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西暦1900年アメリカ合衆国大統領選挙顛末

 大統領選挙に出馬したのは

 ■共和党

 大統領:ウィリアム・マッキンリー(現職)

 副大統領:ジョン・ミルトン・ヘイ


 ■民主党

 大統領:ウィリアム・ブライアン

 副大統領:ジョージ・デューイ


 であった。

 ジョージ・デューイは米西戦争のマニラ湾海戦、米布戦争の第四次カイウイ海峡海戦の英雄である。

 米比戦争においてアギナルドのフィリピン共和国の正当性を訴えた為、ハワイとの戦争の最前線から外されフィラデルフィア海軍工廠長に転任となった。

 しかし功績に対しては相応の評価をされ、1899年3月に海軍大将に昇進した。

 デューイは戦えと言われたら、ハワイ艦隊を今度こそ全滅させられる自信は持っている。

 しかし、ハワイとの戦争の正当性には疑問を持っていた。

 港湾使用料がぼったくりなのは知っていたが、まずはその値下げ交渉をすべきであり、ハワイ側がそれに応じなければ軍事行動という順番だと考えている。

 更に、情勢に強いられての事とは言え、マッキンリー大統領の兵力の逐次投入なフィリピンとの戦争の仕方にも反対であった。

 事態がここまでに至った以上、米比戦争とスールー戦争は遂行すべきである。

 それには大規模な増援を送り込めば良い。

 ハワイとは講和条約を結ぶよう、国際社会が宣言を出した以上、真珠湾早期使用を盛り込んだ交渉をすれば良い。

 軍事行動はそれを拒まれた場合だ。


 こうハッキリ主張する民主党に対し、共和党は現職マッキンリー大統領のキレが悪い。

 アメリカを世界の大国にする為には、今は苦しくてもこのまま頑張ろう、帝国主義への切り替えは次の世紀の為に必要なものなのだ。

 だが、それが成果を挙げていなく、国際社会から叩かれるに至った事で、説得力を無くしている。


 副大統領候補がセオドア・ルーズベルトだったなら、

「諸君、合衆国の未来は太平洋に有り!

 太平洋の向こうには数億の人口を持つ大地がある。

 門戸を開かせ、その未開の大地に資本を投入し、巨大市場を開拓しようではないか!

 ハワイもサモアも足掛かりに過ぎない。

 些末な問題を気にして明日を失って良いのか?

 多少の汚名は甘んじて受け入れ、明日を手に入れようではないか、諸君!

 アメリカは常に拡大する天命なのだ!」

 等と雄弁を振るったに違いない。


 だが、千両役者はもう居ない。

 居るのは実務に疲れ果てた大統領だけだ。


 ウィリアム・ブライアンは屈指の雄弁家として知られる。

 心身消耗している感が有るマッキンリー大統領よりも、遥かに格調高く、帝国主義を否定する演説を行う。

「確かに太平洋への進出は新天地フロンティアを失った我々が成すべき事だ。

 だが植民地を作り、世界を征服しようとした古きスペインや、かつて我々を支配していたイギリスと同じ事をして何になるのか?

 アメリカにはアメリカのやり方が有るのだ!

 諸君、我々は正義と共に在らねばならないのだ!

 それがヨーロッパとは一線を画するアメリカなのだ!」


 デューイは軍人らしい演説をする。

「確かに私はエミリオ・アギナルドと約束をし、彼の共和国を支持した。

 しかし彼は話し合いに応じなかった。

 対話の場所たるハーグに現れなかった。

 これでは私も武力を用いる事を否定しない。

 言葉が通じぬなら戦う他は無い。

 マッカーサー将軍を助ける為に全力を上げよう。

 ハワイについても同じ事が言える。

 マッカーサー将軍救援の為、真珠湾使用を求める。

 過去の友情を思い出し、再度使用可能となるならそれで良し。

 だが、一度や二度の勝利に傲り、交渉にすら応じないなら、諸君、セオドア・ルーズベルト氏の仇を討ちに行こうではないか!」


 「まず対話を、拒まれたら戦争を」というのも分かりやすい。


 この大統領選挙をハワイ王国、ホノルル幕府は注視している。

 ジョン万次郎という傑出したアナリストは死亡したが、そのシステムは生き残っている。

 万次郎に聞けない部分は、直接アメリカ国籍を持った者に聞けば良い。

 そうして分析した結果、


・マッキンリー再選は怪しいこと

・ブライアン政権は話しやすそうなこと

・しかしブライアン政権で対応を間違うと、今度こそしっかり準備した戦争に持ち込まれる危険性があること


「案外弱り目のマッキンリー政権の方が強気でいけたかもしれないな」

 と林忠崇と榎本武揚はまとめた。

 その分析結果を踏まえ、榎本武揚は渡米する。

 宣戦布告をお互いしていないとはいえ敵国へ乗り込む訳だが、榎本は飄々としていた。

「明日にも攻めるって息をしていた薩摩のとこに行った勝さんや山岡さんに比べりゃ、アメリカはずっとマシだよ」

 そう言って船に乗り込んだ。


 アメリカ人の意見を元に、榎本はまずマッキンリー政権の国務大臣ジョン・ヘイを訪ねる。

 彼は米西戦争を「素晴らしい小さい戦争」と評した手紙をセオドア・ルーズベルトに送ったように、帝国主義の推進者であり、それにカウンターを食らわせたハワイを好いていない。

