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カフルイ・マエラエア戦線 ~ロバート・ウィルコックス奮戦~

 アメリカは太平洋上に3つの火種を抱えていた。

 フィリピンはアーサー・マッカーサーJr.が奮戦しているが、アギナルド政権、スールー王国という複数の敵を抱えていて、もっと増援を必要とする。

 ハワイは、ここを抑えないとフィリピンへの増援が上手くいかない。

 しかし小規模とは言え近代軍があり、英仏が味方する難しい相手だ。

 サモアは今やドイツに制圧されつつあった。

 第一次アピアの戦いこそ親米派が勝ったものの、その後の第一次、第二次バイルレの戦いで相次いでイオセフォ酋長とドイツ軍が勝利し、サモア全域を支配しつつある。

 北ライン諸島は火種とまではなっていないが、キングマン・リーフ以外の全てをイギリスとハワイ王国に抑えられている。

 グアム島は現在のところ、ドイツも理由無くアメリカ領への侵攻をするつもりはないようで、安泰である。

 油断は出来ないが。


 アメリカはサモアを切った。

 最早回せる艦艇と司令官がいない。

 中途半端な指揮官だと、欧州最強のドイツ軍には勝てない。

 そこでサモアはドイツに譲り、ドイツ艦隊は青島に引き上げて貰う。

 反イオセフォ酋長のマリエトはアメリカに亡命させる。


 戦線一個整理出来た為、残り2つに集中したい。

 そんな中、ハワイ派遣軍が休戦協定破りをした上に、イギリス資本が大量に入り込んだ中立都市ラハイナを砲撃した事で、イギリスから猛烈な抗議が来ている。

 ラハイナには自国資本も入っている為、マッキンリー政権への批判となって現れた。

 ラハイナにはフランス外人部隊が援軍に入ったという情報もある。


 ハワイでは、6千人の増援部隊が輸送中に襲撃されて海中に消えてしまった。

 これをハワイ批難の材料にしたいところであったが、先手を打たれる。

 ジョン万次郎こと中浜万次郎は、昨年11月に死亡した。

 その弟子は、万次郎程では無いがメディア対策を行う。

 下手な宣伝をされる前に、真実を伝える事だ。

 タイムズ紙やフィナンシャルタイムズ紙、フィガロ紙やル・モンド紙にヒロ沖海戦の実態を語る。

 彼等は休戦破りをして艦隊を動かした事が、本来はそれで出迎える筈の輸送船団をがら空きにしてしまい、巡洋艦の襲撃を受けた、協定破りは敗因と分析した。

 それがアメリカに伝わった事、元々イーガン准将とシュレイ少将はバッシングの対象だった事もあり、ハワイ戦線の不手際が大きく批判された。

 売れれば良いイエロージャーナリズム、大活躍である。


 ちなみに6千人程のアメリカ兵は、失われた訳では無い。

 撃沈した「デュラハン」と「ハウメア」が可能な分は救助した。

 その捕虜を届けにコナにあるプウコホラ・ヘイアウ要塞に立ち寄った。

 捕虜を下ろした代わりに、ウィルコックス大佐の部隊を乗り込ませる。

 水雷母艦「ハウメア」は現在水雷艇を下ろし、揚陸用の内火艇(ランチ)を載せている。

 どうも今のところ、その方が搭載量と機動力を生かした戦いが出来そうだ。


 ウィルコックス隊はマウイ島ハナから離れてコキ・ビーチに上陸し、「デュラハン」の偵察で防衛用艦艇が居ない事を確認すると、「デュラハン」「ハウメア」の艦砲射撃に呼応して背後からアメリカ軍を攻めた。

