八話 花粉症
森の中にある村を見つけて、興味本位で立ち寄るトナカイたちであった。
「トナカイ、この村の人たち頻繁にクシャミとかしてるよ?」
「うむ、みんな調子が悪いんねぇ」
「トナカイも私も、病気とは無縁だよね」
「元気なのが一番なのよーん。せっかくだから村の人たちを治してあげるのよ!」
「おーっ!」
「「……」」
「すれ違いざまに診た感じでは、特に病気とかしてなかったのよ?」
「うーん、人間って健康なのにクシャミとかするものなの?」
「不思議なのよーん。もう少し調べてみるのよ!」
「トナカイの好奇心に火がついたね」
「と、言うわけで村人を一人連れてきました」
「ご苦労、なのよー」
「つい可愛い子に連れられて来ちゃった……」
「心配しなくてもいいのよー」
「悪いようにはしない」
「!? 何だかすごく嫌な予感が……逃げ「知らなかったの? リリーからは逃げられないって」きゅっ……」
「リリー、急に追いかけて気絶させたらあかんのよ?」
「はっ……ついうっかり」
「次から気をつけるのよー」
「気絶したまんまなんけど、早速調べるのよーん」
「ちょーっと待った! どうやって調べるの? ま、まさか服をひん剥いて……」
「普通に魔力を流し込んで調べるのよ?」
「それ、普通の人間にやっても大丈夫なの? 私でもトナカイの魔力を大量に流されたら、色んな意味で大変なことに……はっ!? 何でもないよ!」
「ふむー? 確かに流す量間違えたら、パーンってなるかもしれないのよ。そんじゃ久しぶりにアレを使うのよ!」
「そ、それはっ!?」
「うっ……あれ? 確かわたし、可愛い少女とぬいぐるみに連れられて……って何で縛られてるの!?」
「あっ、目が覚めちゃったのよー」
「暴れられると厄介だから、さくっとやっちゃおう」
「ひぃっサクッと殺っちゃう!? た、助けてぇぇ!」
「心配しなくても大丈夫なのよ。別に痛くはないのよ?」
「安心するといい。痛くはないし、一瞬で終わる」
「痛みを感じる間もない!? あぁ……父さん母さん先立つ不孝をお許しください……」
「別に死にはしないのよ? とりあえず、いくのよーん」
「トナカイが体の何倍もある大きく禍々しい形の槍を振りかぶった! 横から見てるだけでも怖い!」
「ひぃゃぁぁああ……」
「診断用ハルバードなのよ? 害はないのよー?」
「ずっと言わなかったけど、さっきまでのトナカイの言葉、この人には全然聞こえてないからね?」
「あっ、そういえば普通の人間にトナカイの言葉は届かなかったのよ!」
「分かったのよ!」
「おー、さすがトナカイだね。それで何が分かったの?」
「これは周りの木から出る花粉が、体の中で過剰に反応して起こる症状なのよ!」
「なるほど。むしろ頑張り過ぎちゃったんだね」
「うむ、早速対策するのよーん」
「おーっ」
「あっ、ちなみにさっきの村人は色々大変なことになってたから、いい感じにして適当な木の下に置いてきたのよ」
「乙女の尊厳は守られたね」
「この周囲の木の花粉が、問題なのよ!」
「なるほど。それじゃ全部薙ぎ払えばいいんだね?」
「そんなことしたら不毛の大地になっちゃうのよ! とりあえずリリゴンクローはしまうのよ」
「わかった」
「トナカイ特製、全自動花粉無効化ゴーレムなのよーっ!」
「おぉー、何だかかっこいい!」
「すんごい広い範囲の花粉を無害にして、人間の体に入っても何も反応しないようにするのよ!」
「すごいねっ!」
「ついでにとっても頑丈なのよ!」
「トナカイのつくるもので、頑丈じゃなかったことなんてないじゃん」
「確かにそうなのよー。この森の中でうろうろするように設定したのよ!」
「頑張ってゴーレム!」
「……」
「喋る機能はないのよ」
ある森の中で見かけるようになった謎の人影。
謎の人影が発見されるようになってから、原因不明のクシャミや鼻詰まりがなくなったため、村人はそれを村の守り神として崇めたそうな。
ちなみにトナカイとリリーの被害にあった村の娘は、当時の記憶が綺麗に抜け落ちており、毎日を楽しく過ごしたそうな。