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ハワイ島戦線(後編) ~土方歳三の呪い~

 ハワイ島を行くルーズベルト中佐のラフ・ライダーズは、まるで西部の荒野を駆ける騎兵隊の如しであった。

 敵対的な酋長軍の攻撃は軽く退け、中立な酋長からは食糧を貰う。

 そんな中、ルーズベルトは不思議なトーテムに気づく。

「それは?」

「ヒジカタ神です」

『ヒジカタ? 聞いた事があるが……』

『ハワイ王の護衛として、何度かアメリカに来た事がある日本人です。

 新聞で読んだ事があります』

『なんだ、日本人か』

 納得するとルーズベルトは、その木彫りの像を引き倒して足蹴にする。

「なっ……何するだァーー!?」

 その村では騒ぎになった。

「こんなものは迷信だよ。

 ほら、こんな風にしても私は何とも無い」

「アンタは知らないんだ!

 ヒジカタ神は確かに居る。

 その者黒き衣を纏いて、紅の大地に降り立つべし。

 悪しき事をした者は、外国に逃げても追いかけて殺す。

 ああ、恐ろしい……」


 ルーズベルトは「これが日本人信仰の核心か」と悟った。

 そして、この島にある全てのヒジカタ神を引き倒し、権威を崩壊させようと考えた。


 ルーズベルトの戦い方は騎行戦といい、英仏百年戦争の頃にエドワード黒太子が行った戦法に近い。

 ただ敵領内を闊歩し、領土の疲弊を誘う。

 エドワード黒太子は穀物生産量の激減とフランス王家への権威失墜を図った。

 ルーズベルトはヒジカタ信仰を崩壊させ、ホノルル幕府や日本人への尊敬を破壊しようとした。


 そして、それを読まれてしまった。




 立見遊撃隊は当初、ラフ・ライダーズの進軍を読めず、空振りを繰り返していた。

 だが、ラフ・ライダーズが通った後、ヒジカタ神とか、本人が聞いたらどんな顔をするだろうという神像が破壊されている共通点を見つける。


「敵は土方さんに恨みでも有るのか?」

「有るんじゃないでしょうか。

 かつてハワイから追放された白人で、土方さんか、土方さん率いる新撰組に恨みが無い人なんて居ないでしょうに」

「それもそうだな」


 立見尚文からしたら、土方歳三という人は冗談も言う、優しい人だった。

 無論、治安維持の行動時の恐ろしさは知っているが、戊辰戦争時の青年指揮官立見鑑三郎が会った土方歳三は今言われているような人では無かった。


 だが、

「ここは土方さんに協力して貰うとするか。

 まあ、俺がやるなら土方さんも笑って許してくれるさ」

 と言い

「工兵を集めてくれ」

 と副官に命じた。


 ラフ・ライダーズはある日、酋長軍ではない、正規装備の幕府軍と遭遇した。

 流石に幕府軍は強く、長時間の銃撃戦となり、幕府軍は日没前に撤退した。

「あれは敵の斥候かな?」

「でしょうね。

 近くに敵本隊がいるでしょう」

「ならば追いかけて、こちらから奇襲をかけるか。

 そうでないにしても、敵の斥候ならここに留まるのは危険だ」

 ラフ・ライダーズは乗馬し、敵を追う。

 敵斥候はとある山の稜線を越えていった。

 その山には、ちょっとした神殿があった。

「またヒジカタ神の像か……」

「他にロノ神、クー神のトーテムですね」

「カメラを準備してくれ。

 またやるぞ」

「おーい、カメラマンこっちに来い。

 あと縄を用意しろ。

 トーテムを倒すぞ」

「なあ、ここの地形、野営地に丁度良いな」

「中佐、今晩はここに泊まりませんか?

 高台にあるし、整地されてるし、いい感じですよ」

「よし、そうしよう。

 その前に、あの目障りなのを倒すぞ」

 トーテムの頭に縄がかけられ、引き倒された。


 その瞬間



 爆発が起きた。



 ヒジカタ神の土台には火薬が仕掛けられていた。

 敵の動きが読めない立見は、罠としてそういう「神殿」をあちこちに作っていたのだ。

 だから、敵がヒジカタ神を引き倒した時に爆発するのは、殺傷効果よりも敵の居場所を知らせる狼煙的な意味であった。


 至近距離に居て爆風を浴び、重傷を負ったのがまさか敵の指揮官だとは、思ってもいなかった。

 しかもそれが、次期副大統領候補だなんて……。


 近くに居た幕府軍から、狼煙の上がった「神殿」に向けて砲撃を始める。

 山がちなハワイでの戦いの為、持ち運びが便利な山砲と、弱装薬による短距離山なり射撃、稜線を越えての射撃を幕府軍は研究していた。

 その山砲が、偽神殿の真上から榴散弾を降らせる。


 爆風を浴びて気を失ったルーズベルトを運ぼうとしていた彼の友人たちは、榴散弾に頭を割られて倒れた。

 地面に投げ出された衝撃でルーズベルトは目を覚ます。

 そして自分の身がとんでもない事になっている事を知る。

 そして、周囲は指揮系統を失って混乱している事も。

 中佐として部隊を纏めようと試みた。

 だが、無情にも上空で榴散弾が炸裂し、鋭い破片と、内蔵されていた鉄球が降って来た。


「馬鹿な!

