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いや、国作るぞ!~ホノルル幕府物語~  作者: ほうこうおんち
変わりゆく取り巻く状況
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フランスの撤退

 フランス軍艦「デュプレックス」がホノルルに入港した。

 普仏戦争に敗れたフランスは、ナポレオン3世が失脚し、太平洋諸国政策もまた見直される事になった。

 新型軍艦の売却についてはキャンセルとなり、代わりに中古の軍艦を格安で譲渡となった。

 「デュプレックス」も廃船の予定だったが、まだ使用可能という事でハワイ海軍に譲渡された。

 その「デュプレックス」から、欧州に派遣されていた3人の日本人が下りて来た。


「藤田、よく戻った!」

 ホノルル新撰組1番隊長藤田五郎は、土方歳三と相馬主計の出迎えを受けた。

 同行した山川浩と立見尚文は、ハワイ陸軍の大鳥圭介の執務室に向かった。




「で、どうだった? プロシャはどう勝ったんだ?」

 土方はフランスがどう負けたかより、プロイセンがどう勝ったかに関心があった。

 藤田五郎は言葉を選びつつ、彼の解釈を語った。

「甲陽鎮撫隊を覚えていますかい?」

「ああ、忘れてねえ」

「俺たちが多摩で宴会してたら、先に甲府は抑えられた」

「ははっ、俺らぁの失態だったな。

 近藤さんなんか、大久保大和とかって旗本になったと祝ってしまって……」

「会津の戦いでも、母成峠や十六橋に敵の殺到を許してしまった。

 土方さん、それだよ」

「プロシャ軍の方が速かったってわけだな」

「俺はその戦いを直接見てはいねえから、後で聞いた。

 プロシャもフランスも数は同じくらいだったようだ。

 だが、必要な場所に必要な数を集めるのに、プロシャの方が速かった。

 だから常に先手を打っていたようだ」

「ようだ、とか、そうだって、なんか見て来た話じゃねえなあ」

「この島に居ては分からない。

 欧州に行く必要はあった。

 また聞きであっても、誰かが言った話でも、速度と量が違う」

 そう言って新聞を見せた。

「まあ、俺も読めないんだが、読める人に訳してもらうと、そういう事らしい」


 大鳥圭介は山川、立見とフランスの敗因、プロシャの勝因について話していた。

 そこで国民皆兵の話になったが、大鳥は首を振る。

「確かにそれは軍を強くするなあ。

 だが、この国でそれをやったら自殺行為だ」

「何故でしょう?」

「この国は移民をほぼ無制限に受け入れている。

 もし国民皆兵をするなら、今はハワイ人8万に対し、白人、華僑、日本人それぞれ約1万の比で兵士が集まる。

 だが、アメリカが移民をそれこそ万単位で送り続けて来たらどうなる?

 いずれは兵士の半数が白人って事になっちまう。

 さらにこの国は、将来は国籍を移すって前提で、二重国籍を認めている。

 これが曲者で、何年以内って年限を切っちゃいねえ。

 半数の兵士が白人、しかもアメリカ国籍も同時に持っていたなら、こいつらにアメリカから『ハワイを占領しろ』って命令が出た時、どうすると思うよ」

「なるほど……」

「ですが、その場合残り半数で鎮圧すれば……」

「華僑が俺たちの味方をする保証があるのか?

