表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/190

パール市国誕生

 米布戦争について、アメリカは自国の問題点を総括した。


 まず、指揮官の質の悪さを改善する。

 ハワイでもフィリピンでも、彼等は無駄に戦線を増やし過ぎるし、そのきっかけとなる虐殺や焼き討ちが酷過ぎた。

 もっと正規の教育をしっかりすべきであろう。


 続いて国際世論を味方につける事。

 他国が一斉に敵に回ってしまえば、戦力は全く不足する。

 全世界が敵に回っても勝てるだけの戦力を持つか、国際世論対策に力を入れるべきであろう。

 逆に国際世論を納得させれば邪魔は無くなる。

 フィリピンでの戦争は、敵陣営が交渉団を出さない事で自国の主張が通った。


 大西洋と太平洋の移動をスムースに出来るようにする事。

 スペインとの戦争の為に戦艦「オレゴン」を大西洋に回航し、戦後にハワイとの戦争の為に再び太平洋に戻す、この無駄な時間の間にハワイ軍に痛い目に遭わされた。

 ホーン岬回りではなく、やはり事業が中断しているパナマ運河が必要であろう。




 民主党のデューイ政権は無理をしなかった。

 まずはフィリピンでの戦争を終わらせるべく、軍事力ではそちらに専念した。

 並行して行う外交で、コロンビアとパナマ運河採掘権を巡って交渉をした。

 しかしコロンビア議会はパナマ運河掘削を認めない。

 交渉で解決しようと粘ったが、1904年の内には何ともならなかった。


 そして政権交代しタフト政権となる。

 就任早々のタフトの元に、ポーツマス会議の案内が来る。

 彼はこの機会を最大限に利用しようと考えた。

 ポーツマス会議出席前に、常套手段であるパナマ独立運動家たちと手を組んで、パナマ共和国を独立させる。

 すかさずアメリカは国家承認し、パナマ運河と運河の中心から両側5マイルずつの永久租借権、運河の建設、管理運営権、軍事警察権をアメリカに与える「パナマ運河条約」を締結した。

 その足でポーツマスに向かい、第三会議場を設けて参加した7ヶ国(アメリカの他、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、ロシア、そして日本)に経緯を説明した。

 パナマ共和国そのものを決して自国領土にしないという約束をし、運河も世界各国の利益に繋がる事を説いて、参加国全ての承認を得た。

 即日パナマ共和国は6ヶ国から国家承認を受ける。

 コロンビアは何も出来ず、パナマ独立を追認する他無かった。


 早速パナマ運河掘削工事が始まる。

 日本はからは青山(あおやま)(あきら)技師が紹介状を携えてやって来て、工事に協力をする。

 青山は難関ガトゥン閘門の重要部分を担当、工区副技師長に昇進した。

 やがて彼は反日感情に遭って、運河の完成を見ずに帰国するが、それはもうちょっと先の話。




 話は変わって、こちらはハワイ王国。

 ハワイでは真珠湾貸与に対する反対は根強かった。

 なにせ、最初に貸与を認めたルナリロ王の時代から存在し、彼の在世中は協定を発効出来なかったのだ。

 次のカラカウア王が協定に署名して発効させたが、この時もハワイ人の裏切り者扱いを受けた。

 銃剣憲法を突き付けられた1887年の内戦時、王の為に戦うのはもっぱら日本人(後のホノルル幕府)ばかりで、純ハワイ人が大規模には動かなかったのは、この経緯が有った。

 それに比べればリリウオカラニ女王は、摂政時代から貸与反対派であった。

 ハワイ人からの忠誠は篤い。

 篤過ぎる。

 そして彼女は、ハワイ人の期待を裏切れなくなっていた。

 だから前回は「約束がまだ残っている」という理由で、米布戦争直後の滾る反米感情を抑え込めた。

 今回の更新では、それは難しい。

 いざとなったらハワイ人の期待を切り捨てられるくらいに、彼女は冷静さを失ってはいない。

 しかし、折角生まれたハワイ人のナショナリズムを、がっかりさせて失わせるのも忍びない。

 どうにか上手く自分を騙すような上手い協定延長の詐欺をして欲しい、そう思っている。

 馬鹿正直な条件面だけの延長協定なんて、今の彼女には不要だった。


 ホノルル幕府に策士はほとんど居ない。

 外交では榎本武揚、内政では林忠崇となるが、この2人も今は良案が無いようだ。

 アメリカ人であるチャールズ・ビショップにも妙案は無い。

 幕府ではなく王国政府は?