 こんな所で、このテディが……。

 大統領になるべきこのテディが……。

 このテディがァァァァ!!!」


 セオドア・ルーズベルトの死体はしばらく経って現地のハワイ人によって発見された。

 遺体を確認したアメリカ人は嘆き悲しんだが、ハワイ人は恐れ、地に伏して祈りの言葉を唱えた。

「ヒジカタ神だ。

 この切り刻まれた死体、ヒジカタ神の仕業だ。

 だから言ったじゃないか!」




 これは後日の話で、戦っている当事者の立見尚文は、小細工でそんな大物を仕留めたとは思っていない。

 尾根の偽神殿に居たのは敵の一部、残りはまだ登攀中であろう。

 部隊を集結させ、山岳戦闘に持ち込む。

「ナポレオン時代に生まれていたなら二十代で将軍」と言われた男の部隊と、指揮系統を喪失した軍では話にならなかった。

 倍のラフ・ライダーズは叩きのめされ、後退し始める。

「機関銃隊は、敵を邪魔せずに通過させる事。

 脱出可能と知った敵軍が密集したら、そこを後ろから撃て。

 オチキス機関銃の弾切れ時は、焦らず落ち着いて次の装弾板を嵌める事。

 全滅の必要は無い、相手には常に逃げられる可能性を残しておけ。

 窮鼠は追い込まず、逃げに専念した所を背中から撃て」


 かくして脱出口に形成された十字砲火集中点クロスファイアポイントは、背中を向けて通らざるを得ない為、多大な損害をアメリカ軍に与えた。

 セオドア・ルーズベルト以外にも、アイビーリーグを卒業したアメリカの頭脳がこの日多数、二度と帰って来なかった。

 目に見えないが、深刻なアメリカの国力低下である。


 楽勝でしたな、と言った部下を立見は窘めた。

 敵は今回、純粋な軍事とは関係無い意思を持っていた。

 それがヒジカタ神像破壊という行為に現れ、動きを読む事に繋がった。

 邪念無く、純軍事的に遊撃をしていたなら、今でも捕捉出来なかっただろう。

 また敵は長期間活動していて弾薬もそれなりに消耗している。

 それに対し我は会敵後、一撃で葬るつもりで弾薬を使いまくった。

 それ故に使用した火力量で我が彼を圧倒した。

 そして今回の功績は工兵隊に帰すもので、あの狼煙が無ければ砲兵も歩兵も、まだ山林を敵を求めて彷徨っていただろう。

「そういう事だ。

 そして弾薬を使い切った我等は補給を必要とする。

 追撃はせず、要塞に後退する」

「逃して良いのですか?」

「行き場所は分かってるだろ?

 途中経過はどうあれ、最終的にはヒロだ。

 ヒロを攻める支度はしてないし、今は引き時だ」


 こうして立見隊は目的を果たすとアッサリ引き上げた。




 ラフ・ライダーズの生き残りは千人ちょっとだった。

 立見隊の攻撃を逃げ延びたのはもっと多いが、ヒロに帰りつくまでに、力尽きたり、崖から落ちたり、敵対酋長に捕まってヒジカタ神への生贄に捧げられたりした。

 生き残りは、留守部隊のウッド准将にルーズベルト中佐が行方不明だと告げる。

 200人程の捜索隊を出したが、結果は破片なのか日本刀なのか、鋭いもので切り裂かれた無残な遺体が見つかった事だった。

 ヒロからアメリカ本土にセオドア・ルーズベルト戦死の報が飛ぶ。

 巡洋艦「オリンピア」ら4隻は弔砲を撃つ。


 ホノルルのジョン万次郎は、いよいよ病気で床から離れられなくなっていたが、新聞は読んでいた。

 大分遅れたが、万次郎経由で幕府は、アメリカの重要人物を討ち取った事を知った。

 立見らには褒賞、金一封が与えられた。


 報は比呂城にも届く。

 元会津松平家の武士道は古風だった。

 ヒロのアメリカ軍司令部に老武士が現れた。

 誰何する兵士に、その者はこう言った。


「自分は比呂松平家老職梶原平馬と申す者。

 敵対したとは申せ、敵将ろおずべると殿の討ち死にに対し、弔意を表すものなり。

 宗派は違えど、人を悼む気持ちは同じと存ずる。

 我等これより1日の喪に服す故、それを受け取って頂きたい」


 手紙だけを受け取り、様々な理由から基地には入れず門前払いしたものの、弔意を受け入れるとウッド陸軍准将、デューイ海軍少将の名で返答した。

 そして彼等は思う。

(我々が戦っているサムライとは何者なのだ?)

Tルーズベルトが死にました。

第26代大統領が彼になる事はありません。

つまり、日露戦争のポーツマス条約を主導する人物も消滅しました。

まあ日露戦争で言えば、第八師団長の立見尚文がハワイに居る以上、黒溝台会戦はどうなるやら。

てな感じで、もう歴史は大分変ってますし、同じような展開になる部分もあれば、ガラっと変わる部分も出ますので。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ルーズベルト死す! 最後をイラストで見てみたい欲望にかられる。 他にも史実でパワーエリートになったであろう人が大勢亡くなってるのでアメリカの今後が気になる。 [気になる点] ポーツマス条…
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