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米西戦争勃発

 時は流れる。

 「事実上の政権」ホノルル幕府も大分諸外国から認められ、何も問題の無い落ち着いた日々が過ごされていった。

 征夷大将軍ジョナ・クヒオの統治はあらゆる民に優しかった。

 というより、第十一代将軍徳川家斉時代の「庶民に干渉せず」で民間が成長したものと似ている。

 クヒオと政治方老中林忠崇は上院議員を兼任している為、議会会期中はラハイナに赴いて議員としても活動する。

 財政はリリウオカラニ女王自身が握り、幕府も独自の財源を持つ。

 軍事は幕府、外交は女王が行う為、内政は議会に諮問した方が良い。

 幕府は行政官は多数いるが、政治家と言える人材には欠けていた為、議会とも上手く付き合うことにした。

 議会も、政策に対し「不道徳」と言って批判をする宣教師党や、意図的に女王の政策を妨害して政情不安にさせる併合派が一掃された為、教育にいくら使うとか、病院にいくら補助金を出すとか、運河を掘削するとか、前向きな議事進行となっていた。

 1893年のモロカイ夏の陣が終わり、平和な4年が過ぎ去った。

 次なる嵐もアメリカ合衆国から発生する。




 大統領選挙でマッキンリー大統領が誕生した。

 あの関税法でハワイに波乱を起こしたマッキンリーである。

 そして事件はキューバから起こる。


 ハバナ港に停泊していた戦艦「メーン」が爆沈したのだ。

 調査の結果、配管の老朽化が原因と分かるも、新聞は主戦論を書き立てる。

 キューバを支配するスペインの陰謀と決めつけ、国民を煽る。

 議員から開戦を求める声が上がる。

 ついにマッキンリーはスペインに対し宣戦を布告する。

 米西戦争の勃発であった。


 ハワイ王国真珠湾は、宣戦布告前から大いに賑わっていた。

 スペインの太平洋側植民地にはフィリピンがある。

 そのフィリピンを攻略する為の輸送船団がアメリカ本国を発し、真珠湾で待機していた。


 その陸軍を無事上陸させるべく、ジョージ・デューイ代将率いる艦隊が香港で待機中だ。

 陣容は

・防護巡洋艦オリンピア 5,870t、8インチ砲4門

・防護巡洋艦ボルチモア 4,413t、8インチ砲4門

・防護巡洋艦ローリー 3,213t、6インチ砲1門

・防護巡洋艦ボストン 3,189t、8インチ砲2門

・砲艦ペトレル 3,000t、8インチ砲6門

・砲艦コンコード 1,710t、6インチ砲6門

 であった。

 既にハワイ海軍の優越は失われ、逆に突き放されている。

 この海軍を整備したのは、セオドア・ルーズベルト海軍次官であろう。

 海軍長官ジョン・D・ロング以上にルーズベルトは積極的に海軍を増強する。

 「新海軍構想」の元で徐々に整えられて来たアメリカ海軍は、このルーズベルトの政策で更に強化されようとしていた。

 ルーズベルトは太平洋方面の海軍が弱体な事を憂いていた。

 何故なら、太平洋の対岸に強力な海軍国家が出来つつあるからだ。

 大日本帝国は日清戦争後に海軍増強を始め、前年の1897年には戦艦「富士」と同型艦「八島」を就役させている。

 これに低速とは言え、清国北洋水師から鹵獲した戦艦「鎮遠」もいる。

 防護巡洋艦主体の戦隊では太刀打ち出来ない。


 だが日本海軍は太平洋の方を向いてはいなかった。

 ロシアがウラジオストクに軍港を作り、そこに艦隊を置いていた。

 まだ拡充の最中ではあるが、それでも1万トン級装甲巡洋艦「リューリック」と配備予定の装甲巡洋艦「ロシア」は日本海軍にとって脅威であろう。

 さらにロシアは清国より租借した遼東半島の先端にある旅順要塞(ポート・アーサー)にも軍港を作ろうとしている。


 日露が睨み合っている間に、アメリカも太平洋方面の海軍力を増強させる必要がある、それがルーズベルトの考えであった。

 だがそのルーズベルトは、米西戦争勃発と共に海軍次官の職を急に辞任する。

 戦争反対だからではない。

 戦争に参加する為に、だった。

 彼が整備した海軍の実力を試す上で、キューバやフィリピンのスペイン艦隊は「手頃で丁度良い戦争」の相手と見做している。

 ルーズベルトは海ではなく、陸で戦おうとする。

 彼はレナード・ウッド陸軍大佐の協力を得て、西部領域のカウボーイやニューヨークのアイビー・リーグの友人達を募って、第1合衆国義勇騎兵隊、通称「ラフ・ライダーズ」を編制し、米西戦争に一部隊長として参戦する事を選ぶ。

 そしてキューバに渡っていった。


 ルーズベルトは、マッキンリー大統領の米西戦争における、当初の煮え切らない態度を嫌悪していた。

 彼は思う。

(マッキンリー大統領、貴方は所詮ごく短い時間でしか考えない小市民の考え方をする……。

 『帝国主義的だ』とか『民意(ポピュリズム)に引きずられ過ぎている』だとか、便所のネズミのクソにも匹敵するその下らない物の考え方が、いずれ命取りとなるだろう。

 クックックックッ、このテディにはそれはない……。

 あるのはシンプルな、たった一つの思想だけだ……。

 たった一つ!『アメリカが世界を支配する』!

 それだけよ……それだけが満足感よ!

 過程や……、方法なぞ……!