 議会は策無く「延長を」の一本槍である。

 議会防衛軍のアシュフォード将軍も純粋な軍人で、策は持っていない。

 それがリリウオカラニ女王の悩みどころとなっていた。


 帰国した代表団に対し、リリウオカラニは

「真珠湾独占使用協定の延長は認めません」

 としか言わない。

(上手く誤魔化す案を出しなさい!)

 と心の中では叫んでいるが、それは届かない。

 議会では女王に翻意するよう意見が出る。


 アメリカにも伝わったようで、タフト大統領が不満の声明を出す。

 女王が翻意せず、国として約束を守らない場合は、軍事行動も有り得る、と。


(違う! そうじゃない!)

 とリリウオカラニは焦っていた。

 皆が直球で攻めて来るが、彼女は変化球を待っている。

 変化球さえ投じられたら、いつでも行動を起こす気でいるのだ。

 ところが、周囲は皆真面目に物を考えて、主張同士がぶつかり合うだけだ。




 この時、女王を救ったのは意外な陣営だった。

 ラハイナの黒い人脈、死んだ黒駒勝蔵一家の生き残りだった。

「リリウの姐さん、ちょっと博打打ちについて説明してえんですが、聞いて貰えますかい?」

 久々にサロンに顔を出したリリウオカラニに、その男は語る。

「ごめんね、今忙しいの」

 と断るリリウオカラニにその男は

「それじゃあ姐さんも、正論しか言わねえ議会やアメリカさんと同じになってますよ」

 と食い下がる。

 成る程、八方塞がりで自分の意見を押し付けるだけで、他人の話を聞こうとしないのは自分も一緒だったか。

 リリウオカラニはその男の話を聞く事にした。


「博打ってのはね、その賭場を仕切る大親分がいやしてね。

 うちだったら黒駒の親分でやんした。

 でも、実際に賭場を任されるのは違う人なんすよ。

 代貸しって言われる、親分の次に偉い人がやってるんでさ。

 その代貸しは、賭場で起きた全ての事を引き受け、大親分には迷惑ごとを持って行かないんで」

「それで?」

「姐さんが悩んでいる事でも使えるんじゃねえですかい?

 姐さんはアメリカさんにゃ土地を貸したかねえ。

 でもアメリカさんは土地を借りねばならねえ。

 そこで代貸しを間に挟むんでさぁ。

 姐さんはそいつに任せただけで、何をしたかは知らぬ事、聞かぬ事。

 そいつは自分の責任で土地を貸し、面倒事は全て引き受ける。

 代わりにそいつは莫大な銭金を得るんです、大親分への上納金を抜いてもね」

「成る程、成る程!!

 面白い案を聞きました。

 早速クヒオを呼んで……」

「幕府の連中じゃダメですぜ。

 頭が固過ぎる。

 もっと上手く銭金について管理出来るのは、言っちゃなんですが、白人じゃねえんですかね?」


 リリウオカラニは待ち望んでいたアイディアを手に入れた。

 彼女は早速動き出す。

 しばらくラハイナの仮王宮で首相や議員たちを集めて相談をしていた。

 そして彼女はホノルルに移動し、アメリカ公使館を訪ねる。


 米布戦争で一度閉鎖した公使館だったが、今また難題を抱えつつあった。

 そこに女王が現れ、思わぬ願い事を言い出す。

「何ですと?

 またハワイ王国と距離を置きたい者を誘い、新しい国を作れ、ですと?

 1892年に出来たハワイ共和国のようなものを、もう一度作れ、ですと?

 陛下、貴方はまた戦争をしたいのですか?