 集落程度しかないこの地で、ウィルコックス隊はアメリカ軍を撃破する。

 だが

「数が足りない」

「おそらく、僅かな守備兵力を残し、既にマウイ中央部に侵攻したな」

 とすぐにウィルコックスは見て取った。


 ウィルコックス隊は、第12歩兵大隊とハワイ人歩兵第3旅団から成る。

 ハワイ人歩兵第3旅団は、ハワイ人志願兵を選抜し、カウアイ島で酒井玄蕃が鍛えた部隊である。

 ハワイ人出身者で編制され、守勢には弱いが攻勢の勇猛さと進撃の素早さは酒井玄蕃が高得点をつけた。

 この部隊は、ウィルコックスが昇進し直卒している。

(彼は大佐だが、戦後昇進確実で准将待遇となっている)

 代わりに今までウィルコックスが率いていた第12大隊には、副隊長をしていたサミュエル・ノーライン中佐が隊長になった。

 ノーライン中佐は開幕前まで王家の警備隊長をしていたが、開幕後はウィルコックスの下に転属し、彼を助けて来た。

 歩兵第12大隊の内、1個中隊はノーライン中佐が直卒する。

 残る3つの中隊は、それぞれロト・カメハメハ・レーン大尉、ハリー・バートルマン大尉、アルバート・ルーメンス大尉(ベルギー人)が率いる。

 ハワイ人第3旅団の副司令はヘンリー・バートルマン大佐(ハリーの兄)、参謀としてアメリカ人協力者のジョージ・マーカム氏が補佐する。

 ウィルコックス隊と呼ばれる部隊の陣容はこういった、ハワイ人や王政派の白人から成り、今回は日系二世は居ても日本人(日系一世)は参加していない。

 ウィルコックスはカラカウア王の遺産、王が抜擢しイタリア留学させて軍事教育を受けさせた人物であり、これまでの経緯から幕府を信用してはいるが、いつ王位を狙って来ても反撃してやるという気概を未だに捨てていない。

「今回の戦争は、我々の実力を見せる絶好の機会だ」

 と思っていた。


 一方、別荘地でリリウオカラニ女王を守るのは、ハサウェイ・ドールが指揮するロイヤルガード、クイーンズガードの他、チャールズ・ウィルソン氏の率いる警官隊もいた。

 チャールズ・ウィルソン氏は元は軍に居たが、リリウオカラニ女王によって警察の要職に抜擢される。

 それだけに指揮能力も持ち合わせ、百人単位の警官隊を率いての奮戦が期待された。


 別荘地帯に避難したリリウオカラニ女王らを狙う3ヶ所のアメリカ軍だが、占領地の守備兵を残して瓢箪形のマウイ島中央部を目指す。

 状況は逃げた女王を追う米軍、米軍を追うハワイ軍という二重の追いかけっこの様相となった。


 第12大隊は分進して陸路を進む。

 一方3千人の人数の多いハワイ第三旅団は再度「ハウメア」「デュラハン」や輸送船に乗って直接カフルイ(瓢箪のくびれ部分の北側)を目指す。

 海路の方が速く、ハワイ第三旅団は艦砲射撃の支援であっさりとカフルイを占領した。


 しかしカフルイの守備隊は、沖合に軍艦の黒煙を見た辺りから、防御を放棄してイアオ渓谷に進出している本隊の元に脱出した。

 女王を狙う際に背後から攻撃されないよう、女王追跡は諦め、カフルイとイアオ渓谷の中間に当たるワイルクからワイカプにかけて防衛線を作った。

 ハワイ軍がマウイ上陸の報を受けたラハイナからの部隊も、一旦女王追跡を止めてマアラエア(瓢箪のくびれの南側)からワイカプにかけての防衛線を敷いた。

 この2つの防衛線にかかって、ハワイ第三旅団も足止めを食らった。

 アメリカ軍は5千、ハワイ軍は3千と数で劣る上に、ハナを発したアメリカ軍約1,500がこちらにむかっている。

 上手くいけば防衛線とで挟み撃ちとなる。

 だが、そのハナを発したアメリカ軍を、先だってハナを占領した歩兵第12大隊約6百が追撃している。

 そして山岳地帯での足の速いハワイ軍がアメリカ軍に追いつく。

 山岳で両軍衝突となるが、数で勝るアメリカ軍と山地での機動力に勝るハワイ軍とは互角だった。

 そしてマウイ島という瓢箪型地形のくびれ部分を南北に繋ぐカフルイ~マエラエアの戦線では、アメリカ軍、ハワイ軍ともに迫っている増援部隊の到着を信じて、粘り強く戦っていた。