 それに、半数ってのはあくまでも仮定だ。

 もっと増える可能性だってあるんだぜ」

 山川と立見は黙った。

 深刻さに気付いたようだ。

「俺もフランスが敗れたって話を聞いて、国民皆兵って仕組みを聞いた時は、これだ!って思ったね。

 だが、それを元に計算してみたら、これはハワイの自殺に繋がっちまう。

 別なやり方を考えねえとな」

「例えば?」

「例えば、俺たち日本人は選挙権は要らねえ、大臣も出さねえ。

 代わりに、日本人が軍権を握る。

 って、こんなのはどうかね?」

「それは、武士の復活じゃないでしょうか?」

「まあ、そういう事だよ。

 あくまでも日本人本位で考えたら、こうなっちまった。

 そうじゃねえ、次善の策は今の志願兵制度になる。

 それでも日本人の応募が多過ぎて、蝦夷共和国関係以外は切られちまったがね」


 だがもしも、と大鳥は考える。

 日本人の4藩から1個連隊を出して貰う。

 王族、酋長の支配する民からも兵を出して貰う。

 王室直属で砲兵や騎兵を用意する。

 それを指揮運用するのは陸軍司令部になるだろう。

 では、その兵の交代や動員規模を決めるものは?

 その「軍政」を行う組織は、家単位・集落単位の軍な以上、酋長級をもって作られる。

 王の下、軍事に関わる酋長たちの会議、これは「評定衆」や「侍所」という組織ではないだろうか?

 嗚呼、俺はもしかして武家政権を作ろうとしているのか?

 時代遅れだという事がはっきりした、世襲大名たちによる連合政権を考えているのか?

 おかしな事だ。


 大鳥は首を振って、我に返る。

「国民皆兵の件は置いとこうか。

 武器についてはどうだったか、聞こう」

 打ち合わせは続く。




「榎本サン、本国カラ召喚命令ガ来マシタ」

 ブリュネが榎本に申し訳なさそうに語った。

「本国が戦争に負けたから、あんたら優秀な士官を外で遊ばせておくわけにはいかないって事だな」

 そういう榎本にブリュネは違うと言った。

 戦争に負けたのは確かで、否定しようがない。

 そのフランスに対し、アメリカが融資を申し出て来たという。

 それ自体は歓迎する事だが、アメリカはさらに条件をつけて来た。

 それがハワイ王国に対する軍事的な支援を引き上げるという事だった。

 新型艦の受注キャンセル、代替で中古艦というのも、その一環だった。


「ブリュネ大尉。

 お国の命令なら仕方ないさ。

 今までありがとうございます。

 ただ一点、お願いがあります」

「何デショウカ?」

「大鳥さんと話していたシャスポー銃の件です。

 紙薬包はやはり湿気の多いハワイで使う上で難しい。

 もしもフランスで、改良版が出来たなら、すぐに知らせて欲しい。

 支援って形じゃなくても、購入したい」

「約束シマス」


 かくしてフランス軍事顧問団は、短い任期を終えて撤収する事となった。




 「デュプレックス」という軍艦は、よくよく日本とは縁がある艦だ。

 まず下関戦争で長州藩と砲火を交えている。

 慶応四年には、この艦の乗組員が土佐藩士に殺害される「堺事件」の一方の当事者となった。

 同年、天保山沖で行われた日本初の観艦式に参列した。

 その後、箱館湾にも現れ、箱館戦争を観戦している。

 普仏戦争中は、プロイセンのコルベットを長崎に閉じ込めていた。

 この艦が、フランス海軍としては退役する為、縁のあった榎本に譲渡される事になった。

 

 排水量1773トン、速力13.5ノット、16サンチカネー砲10門搭載。

 装甲艦「カヘキリ」が沈没した「開陽」を置き換えるものだとするなら、「デュプレックス」は練習艦となる「回天」を置き換えるものだ。

 「蟠竜」と合わせて、3隻の蒸気軍艦艦隊が編制された。

 これでどの程度護れるだろうか?

(あと1隻か2隻は欲しい)

 榎本はそう思う。

 フランスが手を引く以上、もう少し戦力を整えたいと思っていた。




 1871年は普仏戦争の影響で、フランスがハワイから手を引くことになった。

 代わって、彼等幕臣たちと縁浅からぬ国がハワイと関係を深めることになる。

 明治4年8月、日布修好通商条約が締結。

 移民時の契約内容が異なる者の即時帰国、残留を希望した者に対しての待遇改善が盛り込まれた。

 不満を持つ者の帰国と、新たな移民が日本から来ることになる。

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