 だが国務大臣であり、外交を預かる以上、会談を拒否は出来ない。

 腹の中はどうあれ、紳士的な態度で榎本と会った。


 榎本の要件は、選挙結果に関わらず講和条約の為の会談は必要であり、その下交渉を始めたいというものだ。

 ジョン・ヘイは

「良いのかね? 決裂する可能性もあるのだぞ」

 と脅してみたが、榎本は

「しかし、会談をするのはハーグ宣言で求められた事です。

 結果がどうなるかはこれからの事。

 準備は始めないといけません」

 と返す。

 もっともだとヘイも素直に頷き、会談の場所は人員の話をする。

 色々決めたが

「これを実行するのは私では無いかもしれないな。

 だが、安心し給え、後任に引き継いで貰うよ」

 と心細げに呟いた。

 榎本は頷いた上で、

「マッキンリー大統領やウィリアム・ブライアン氏と会えませんか?」

 と聞く。

「君、選挙中の者が外国人と会ったら、利益供与が有ったのではないかと疑われるよ。

 選挙中の2人には会えんよ」

 とヘイは説教気味に返す。

 榎本は実はこの事は知っていた上で聞いたのだ。

 次の質問と依頼をする為に。

「そうですね、私が無知でした。

 無知な者に教えていただきたいのですが、この場合は当人以外にも会えないのですか?」

「大統領ならば、正式な使者の場合は職務上会える。

 今回のように下準備、打ち合わせならば、それぞれの選挙スタッフになる。

 彼等は長官にはならないが、大統領の顧問になる者が多いからな」

「紹介状をいただけませんか?」

「君も図々しいな。

 だが、そうせざるを得んか。

 少し待ち給え」

 そう言って、共和党、民主党それぞれの選挙スタッフの中で、外交に関与する人物への紹介状を書いてくれた。

「あとは君次第だ」


 榎本は共和党の方から訪ねた。

 あえて選挙情勢を知らないふりをし、激励までしてみる。

 共和党側は士気が低く、話はするが「責任は持てない」と常に言われた。

 その後民主党を訪ねる。

 民主党は

「何故こちらに先に来なかったのかね?」

 と牽制して来たが、

「現在は共和党政権なので、政権に敬意を表しました」

 と返す。

「選挙情勢を知らないのかね?」

 と聞かれ

「詳しくは知りません」

 と惚けてみせた。

 これで榎本をナメた相手は、機嫌良く交渉に応じた。

 榎本は譲歩が過ぎる余り、相手に甘く見られる所がある。

 それを逆手に、相手の要求や野心を引き出す技を持っている。

 それで得た次期政権の要求は

・真珠湾の使用継続

・使用料の値下げ

・不可侵条約と友好条約、軍事同盟の締結

 でそれが果たせれば従来通り保護国、互恵国として国内扱いでの交易をしても良いと言う。

 大体予想通りだが、港湾使用料の具体的な値下げ幅を聞けたのは幸いだった。

 更にアメリカの本音、太平洋は通過点で本命は中国という事も聞けた。

 話の持って行き方ひとつで、ハワイ王国の永続を約束出来るかもしれない。


 収穫を得た榎本は

「今度は政府代表としてお互い会いたいものですね」

 と社交辞令半分、本音半分で握手して別れた。


 結果は分析通りだった。

 1900年11月6日に投票が行われ、ウィリアム・ブライアンが51%の得票で勝利した。

 第26代アメリカ合衆国大統領の誕生である。

 ハワイ王国はすかさず、リリウオカラニ女王の名で祝電を送った。

(中々抜け目ないな)

 と副大統領となったジョージ・デューイは思ったが、「まず先に交渉を」と言っている自分の主張に沿ったものなので、悪い気はしない。


 ハワイとアメリカの交渉は、ロサンゼルスで行われる。

 アメリカは、油田発見と石油工業の発展で、急成長していくこの都市を見せる事で交渉を優位に運びたいという肚があった。

 確かにハワイの王国及び幕府代表団はこの都市に圧倒されたが、元々落としどころは大体抑えている為、不利には働かなかった。

 ここまでは呑めるという線を引いて来た為、条件面での調整となる。


 そして1901年、和平条約締結を前に大事件が発生した。

 条約調印はしばし延期される。

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