 数に劣るウィルコックス隊の切り札は、開戦前に泥縄で購入した機関銃である。

 両軍奇襲を目的とした部隊な為、大砲は小型のものが数門しか無い。

 だから機関銃が雌雄を決する筈なのだが、ウィルコックスは世界で初めて機関銃の使用で無意味な場合を知ってしまう。

 押し寄せる敵を迎撃するには最強の機関銃だが、徹底的に防御を固める陣地に撃ち込んでも、思ったような戦果が挙がらない。

 弾丸の無駄撃ちを止めてウィルコックスは、迂回攻撃や近接しての爆弾攻撃に切り替えるも、アメリカ軍の防御は破れない。

 一旦攻撃を中止し、翌日も再度攻撃を掛けるが、突破出来る見込みが立たない。

「マーカム参謀、意見は有りませんか?」

 ウィルコックスが意見を求める。

「どうも数は敵の方が多いようです。

 ここはラハイナのアシュフォード将軍に増援を依頼しましょう」

「それは俺も考えた。

 だが、あの堅物は議会の命令が無いと絶対に軍を動かさんぞ。

 市街防衛ならともかく、出撃は議会の命令でしかしない」

「私を派遣させて下さい。

 議会を説得して来ます」

「良し、頼みます。

 馬を使って下さい」

「ありがとうございます。

 ですが、私が行くのはもしもの時用。

 多分、今頃は議会も決議を出したと思いますよ」




 マーカム氏の予想通りだった。

 ラハイナの王国議会からジョセフ・カホオルヒ・ナワフ首相(王族)、チャールズ・T・グリック議員(アメリカ系宣教師)、ウィリアム・H・リッカード議員(イギリス系砂糖農園主)、ジョージ・リカーガル議員(ギリシャ系実業家)がアシュフォード准将の司令部にやって来た。


「先日のアメリカ合衆国軍による停戦破りと中立宣言の都市攻撃、略奪、放火は国家として容認出来るものではない。

 これはアメリカ国籍を持つ議員も同意見だった。

 ……特に南部諸州出身の議員は許し難いようだった。

 そこで議会としては、議会防衛軍に出動を命じる。

 幕府軍と共同戦線を取るように」

「謹んで命令を受諾いたします。

 二、三質問がありますが、よろしいですか?」

「何だね?」

「宣戦布告は有りましたか?」

「女王陛下不在なのだ、出る訳が無い」

「では、宣戦布告無しでの戦闘となりますね」

「その通りだ。

 だが、現状既にそうなっているし、そうした責任はアメリカ合衆国にある」

「分かりました。

 次の質問ですが、王国守護の為に派遣されたフランス外人部隊……と言うかイタリア義勇兵ですが、彼等を伴ってもよろしいでしょうか?」

「よろしい。

 それと幕府から預かった日系人部隊も連れて行き給え。

 数はいくら居ても良いだろう?」

「いや……数が居ても足手まといになったら……。

 いえ、了解しました。

 それと共に、第三の質問は解決しました」

「何だったのかね?」

「補給の問題です。

 補給の協力をお願いしようと思いましたが、日系人部隊を使います。

 それと、鉄道の使用について、議会は所有者の許可を得て下さい」

「鉄道は今回役に立たないのではないか?

 あの鉄道は砂糖運搬用の小さなものだぞ」

「十分です、私は使用したいのです」

「分かった、議会の方で交渉する。

 では将軍、よろしく頼む。

 対抗する訳ではないが、幕府(ショーグネイト)の軍に王国軍は負けないところを見せて欲しい」


 幕府の日本人がほぼ不在で、1899年の戦役は動き始めた。

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