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停戦終了 ~愚かな選択~

「正直ここを海軍の秘密拠点とか、女王陛下の思いつきには呆れていたんだがなぁ……」

 ニホア城城代荒井郁之助海軍中将は呟く。

 確かに基地とは言い難い。

 陸揚げして整備するどころか、着岸して停泊も出来ない。

 海の上に飛び出している岩であるこの島を目当てに泊地とし、上陸には短艇カッターを使っている。

 だが、今はここに6千トン級、ハワイ海軍では最大の軍艦が停泊している。

 水雷母艦「ハウメア」である。

 水雷母艦は搭載量が多い為、カウアイ島から物資を載せてニホア島やフレンチ・フリゲート環礁、レイサン島という離島に輸送を行なっていた。

 それと同時に訓練も行っている。

 巡洋艦と海防戦艦が敵の装甲艦の前に歯が立たなかったのなら、結局魚雷しか手は無い。

 密かに訓練し、休養の為に上陸出来るのはこの辺しか無かった。


 訓練、編制は陸軍でも行われていた。

 幕府系で無い日系人は、子が生まれたり、民間移民業者経由で沖縄県民が入って来たりで、若干増えて9万人となっている。

 先日のアメリカ兵の暴走から、多くの志願兵が出たが、この扱いをどうするか。

 戦闘部門を外れ、軍務担当となった大鳥圭介が処理をしていた。

 選抜して約2,400人を兵士とする事に決めた。

 ……本来の雇用主である白人農園主や事業主から「出来れば職場に戻して欲しい」という泣きつきもあっての事だ。

 この中で、中年以上や体力の比較的無い150人程を幕府では「一代雇」として雇用契約した。

 任務はホノルルの市内警備である。

「我々の方でホノルル警備に当てていた部隊も前線に投入しないとならないから、後方を守って貰うならそれで良い」

 残る2,200人程は、マウイ島のアシュフォード准将に預ける事とした。

 大鳥は

「なるほど、いきり立っている今は、我々に協力したいと思っているだろうね。

 でも、前線で戦う為には訓練が必要だ。

 彼等は元々日本本国の徴兵とかを嫌って移民した部分もある。

 激しい訓練を科せば、我々幕府の方を恨むだろう。

 しかし、生温い訓練ではただ前線に弱点を置くだけになる。

 そこで、彼等から見て外国人のアシュフォード准将に鍛えて貰う。

 身内の甘えってのを無くしないと、我々も彼等も困る。

 ほら、商家なんかは自分の子供を自分の店で修行させず、他人の家に預けるって言うだろ?

 それと同じだよ」

 と言って、現時点での呉越同舟に甘えない事にした。


 いきなり2千人以上のド素人を預けられたアシュフォード准将も困った。

 だが大鳥との会談で

「出来れば前線投入しないで終わらせたい。

 それには中立宣言の王室の下で軍を統率する貴方に預けたい」

幕府(ショーグネイト)と呼ばれる社会で育った我々と、新政府(ニューガバメント)の下で育った彼等では合わない部分が多い。

 むしろ新政府はアメリカ合衆国の方に近い。

 彼等は幕府軍とせず、王国軍所属にした方が良いと考える」

 という考えを聞き、不安ではあるが預かる事にした。


 アシュフォードが軍事訓練を任されているのは、日系人だけではない。

 これまでハワイの混乱を生き延びて来た白人の中に、まるで南北戦争のようなやり方のホノルル破壊を見て不安を覚えた者が、議会防衛隊に加入して来た。

 二度に渡る反乱を起こした不名誉な「ホノルル・ライフルズ」を議会防衛隊と改めたアシュフォードの手元には、前よりもずっと少ない120人程の騎兵しかいなかった。

 ラハイナ守備隊はかつて反乱を起こしたサンフォード・ドールの兄で王政派のジョージ・ハサウェイ・ドールが長をしているが、彼は名目上の司令官で、実際の指揮はアシュフォード准将に委ねられている。

 アシュフォード准将が預かる兵は2,500人程となった。

 彼等を鍛えねば。


 アシュフォードに有難い味方も加入する。

 フランス外人部隊から、イタリア人部隊「ガリバルディ大隊」がハワイ王国へ加勢しに来た。

 ジュゼッペ・ガリバルディが土方歳三に会って興味を覚え、ガリバルディは「もしアメリカがハワイを無法に支配しようとしているなら、ナポレオン3世に抗したようにアメリカにも抵抗するであろう」と言い残した。

