三話 穴の奥には
穴の中はダンジョンみたいな所だった。
探索を始めたトナカイたちを、何が待っているのか。
「トナカーイ」
「どしたーん」
「探索、飽きた」
「早いのよリリー。まだ二時間くらいしか経ってないのよー」
「景色が! ずっと! いっしょーっ! 魔物は出ないしトラップもない、宝物もない! ただの道じゃん!」
「確かに何にも無くてずーっと同じ風景は飽きるのよ。リリーが変なテンションになるのも分かるのよー」
「探索はこのくらいにして、ちょっと休憩しよ?」
「わかったのよーん。 そんじゃ、ちょいとそこで待つのよー」
「うん? わかった」
「そして十年の歳月が流れた」
「それは流石に盛りすぎなのよリリー? まだ二日しか経ってないのよー?」
「長いよトナカイ! 二時間探索した後に休憩二日とか、それもうどっちがメインなのかわからないよ!」
「むふー、つい夢中になってたのよー」
「もうっ……後でもふもふ二日ね!」
「わかっ……二日はさすがに長すぎると思うのよ?」
「トナカイ」
「うむ?」
「私は二日もの間、トナカイに構われることなく過ごしたんだよ?」
「うむ」
「……ねっ?」
「わかったのよー。好きなだけもふもふしていいのよー」
「もふもふ二日、勝ち取った!」
「暇つぶしにーってあげた万歩計魔道具にテンションが上がって、二日ほどダンジョン内を駆け巡ってのは、見なかったことにしておくのよー」
「はうっ!? バレてた!」
「トナカイ、建築に夢中になってもリリーのことは見てるのよー」
「トナカイったらしれっとそんなこと……そ、それより何作ったの?」
「見たらわかるのよーん」
「それもそうだね。早速入ってみるよ!」
「うむ、こちらなのよーん」
「中はけっこう広いね!」
「うむ、頑張ったのよー」
「いっぱい扉があるね?」
「うむ、全て個室でトイレとベッドが備え付けてあるのよ!」
「泊まるのここ!?」
「気付いたらなんか宿屋みたいになってたのよ!」
「他には何かないの?」
「こっちに台所とー、あっちに大浴場を作ってあるのよー」
「大浴場! これは入らねばならないよトナカイ!」
「ちなみに混浴ではないのよー」
「それは別にどうでもいいや」
「おー、広いねトナカイ!」
「うむ、さすがにリリーのドラゴン姿では入れないけど、けっこう広く作ったのよ!」
「いいねっ! 早速入ってみよー」
「リリー? トナカイを抱えてどこ行くのん?」
「どこって、もちろん目の前の浴場だよ?」
「トナカイ抱えて行くのはどうかと思うのよ?」
「あっ……ごめんなさい。ついうっかり」
「うむ、いいのよ……リリー?」
「どしたんトナカイ?」
「トナカイの口調がうつってるのよ? あと、おてて繋いでいけばいいってことじゃないのよ?」
「えっ……? トナカイもしかして、お姫様抱っこで連れて行って欲しいの?」
「トナカイをリリーと同じ浴場に連れてくことに対して言ってるのよ!」
「えっ……トナカイ性別ないじゃん」
「そういえばそうなのよー」
「私も水着みたいなの着るから問題ないね? はい、れっつごー!」
トナカイを言葉巧み? に浴場へと連れ込むリリーであった。