隻は内海艦隊に転属させる。


 外洋艦隊は、他に水雷砲艦「トレント」と「デュラハン」を、完全に通報艦として使用する他、水雷母艦「ハウメア」も改装される事になった。

 まだ未来の兵器という扱いだが、潜水艦をハワイも保有レンタルする事が本決まりとなった為、潜水母艦への改装が決まった。

 フランス海軍は「もしも必要な時は、この艦は無条件で貸し出す事」と条件をつけ、潜水母艦への改装工事にかかる。


 海軍は相当に強化された。

 だがフランス式を踏襲する陸軍には、厄介なモノが持ち込まれる。

 攻撃精神(エラン・ヴィタール)という精神論である。

 本来は哲学で、「生命を躍的に進化させる内的衝動」とかで、軍事理論を合わせて

「お前ら、燃えているか!?

 燃えているなら、その若き生命の猛りを敵にぶつけてみろ!

 ポジティブになるんだよ!

 ネバーギブアーーーップ!!!」

 という感じの攻撃精神である。

(なんだ、それは?)

 と「戦争の天才」立見尚文なんかは思ったが、これがポリネシア人の魂と合ってしまった。

 幕府陸軍(二代目の幕臣たち)は、極めて攻撃精神豊かな軍隊に変わってしまった。


 無論、攻撃精神は無いより有った方が良い。

 指揮官がそれを制御出来るならば。

 残念な事に、「戦争の天才」立見尚文が1907年に病死してしまった。

 残された梅沢道治は、気合いだけは異常に高い軍隊に頭を抱える事になる。


 そして、ポリネシアの魂に訴えるこの理論は、ハワイ王国軍にも伝染する。

 議会守備軍のアシュフォード中将も、やたら熱くなりやすい軍を統御するのに苦労し出す。



 

 明けて1907年6月、第2回ハーグ会議が開かれた。

 ハワイ王国からはナワフ首相と榎本武揚が招待された。

 大韓帝国絡みでちょっとした騒動が起きていたが、会議は順調に進められた。

 そして会議中、ハワイ王国代表団に接触し、軍事的協力関係を申し込んで来た国がある。

 ロシア帝国である。

 この年、ロシアはイギリスと英露協商を締結していた。

 極東における南下政策を諦めたロシアに、一転してイギリスは握手を求めて来た。

 既に締結されていた露仏同盟、英仏協商と合わせ、三国協商がここに完成した。

 そしてロシアは、意外に義理堅いところがある。

「以前、日本との講和に協力して貰った事を嬉しく思う」

 と言い、相互の義務は無いが協力関係を持つ「露布協商」を締結した。

 そして軍事顧問を派遣し、以前(と言ってもカメハメハ大王の頃)カウアイ島に中途半端に造ったハウメア要塞を近代化させる。

 火山岩やレンガ、火山灰を使ったセメントで防御された要塞は、南の島に似つかわしくない近代要塞に進化していく。


 ここまでの流れが、1910年代のハワイの運命を決定づけた。

 ハワイはどこから見ても、誰が見ても、英仏露陣営、三国協商側陣営となった。


 極東ではもう1ヶ国、大日本帝国が日英同盟と、戦後のロシアとの接近で協商側国家の一角となっている。

「どうせなら、日本もハワイと同盟を結びに来てくれたら良いのに……」

 大らかなハワイ人はそう思っていたが、日本は日清・日露戦争の成果を台無しにした(と思っている)ハワイの特にホノルル幕府に恨みがあり、彼等が握手を求めに来る事はついに無かった。

獲得(オフェンス)主体から妨害(ディフェンス)主体の帝国主義政策転換」てのは作者の造語です。

20世紀に入ったら、何となくそう変わったように見えます。

ラグビー観ながら書いたので、影響ありありなのは許して下さい。

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