 そしてフランス陸軍の半公認、要は「見なかった事にする」の元に、ガリバルディの子孫を隊長とする部隊が駆けつけて来たのだった。

 思想的に幕府の下に入る訳にはいかず、王国政府の下に着く。

 彼等の中の士官が、日本人新兵をしごく。

 こうして日本人部隊「九十九(つくも)大隊」が作られた。


「大鳥、ツクモとは何だ?」

「99の事さ、今年が1899年だからそこから取った名前だそうだ」

「ナインティナインを『ツクモ』というのか、不思議だな」




 ハワイ島ヒロ。

 海軍の指揮官は、米西戦争で遊撃艦隊を指揮したウィンフィールド・スコット・シュレイ代将に決まった。

 彼は鉄道で大陸を横断し、カリブ海で旗艦としていた装甲巡洋艦「ニューヨーク」に追いつく。

 そして1899年4月14日の辞令で少将に昇進した。

 元々装甲巡洋艦「ブルックリン」も「ニューヨーク」も遊撃艦隊所属だった為、彼の起用は当然だったかもしれない。

 彼にはサンチャゴ・デ・キューバ海戦で「臆病者」の風評が立てられていた為、海軍省はハワイでの挽回を期待した。

 陸軍はチャールズ・パトリック・イーガン准将が指揮官となる。

 彼もまた不名誉を被っている。

 米西戦争の補給に、牛肉の缶詰を以て充てようとしたが、これが缶詰工場が未完成であった為に頓挫した。

 そこで冷凍牛肉を送ったのだが、これの防腐処理が不適切で、食した兵士は赤痢に倒れた。

 マスコミはこの陸軍のスキャンダルを大々的に書き立て、彼は意図的に腐った牛肉を送りつけた極悪人とされた。

 この「防腐牛肉将軍」に名誉回復させる為に、ハワイ方面軍の指揮官に任じられた。


 シュレイは泰然としていたが、イーガンは焦っていた。

 彼はクラブから追放されたり、名誉職の対象外とされたりし、このハワイ方面軍司令官も

「受けないならば軍法会議に出席して貰う」

 と言われての事である。

 ハワイに着任した彼は、一発逆転の作戦を立案し始めた。


「5月1日の休戦明け前に、中立のラハイナを攻撃し、女王を人質に取る?

 三重にルールを逸脱した行為で、誇り高き我等軍人のする事じゃないぞ」

「戦争にルールなんかあるものか!

 勝てばいいのだ」

「いや、勝ってもこれは悪名を残すし、失敗したら汚名の上塗りだ。

 この作戦はすべきではない」

「ではどうしろと貴官は言うのか?」

「それこそ4月末から5月1日までには増援が到着する。

 2万から3万の兵でこのハワイ島を占領する。

 そして艦隊が揃ったところで、更に増援を得て、5万から6万の兵でオアフ島を落とす。

 幕府(ショーグネイト)とやらを潰した上で、女王の政府と交渉する」

「まだるっこしい!

 どうせ女王と交渉するなら、先に攻めて手中に収めてからで良いではないか」

「それがルール違反だと言うのだよ!」


 19世紀、戦場にはまだ「騎士道」が残っていた。

 しかしこの分野でアメリカは先進国である。

 元々騎士なんて居ない国ではあったが、南北戦争の頃には世界に先駆けて「何でもあり」な軍事行動をしいている。

 民間人を殺し、敵の生産力を低下させ、継戦能力を奪う戦略破壊を自国の南部に対し散々に行っていた。

 一方でグラント将軍対リー将軍の会戦という古典的な戦争も好まれた。

 2つの価値観が混在していた時代と言える。


 南北戦争を経験した軍人には、軍人の規範とか戦時犯罪というものに無頓着になった者も多い。

 そのまま西部でのインディアン戦争を行い、無数の虐殺をして来た。

 この質が低く、人種差別的で虐殺好きな軍人は、フィリピンでも問題を起こした。


 アーサー・マッカーサーJr.は、本国からの細々とした補給にイラつきながらも、何とか自力でマニラ一帯を制圧した。

 そして何とかアギナルドのフィリピン共和国軍との戦いを優勢に運んでいた。

 そんな中で部下が暴走し、パラワン島で住民を虐殺した事から、モロ族の国・スールー王国との戦争に突入してしまった。

 モロ族は裸族で、蛮刀を振り回しながら突撃して来る。

 防御陣を築いたアメリカ兵は、物資不足もあってピストルで応戦する。

 しかし、心臓に命中しても彼等は死なない。

 そのまま突撃して来て、アメリカ兵を数人殺してからやっと死ぬ。

 モロ族の「1人1殺」という教義もあったが、何よりハワイでの戦いに続いて38口径弾の威力不足がハッキリした事になる。

 このモロ戦争の戦訓から、有名なコルト・ガバメント自動拳銃は38口径でなく45口径に変更された。

 38口径弾でも強装薬のマグナム弾が生まれ、357マグナムや44マグナムという物が開発される。

 それは後日の事として、マッカーサーが頭を抱える、フィリピンに第二の戦線が出来る事態となった。


 ハワイ島ヒロでは、結局シュレイ少将が折れて、停戦終了を待たずにマウイ島を攻撃する事となった。

 シュレイ少将は「ボルチモア」と「ニューヨーク」に出港命令を出す。

 情報の重要さに気付いたアメリカ軍は、ホノルル港を出撃する幕府艦隊の動向を探っていた。

 数日前に通報艦(水雷砲艦)「デュラハン」が出港し、西に向かった。

(カウアイ島にでも向かったのか?

 ハワイ島とは反対の方角だ)

 とチャーター船を出してまで確認した諜報員は、その事をヒロに送る。

 迎撃して来る艦隊は無く、おそらくラハイナを守るは水雷艇だけであろう、その判断の元に2隻の装甲巡洋艦と7千人を乗せた4隻の輸送船は4月28日にヒロを発った。


 ハワイ王国、ホノルル幕府ともにイーガン准将の攻撃に気付いていない。

 一方、イーガンもまた幕府軍の攻撃に気付いていないのであった。

第90話「決着」の後書きで書かないとか言ってたモロ戦争ですが、必要になったので書きました。

コルト’45開発のきっかけってより、こっちの鎮圧に10万人程動員しないとならず、ハワイはさっさと片付けるか和睦しろって流れになる為です。

既に作者たちのいる世界と歴史は変わり、米領サモアは消滅しました。

独領サモアがこれからどうなるか、それは置いといて、あっちの世界のサモアのラグビーは選手層倍で、更に強いかと。

つーか、ハワイもイギリス影響かなり強いままでいきそうなんで、アメフトよりラグビー強い国としてワールドカップ参加してそうだなぁ、とラグビー中継観ながら思ってました。

ニュージーランドのハカ、フィジーのシビ、トンガのシピタウ、サモアのシバタウみたいなウォークライ、ハワイも古式フラから持って来られそうですし。

まあ、ラグビーネタは書くとしても番外編かと。

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