 アメリカと戦争をしたいと言うのですか?」

「違いますよ。

 そうですね、先日アメリカが作ったパナマ共和国のようなものが欲しいのです。

 そしてパナマ共和国が運河の掘削権をアメリカに譲ったように、

 新しい国が真珠湾の使用権をアメリカに認めるのです」

「陛下……、私は以前こちらに赴任したスティーブンスのように策の多いものではありません。

 むしろ無難に協力関係を構築しろと送り込まれた、才の無い者です。

 詳しく教えていただかねば、何とも返事が出来ません」


 リリウオカラニのアイディアはこうであった。

 真珠湾の北西方向に新しい都市国家を作る。

 それは親米政権、否、アメリカの息のかかった政権である必要がある。

 その国が独立を求めるが、王国はそれを認めず、自治権を大幅に持った国内国家とする。

 ホノルル幕府のようなものが、もう一つ立ち上がる。

 その国がアメリカと交渉し、真珠湾独占使用協定を結ぶ。

 ハワイ王国としては、その国の納税が国政を支える財源になりさえすれば、一々口は挟まない。

 その国の代表に対し、文句は言うが、従う必要は無い。

 アメリカ人がアメリカ政府に土地を貸し、賃料でもどんな名目でも収入を得れば良い。

 幸い、ポーツマス会議で協定の下準備は整っている。

 それをそのまま使えば良い。

 それをタフト大統領にも伝え、芝居に付き合って貰いたい。


「……という事です。

 どうか協力して下さい」

「…………分かりました。

 合衆国としては真珠湾が使えるなら、それで文句は無い筈です。

 ですが、陛下はよろしいのですか?

 再び我々は真珠湾を拠点に、併合の為に動き出すとは思わないのですか?」

「もう大丈夫でしょう」

「ホノルル幕府が有るからですか?」

「まあ、そういう事ですかね。

 如何に力の差があろうと、あの者たちの目が光っている内は、貴方たちも動けないでしょう」

「分かりました、本国に連絡してみます」




 それから先は茶番劇の連続だった。

 真珠湾北西部に出来たパール(シティ)が独立を宣言。

 王国政府は幕府への出動は要請せず、交渉の後、大幅な権限を譲渡する代わりに王国に留まらせる。

 すかさずパール(シティ)国はアメリカと交渉、真珠湾独占使用協定を「新たに」締結する。

 それに伴い、ハワイ王国との真珠湾独占使用協定は破棄となった。

 リリウオカラニはパール(シティ)国を批判するが、譲渡された権限を使用しただけだと言われ、沈黙する。

 こうしてリリウオカラニは、自らが署名する事無く、真珠湾独占使用協定を延長させた。


 そして、討伐を主張する幕府に対し、こう言った。

「貴方たちは、倒すべき夷狄が居なくなれば、役割を終えたとして解散、もしくは自然解消するつもりだそうですね。

 そうはいきませんよ。

 夷狄かどうか、今は判断つきませんが、パール(シティ)国は王国が認めた自治国です。

 もしも討伐したいのであれば、幕府は解散せずに残らなければなりませんね。

 おやおや、目論見が外れたような表情をしていますが、どうなされました?

 分かりましたね、パール(シティ)国が何かするまで攻撃は許しません。

 攻撃すべきかどうか監視する為、今後もハワイ王国の為に働き続けなさい」


 徳川定敬やクヒオ王子が目論む、自然に消えて無くなる幕府(ショーグネイト)は、消滅を許されなくなった。




 この、とある名も無き博徒が漏らした案から生まれたパール(シティ)国であったが、とある噂が囁かれていた。

 博徒がそんな壮大なスケールで物事を考える筈が無い。

 日本国内に居る、とある「博打が鬼のように強い」人物から、ヤクザの繋がりを使ってもたらされた案である、と。

 若い時から貴人でありながら、火消しのとこに遊びに行ったりし、市井の事や遊びの事に詳しい者が、遠く日本からハワイに入れ知恵をした、と。

 噂された人物は、素知らぬ顔で茶を点てていた。

アメリカは真珠湾が欲しい、何としても使いたい。

真珠湾を使わせてくれたら他は無くても良いが、真珠湾を使えないなら戦争だってする。

このアメリカの執念をどっかで止めるには、実力を見せた上で、真珠湾だけ使わせて他は手を出さない、という「キューバとグアンタナモ基地」方式が落し所でした、少なくとも作者の頭では。


ハワイ王国とホノルル幕府の関係は、後漢帝国(献帝)と魏王国(曹操)の関係みたいなものです。

だったら漢中国(劉備)だって認められますよね。

って事でパール市国を作り、これの監視役って事でホノルル幕府は解散出来ない状態になりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