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巡洋艦「ボストン」来港

 ホノルル幕府は、王家の寛大な措置にも関わらずハワイの平穏を乱したとハワイ共和国を非難。

 そして「市民の安全を守る」と称し、陸海軍の出動を命じた。

 巡洋艦「マウナロア」、装甲艦「カヘキリ」、砲艦「カイミロア」の3隻の軍艦とチャーターした輸送船に兵員を乗せてラナイ島に向けて出撃した。

 この際、アシュフォード大佐と会談をする為、榎本武揚外国方老中が同乗する。

「指揮官は私ですからね。

 昔のように口出ししないで下さいよ」

 と海軍奉行荒井郁之助が榎本武揚に注文をつける。

「分かっているよ」

「分かっているなら大人しく船室(キャビン)に居て下さい。

 ここは艦橋(ブリッジ)です!」

「いやー、せめて風が当たる艦橋には居させてくれよ」

 そう言う榎本はマストを見て、寂しそうだった。

 前までは「丸に梅鉢」の榎本武揚の将旗が掲げられていたのだが、今は「丸に田の字」の荒井郁之助の将旗に変わっている。

 艦籍旗は相変わらず赤地に左上四分の一がユニオンジャックのハワイ王国船舶旗。

 国旗も左上四分の一がユニオンジャックのハワイ国旗だが、その下に「三つ葉葵」のホノルル幕府旗も掲揚されている。

 江戸幕府の軍艦旗は「日章旗」だったのだが、紆余曲折を経てそれは大日本帝国が国旗とした為、使用出来ない。


 およそ1日でラナイ島に到着。

 小舟を使って陸軍部隊が上陸した。

 そして榎本武揚が上陸し、アシュフォード大佐と握手をした。

「二個中隊、320人か。

 それに大砲が4門。

 十分だ」

「貴官に指揮権を委ねる。

 鍛えてやってくれ」

「おいおい、新兵(ルーキー)を預けられても困るよ」

「新兵じゃないよ。

 訓練は随分して来たが、世代交代した兵士で、実戦は今回が初めてだ」

「だから、それを新兵(ルーキー)って言うのだ……」

 だが一通り訓練を受け、アメリカ式とフランス式の多少の命令の違いがあるにせよ、使える部隊だった事にアシュフォードは安心した。

 問題は砲兵で、フランス式調練を受けた幕府軍はメートル法、アシュフォードらアメリカ民兵隊はヤード・ポンド法で、数字の伝達ミスがよく起きた。

 そこでアシュフォードは

「砲兵は自分たちで臨機応変にやってくれ」

 と自分が細かく管制する事を諦めた。


 軍事のすり合わせが済んだ後、アシュフォードはアメリカ国内の情報を榎本に報告する。

「では、アメリカは本気で介入する気は無いのか?」

「無い。

 ブレイン国務長官の暴走として、大統領も困っているようだ。

 だが用心しろよ。

 政府関係者でも無い私が、何故ここまで情報を入手出来たと思う?」

「普通の市民でも新聞で知っているという事か?」

「そういう事だ。

 細かい事は分からずとも、ハワイで関税法に苦しむ農園主が革命を起こす可能性や、それにアメリカがどう関わるかが論評されている。

 在ホノルル大使が海軍に、しきりに巡洋艦派遣を要求している事も書かれていた。

 ブレイン国務長官も海軍に派遣をねじ込んでいるから、この2人がハワイを併合するのではないかと、好意的に書かれている」

「好意的だと?」

「ああ。

 合衆国は外国を攻める事には、まだまだ反対の意見が多い。

 しかし、無血、あるいは少ない被害で勝ち取るなら話は別だ。

 奴らの企てが失敗すれば良いが、成功すればアメリカも方針を翻すかもしれない。

 そうならない可能性としては……今年の大統領選挙でクリーブランドが勝利する事だな」

「クリーブランド大統領は、故カラカウア王とも会った事のある人ですね」

「そうだ。

 親ハワイ派のクリーブランドが大統領に再任されれば、事態は変わる。

 そういう訳だから、外交を間違わないようしっかりやれよ、幕府の外務大臣殿」


 翌日、砲艦「カイミロア」はラナイ島に向けて銃撃を行っている民間船に停止命令を出す。

 民間船はそれを無視し、逃走に入った。

 所属旗、国籍旗ともに無掲揚、警告にも3度まで応じない。

 海賊船として「カイミロア」は砲撃し、モロカイ島沿岸まで追撃して、逃してしまった。

 残念ながら「カイミロア」の砲撃能力は全く高く無かったのだ。

 だが、乗員には逃げられるも、停止したその海賊船を砲撃し炎上させ、陸上から反撃に出た砲兵を艦砲で蹴散らした。

 これが「幕府対共和国」最初の戦闘とされるが、「カイミロア」はリリウオカラニ女王直属の軍艦で、海軍の指揮権一本化の為に幕府海軍に預けられていたものである。

 故に正しくは「王国対共和国」が最初の戦いだったのだが、細かい事はどうでも良く

「ハワイ共和国(リパブリック)日本軍(ジャップ)が戦争になった」

 とハワイ各地に伝えられた。


 そんな中、真珠湾に「USSボストン」が入港した。 




「一体どのようになっているのですか?」

 巡洋艦「ボストン」のギルバート・ウィルツ艦長は、出迎えに来たスティーブンス大使に問う。

「この国からハワイ共和国が独立した。

 私は合衆国の名代としてハワイ共和国と軍事同盟を締結することにした。

 本国には報告を入れている。

 だから議会の承認と批准はこれからになるが、現在は非常事態だ。

 共和国と同時期にホノルルで日本人ジャップが軍閥政権を立ち上げた。

 恥知らずにも、破廉恥な女王は軍閥政権を正当化した。

 その軍閥政権が軍艦を出して、共和国の沿岸を砲撃するという海賊行為を働いた。

 日本人ジャップの軍閥政権は、アメリカが正当な交渉で勝ち取った真珠湾の独占使用権を、不当に奪ってしまうかもしれない。

 時間は無い。

 卑劣な奴等が行動を起こす前に先んじて王宮を制圧し、手の内の女王の命令で日本人ジャップの軍閥政権を解散させ、正当なるハワイ共和国による我がアメリカ国民の救済を行わせるべきである」