 どうでも良いのだァーーーーッ)


 それ故彼は自ら兵を率いて戦う道を選んだと言っても良かった。


 宣戦布告は4月25日だったが、わずか6日後にはデューイ提督率いる太平洋戦隊が、モントーホ提督率いる7隻のスペイン艦隊を攻撃し、6時間の戦闘でスペイン艦隊は旗艦を含む3隻が沈没、4隻が炎上、アメリカ艦隊の被害は負傷者7名と圧倒的な勝利を収めた。

 マニラ湾海戦である。

 スペイン艦隊旗艦「レイナ・クリスティア」は植民地用の設計で、全体に装甲が無く、ボイラーに欠陥を抱えていた為10ノットしか出せなかった。

 海賊や密輸業者相手ならそれで良かったが、防護巡洋艦には勝てなかった。

 巡洋艦「カスティーリャ」も同様の、非装甲で海賊・密輸業者相手の設計であった。

 その上故障中であり、修理の為にプロペラシャフトが固定されていて、浮上砲台としての使用となる。

 巡洋艦「ドン・アントニオ・デ・ウロア」は故障中で機械装備の半分を下ろし、兵員も半数しか乗り合わせていなく、しかも陸側を向いた武装は全て外していた。

 巡洋艦「ドンファン・デ・アウストリア」「イスラ・デ・キューバ」「イスラ・デ・ルソン」と砲艦「マルケス・デル・ドゥエロ」はまともな状態で海戦するも、1000トン程度と小さく、搭載砲も小さく、アメリカ艦隊に歯が立たなかった。

 この4隻は全てアメリカ艦隊に拿捕され、アメリカ海軍の軍艦とされた。

 しかし小さい艦であった為、巡洋艦ではなく砲艦に、砲艦「マルケス・デル・ドゥエロ」は警備艇に格下げされての事だった。

 だが、内容はともかく緒戦の勝利はアメリカの士気を大いに上げる事になる。


 そしてデューイ提督はフィリピン独立運動の指導者エミリオ・アギナルドと会談し、彼と約1万人の兵士を味方につける。

 アメリカ軍ウェズリー・E・メリット少将の派遣軍は、正規軍5千人を含む2万人規模の部隊であり、1万人の独立軍を味方に出来た事は大きかった。

 ……悩みの種にもなったが。


 キューバ方面では、サンチャゴ湾にパスクワル・セルベラ提督率いるスペイン大西洋艦隊が入港し、サンチャゴ要塞の防御下で守りを固めていた。

 6月2日アメリカ海軍は、給炭船「メリマック」をサンチャゴ湾の湾口に自沈させる閉塞作戦を実行するもこれに失敗した。

 いよいよ陸上からの攻撃となる。

 7月1日、エルカネーの戦いとサンフアン・ヒルの戦いが行われ、要所であるサンフアン高地は一日で陥落した。

 この時ルーズベルトは、ラフ・ライダーズ連隊の中佐としてサンフアン高地の戦いを指揮して勝利し、念願の英雄となった。

 陸で負けて背後に危険を抱えたスペイン艦隊は、7月3日に脱出するも、アメリカ海軍に捕捉され攻撃を受けた。

 サンチャゴ・デ・キューバ海戦である。

 スペイン艦隊は沈没、座礁、降伏などで全滅した。

 サンチャゴ・デ・キューバ海戦に参加したアメリカ艦隊兵力は

・装甲巡洋艦ブルックリン 9,215、8インチ砲8門

・戦艦テキサス 6,316t、12インチ砲2門

・戦艦アイオワ 11,346t、12インチ砲4門

・戦艦オレゴン 10,288、13インチ砲4門

・戦艦インディアナ 10,288t、13インチ砲4門

 と、太平洋方面とは比べ物にならない強力なものだった。

 大西洋方面でアメリカに対抗出来るのは、やはりイギリス、フランスくらいであろう。


 カリブ海の制海権をもぎ取ったアメリカは、以降陸上兵力を上陸させ続ける。

 一方でアメリカは、キューバでもガルシア将軍率いる独立支持者によって援助を受けていた。


 サンチャゴ戦線で一躍英雄となったルーズベルトであるが、彼の目は別な場所を見ていた。

 太平洋の中央、ハワイである。

 制海権を奪い、フィリピンへの陸軍輸送は容易くなった。

 しかし、その中継地点としてハワイの真珠湾を使用する度に、高額の港湾使用料をハワイ王国政府に支払わねばならない。

 彼はこれを不合理と考えていた。

 既に前年、ルーズベルトは海軍戦略の大家アルフレッド・マハンに次のような手紙を送っていた。


『もし私に何らかの手立てがあるなら、明日にでもハワイを併合したい。

 もし併合できなければ、とりあえず保護国化するだけでも構わない。

 また、ニカラグアにすぐにでも運河を建設し、新型の戦艦を1ダースほど建造すべきである。

 その半分は太平洋方面へ配備する必要がある。

 新型戦艦は石炭積載量を増やし、その行動範囲を広げなければならない。

 私は日本の危険性をしっかりと認識している。

 私は日本がアメリカに好意を持っていることをよく知っているが、そうした気持ちを斟酌せず、ただちに行動を起こす心構えが必要だ。

 つまり、できるだけ早く戦艦をハワイに送り、星条旗を掲げなければだめだ。

 戦艦「オレゴン」、必要なら「モンテレイ」まで投入すべきだ。

 併合の理由づけは後でどうにでもなるのだァーーーーッ』


 そしてルーズベルトは、同様の意思を持つ議員が今や多数に上る事を知っている。

 ハワイ王国とホノルル幕府に最大の脅威が牙を剝こうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ルーズベルトが石仮面被ったみたいになってるw でも史実もこんな感じなんだろうねー。
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