六話 演劇
ある日、トナカイとリリーは旅先の大きな街に寄っていたそうな。
「トナカイー」
「どしたんリリー?」
「この街に劇団が来てるらしいよ!」
「ふむふむ、観たいのん?」
「うん!」
「そんじゃ早速、観に行くのよー」
「おーっ!」
「……すごかったね!」
「うむ、まさか舞台が爆発するとは思わなかったのよー」
「あれが、演劇なんだね! 私もなにか、やってみたい!」
「そうなん? そんじゃ二人でするのよ!」
「おーっ!」
「というわけで舞台を用意したのよ!」
「おー、本格的だね!」
「むふー、トナカイ頑張ったのよ! そんじゃ、演劇スタートなのよ!」
「むかーしむかし、あるところに、一人の女の子がいたそうなのよー」
「マッチ……マッチはいらんかぇ……」
「女の子は雪の降る寒い夜に、ぷるぷる震えながらマッチを売ってたのよー」
「はぁ……全然売れないよ。 このままではご飯が買えない……」
「一日に八回はご飯を食べる食いしん坊リリ……女の子は、しょんぼりしながらマッチを売り続けたのよー」
「ちょっとトナカイ! 私そんなに食べな「リリー、お芝居中なのよっ!」……ごめんなさい」
「女の子がマッチを売り始めてから一週間経ったのよ。一つも売れないマッチを悲しそうな目で見る女の子なのよー」
「一週間!? そんなに「リリー、お芝居なのよっ」ぐっ……一週間で一つも売れないなんて……このままではお腹が空いて死んでしまう」
「そんな少女に、一人の人間が歩み寄ってきたのよー」
「そこの少女、一週間ずっと見させてもらったーなのよ。なぜマッチが一週間に一つも売れないのか、分かるかねーなのよー」
「ずっと見てたの!? ……私の売り方が、悪いのですか?」
「それもあるのよー。さすがにこんな誰もいない川辺でマッチを売るのは、どうかと思うのよー」
「川辺だったのここ!? あとここで一週間も見てたの人間!?「リリー、まだお芝居終わってないのよ?」……それで、私はどうすれば」
「教えてしんぜようなのよー。マッチを売るには……」
「マッチを売るには?」
「街に行けばいいのよ」
「だろうねっ!? 何考えてたのさっきまでの私!」
「あとは、あなたの顔をマッチの箱に載せるといいのよー」
「えっ……それってもしかして私が美少女だから、それを目当てに買ってくれるとか……そんな恥ずかしい」
「生産者の顔が見えるのが、最近の流行りらしいのよ」
「そっち!? 恥ずかしい! さっきの発言を消したい!」
「むふー、心配しなくてもリリーは可愛いのよ?」
「えっ……そ、そんなこといきなり言うなんて、トナカイったらもう「そしてクライマックスなのよっ!」っぴゃぁぁ!? ステージが爆発した!」
「……こうして少女は幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし、なのよー」
「色々おかしい!」
演劇を色々勘違いしていた、トナカイとリリーであった。