(随分と修飾語の多い説明だな)


 ウィルツ艦長はそう感じた。

 「敵がそうするかもしれない」という可能性だけを理由に先制攻撃をかけ、一国の女王を拉致、脅迫してしまおうと言うのだ。


「一度本国に照会をかけます」

「艦長、君に一つ言っておく事がある」

「何でしょう?」

「私は合衆国の任じたもうた特命全権大使である」

「存じてます」

「大使は外国にあって、合衆国そのものと同等、大統領に代わる権限を有するものである」

「その通りです」

「君はこの地に在っては、私の指示に従わなければならない。

 分かるね」

「分かりますが、それと小官が本国に情報照会する事は別な話だと存じます」

「む……、その通りだ。

 君の行動を妨害する気はないよ、艦長」

「それではこれで」


 去って行ったウィルツ艦長の姿が見えなくなると、スティーブンスは大使館邸から本国国務省に直ちに連絡を入れる。

 ブレイン長官に、海軍への手配をよろしく頼む、と。


 ウィルツ艦長は本国海軍省から、現在入っている情報を得た。

 共和国と幕府ショーグネイトと呼ばれる軍閥政権についてはスティーブンスの情報は大体合っていたが、先に仕掛けたのは共和国の方だった。

 モロカイ島のハワイ共和国軍は、私的な恨みから同じアメリカ人のウォルター・ギブソン氏の農園を襲撃したのだ。

 幕府はギブソン氏の救援要請に応えただけである。


 だが、非が共和国側に有るという情報と矛盾するか、非が有ろうとも構わないと言うのか、

「新たな命令有るまでは在地全権大使の指示に従うように」

 という命令も出た。

 今ひとつしっくり来なかったが、差し当たりウィルツ艦長はスティーブンス大使の指示に従う事にした。


「それで、我々に何をしろと言うのです?」

「海兵隊は乗せているな?」

「もちろんです」

「何人いる?」

「将校入れて164人です」

「その全員を上陸させ、イオラニ宮殿に向かわせて欲しい。

 途中でホノルル・ライフルズという民兵組織と合流するから、指揮下に入れて欲しい。

 故あって、ホノルル・ライフルズの司令官は追放したから、指揮官が居ないのだ。

 それと、この『ボストン』は真珠湾から出てホノルル港に入って欲しい。

 そしてイオラニ宮殿を砲撃するのだ」

 ウィルツ艦長は驚いた。

「戦争をするのですか?」

「違う、革命を起こすのだ」

「誰による誰の為の革命ですか?

 もしハワイ王国国民の革命で、片方の勢力を我々が支援するとなると、内政干渉になりませんか?」

「ならない」

「どのような根拠で?」

「民主主義やキリスト教を守る正義の行動だからだ」

「そのような法など聞いた事が有りません」

「艦長、君は私の指示に従えとは言われなかったのかね?」

「言われました」

「ならば言われたように行動し給え。

 事が成就した日には、君だって英雄の一人だ。

 合衆国の為に働いた事になるのだ」


 納得は全くいかなかったが、彼は軍人であり、軍事行動を取れという命令を断る気も無かった。

 海兵隊を上陸させると、蒸気の圧を上げて出港準備をする。

 この一度停泊した艦が再度出港する為に罐を加熱する、その時間が偶然を生んだ。

 真珠湾湾口を出て、すぐ隣のホノルル港に向かおうとしたその時、見張り員が警告アラートを出す。


「東から巡洋艦と見られる艦影。

 三本マスト、煙突は1本、速力推定14ノット。

 おそらくこの国の『マウナケア』(クラス)

「来たか!

 総員、砲戦用意!」

「接近中の艦より、停船命令が発せられました」

「構うな。

 (ボイラー)は全力を出せ。

 ホノルル港進行はひとまず中止。

 まずはこの邪魔者を先に叩く」

「接近中の艦のマストにB旗が掲げられました」

「『これより攻撃する』のB旗か。

 望むところだ。

 艦を回せ。

 右舷戦闘準備!!」


 真珠湾湾口で海戦が起ころうとしている時、海兵隊やホノルル・ライフルズは合流し、深夜の宮殿急襲に備えていた。


 それに対しイオラニ宮殿では……

「各員、指示した通りに迎撃するように。

 以上。

 私は寝るから、指示と違う動きを見せたら起こせ」

 宮殿及びその周囲は、立見尚文率いる一隊が万全の準備で待ち構えていた。

(やる事全部やったから、俺にもう出番は無いな)

 と、この戦争の達人は欠伸をしながら思っていた。

(せめて俺の部隊に、奴等を殲滅させる命令でも出たなら張り切るけど、あの方の為の時間稼ぎも兼ねた防戦じゃ、俺の仕事は準備と作戦立案で終わりだ)


 軍靴を脱いで横になり、軍帽で目隠ししながら呟いた。

「さて、あの方のお手並み拝見といきましょう」

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